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第85話 大切な存在

魔城はいくつ私から大切な者を取り上げればいいのだろう。

どれだけ私を苦しめればいいのだろう? 

お母さん、お父さん、秋涼様、花梨様、大芝、柳糸、紅雷、紫奈、師匠、時鬼さん、さっちゃん・・・。

それに周。

私はどれだけ失えばいいのだろう。

一体あの「魔物の棲む城」にどれだけ奪われればいいのだろう。

私のせいだ。

私がみんなを巻き込まなければ、みんな捕まること何て無かったのに。

私がみんなの人生を狂わせた。

私、皆を助けるから、私がどうなったって、皆を助けるから。


「気が付いた?」

目の前には周が居た。

そこは見覚えのある平争の客人用の部屋だった。

紀伊はすぐに体を横に向けると布団をかぶった。

「私を殺すの?」

そう尋ねた心が痛んだ。

「どう思う?」

「訊いているのは私よ。」

また質問を返され紀伊は苛立ちを募らせて布団から飛び出た。

すると周の優しい目とぶつかった。

「俺が紀伊のこと殺すと思う?俺は紀伊しか見てこなかったのに?」

紀伊は周が何を言っているのか分からなかった。

「私・・・しか?何言ってるの?」

「最後に、紀伊との約束を果たしたかったんだよ。」

周は優しく紀伊の髪に触れて微笑んだ。

「覚えてる?僕といつか旅に出るって約束。僕に頼りがいが出来たら一緒に旅をしてくれるっていう約束。」

そうそれは魔城で数年前に軽い気持ちでした約束だった。

お土産を買い忘れた自分がダダをこねる弟分の機嫌をとるために言った軽い口約束。

「秋矢様。」

「うん。」

「そんな。」

紀伊は周と名乗った者の存在をやっと知ることが出来た。

いつも自分のそばにあった大切な存在。

気がつくと懐かしさや安心感、いろいろなものが去来して紀伊の目から止めどなく涙が溢れ出した。

「紀伊と最後にあったあの時、俺は覚悟を決めたんだ。俺は父上を倒す。例え刺し違えても構わない。紀伊が幸せに暮らせるようにね。その為に必死に幹部を説き伏せて、稽古をつけて貰って。透影に自分の成長を早めて貰って外見も成長したし、強くもなった。でも、それでも最後に紀伊と旅がしたかった。」

「最後って・・・。」

「紀伊の大切な者は必ず取り戻してやる。」

そう言って笑うと、紀伊の額に口付けた。

紀伊は秋矢の顔をしばらく見つめていた。

秋矢だと言われてしまえば秋涼に似た顔にも納得がいった。

けれど子供だと思っていた体つきはすでに男の体へと変化し、触れると気がつく服の下にある筋肉ももう大人の男のものだった。

「こんなに大きくなるなんて、こんなにしっかりしてるなんて、反則だよ。そりゃあ一目惚れもするよ。こんなにかっこよくなってたら・・・。」

「初めは紀伊のためだけに頑張った。強くなればなるほど紀伊を守れるって。でも俺が頑張れば頑張る分だけ途中から俺は父親の手のひらで舞っているような気がしたんだ、親父の駒の一つとしての価値しかないような気がした。世界を恐怖で支配するための手ごまの一つとして。」

秋矢は息を吐いた。

「だから俺は自分にけりがつけたい。父親なんて関係ない、俺は俺だって。そして紀伊が幸せに暮らせるように。きっと、兄上だって花梨様の時にそう思ったんだよ。だから封印した。今なら、兄上のことちゃんと分かる。」

紀伊は秋矢の手を握った。

すると秋矢はそんな紀伊を抱きしめた。


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