第86話 夢見てきたこと
「本当はさ、紀伊と旅をして、紀伊に頼りがいのある大人の俺を見せてさっさと帰ろうと思ってたんだ、もっと紀伊と一緒にいたい気持ちが強くなる前にね。でも、紀伊は俺のことを愛してくれた。あれは嬉しかったな、でもいざ愛されてしまうと、本当の俺をどうやって表現すればいいのか、いつ本当のことを話そうか、すごく迷って・・・。」
見上げた秋矢の顔はいつの間にか辛そうな表情になっていた。
「はじめから秋矢様だって分かってたら絶対、男としてなんて見ないよ。だってずっと弟だと思ってたんだから。でも・・・今は男の人。すごく素敵な男の人。」
紀伊が微笑むと秋矢は頬に口付けた。
「なら、いいや。紀伊を俺にメロメロにさせたんだから。」
「ちょっと待って!何よ、秋矢様の方がずっと私にメロメロじゃない。」
いつものようにじゃれ合っていた二人だったが、息を吐くと紀伊はそんな秋矢を真剣なまなざしで見つめた。
言っておきたかった。
ちゃんと。
彼の名前を呼んで。
「秋矢様心から愛しています。」
周という男に持っていた疑念が消え、周への気持ちと秋矢への愛情が全て一つになると愛しくて愛しくて仕方ない存在になっていた。
「だから・・・私も貴方の重荷背負わせて。一人で背負わなくていいんだよ。自分が死んだ後のことなんて考えなくたって。覚えててほしいなんて悲しいこと言わないで!」
周は紀伊といて幸せな自分を覚えていて欲しいと言った。
そんな寂しい言葉、実行なんてさせたくなかった。
「前みたいに、ううん、前よりも一緒にいたい!秋矢様と一緒にいたいの!」
紀伊の言葉を聞いて秋矢は紀伊の唇に激しく口付けた。
紀伊も素直に従った。
秋矢の熱い舌を紀伊も積極的に受け入れる。
またお互いの鼓動が破裂しそうなぐらい高まっていることをお互いが感じていた。
深い口付けの後、紀伊は潤んだ目で秋矢に呟いた。
「私を秋矢様の妻にして。」
秋矢は泣きそうな目を紀伊から反らした。
「紀伊からそう言ってもらえること、俺、夢見てきたんだ。でも、俺は、多分父上に完全に勝つことなんて出来ない。きっと俺も死ぬ。だけど紀伊には幸せになって欲しいんだ。だから駄目だ。」
「幸せ?あなた無しで?ならこんな気持ちにさせないでよ!」
紀伊は横を向いて紀伊の最もな言葉に耐えている秋矢の頬に両手を伸ばすと、愛しそうに撫でた。
「愛してるわ。秋矢様。」
「紀伊俺も・・・。愛してる紀伊。」
秋矢は紀伊の方に向くと、柔らかい唇にもう一度口付けた。
そのまま紀伊の服を脱がし、自分の服を脱いだ。
秋矢は一年のうちに弟から、大人へと変わっていた。
それはただ紀伊を守りたい、その一心で。
秋矢の体は昔からは想像もつかない程、鍛えられ締まっていた。
紀伊へと伸ばすその手にも豆がたくさん出来ていた。
(あんなにすぐすねて、だだっ子だった秋矢様がどんなに苦労をしたんだろう。)
紀伊は激しく熱い行為の中で、その手に愛しそうに触れると秋矢はしっかりとその手を握った。
ずっと秋矢様の側にいたい。
ずっと側にいて欲しい、離れたくない。
この人は私の為に天から来た神様なんだから。
秋霖なんて存在、夢だったらこのまま一緒に、ずっと一緒にいられるのに。
お母さんと、お父さんも感じたよね?
ずっと一緒にいたいって。
二人一緒ならどんなことも怖くないのかな。
でもやっぱり私は恐いよ、秋矢様を失うことを考えたらすごく恐いよ。
私こんなに弱くなかったはずなのに。
愛する人ができてから、どんどん弱くなっちゃってるよ。
秋矢は紀伊に腕を伸ばしていた。
紀伊はそこにちょこんと頭を乗せて、秋矢の心臓の音を聞いていた。
トクントクンと正確に鼓動を打つ彼の心臓は生きていると言うことを証明してくれた。
秋矢は紀伊の茶色の髪に触れながら、何か考えているようだった。
紀伊はそんな秋矢に声をかけた。
「ねえ、秋矢様?これが終わって平和になったら色んな物見て歩こうね。まだ秋矢様が見てない物がたくさんあるよ。おいしい肉まん探して歩くのも悪くないね。」
「そうだね。でも、俺、紀伊みたいに肉まんいっぱい入らないよ。」
紀伊は秋矢の体に耳をつけ、そこから反響する秋矢の声を心地よさそうに聴いていた。
「でね、それが終わったら、二人で魔城に家を建てて、景色は・・・。」
紀伊の言葉を秋矢が遮る。
「もっと魔城に人間を集めて、大きな街を作りあげてやるんだ。そしたら景色も最高だ。」
秋矢は子供のように目をキラキラさせた。
「大きな街か・・・。」
紀伊も呟いた。
目の前に四国の王都の景色が浮かんできた。
「家には大きな花壇を作ってね、子供部屋には大きなゆりかごを置いて。そこには秋矢様そっくりの子供が寝ているのよ。」
「紀伊に似た方が嬉しいな・・・。」
秋矢は軽く笑った。
紀伊もつられて秋矢に笑いかける。
すると秋矢は額に口付けた。
「見たいな。紀伊と俺の子供。」
「見れるよ。だって、私達の寿命は長いんだよ?」
「そうだな。一緒に…長く生きような?」
その後二人は幸せそうに寄り添い、お互いの温かさを感じながら眠った。




