第81部 ややこしい人のさらにややこしい人
「なっち!」
「父上!どうしてここに!」
紫奈は砂鬼と昼食後の一時、木下で手を繋いで語り合っていた。
「え?紫奈のお父様?」
砂鬼た慌てて立ち上がると身支度を整え、紫端に駆け寄った。
「初めまして紫奈さんとお付き合いさせていただいております。砂鬼と申します。」
極上の笑みを見せると紫端は不遜な態度で紫奈の腕を取った。
「なに!この女狐!うちのなっちをどうやってたぶらかしたのさ。」
「父上、落ち着いて、たぶらかすなんて人聞きの悪い。」
「だって、なっち!なっちが好きなのはきぃちゃんでしょ?父上、きぃちゃんにお父さんって呼ばれたいよ!なんでこんな女狐と?髪の色が一緒だからって適当に決めちゃダメだよ。」
紫端は無理やり紫奈を引っ張って連れて行こうとした。
けれどもう片方の手を砂鬼が引っ張る。
「はあ?何それ!紫奈!私は紀伊ちゃんのかわり?」
「いいえ、違います!さっちゃんは紀伊とはまた別の魅力が!」
「なっちは優しいから!離せこの女狐!」
すると砂鬼は手を放し、横にあった斧を振り回した。
親子二人は血相を変えて、防御体制に入る。
「なんて乱暴な女だ!なっちには合わないよ!」
「うるせえ!」
すると砂鬼は野太い声で紫端を怒鳴りつけた。
「なっち助けて!」
紫奈は紫端に前に出され、初めて聞いたそんな声にすくみあがった。
「黙ってろ、このおっさん!いい年してそんな喋り方しやがって!」
「お・・・おっさん。初めて言われた。そんなこと!」
「父上、泣かないで。さっちゃんも言いすぎです!」
「おい、お前、どっちの味方すんだよ!」
「え?そ、それは・・・。」
紫奈が何も言えずにいると女の笑い声が聞こえた。
「茶番ね。ねえ、紫端。あなたの言っていた私の孫は、こんな男に引っかかるような子だったのね。」
すると紫端は顔を変え、紫奈と砂鬼を背中に庇った。
「付いて来たんですか。あとでちゃんと紹介するっていったじゃありませんか。」
「父上、あの女は。」
すると紫奈は呟いた。
「秋霖様の時に魔城にいた幹部・・・、私の母だ。」
「秋霖様の幹部。」
紫奈はその言葉で鞭を構えた。
けれど女は宙に浮いて首をかしげた。
「あら、あら、変な子達ね。どうして私に警戒心をむきだしにするのかしら。少し、お仕置きが必要ね。ちょうどいいわ、秋霖様から鬼族討伐の命も出ているし。」
すると殺気を感じた砂鬼は紫奈から一歩下がり、手を前に出した。
「さっちゃん!」
「砂鬼の名において命ずる!出でよ黄竜!」
するとものすごい速度で竜が口を開き女を飲み込んだ。
「これが、竜。」
呆然とする紫奈の横で砂鬼は汗を流した。
「ダメ、もたない!」
そして黄色の竜がはじけると同時に砂鬼の後ろに女がいた。
「久しぶりねえ。竜をみるのは。」
真っ赤な唇の端が持ち上がる。
それはとても不気味な笑みだった。
「逃げてさっちゃん!」
「黄竜!」
「遅いわよ。」
一筋の白い魔法が砂鬼の体を貫いた。
血があたりに飛び散る。
「さっちゃん!」
紫奈はかけより砂鬼の体を抱き起こすと、腕からは血が脈を打って流れ落ちた。
「さっちゃん、今すぐ癒しますから!」
けれどその首に刃物が当てられた。
また唇が持ち上がった。
それは歪んだというほうが正解なのかもしれない。
「ねえ、紫端、さっさとこの二人、魔城に連れて行かないと。こんな出来損ないにたぶらかされた孫もお仕置きしちゃうわよ。」
見下ろす女の手を紫端は強く握る。
「あなたの仕置きはいつも度を越えてるんだよ。・・・紫奈とにかく今は離れて。」
「父上!」
「離れろ!」
すると砂鬼も紫奈の体を押した。
「さっちゃん。」
「いいから・・・。言うことききな。ね?」
紫奈は首を振ったが、砂鬼はその場で力なく気を失った。




