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第76話 秋霖のたった一つ

「あれはどこへ行った?」

秋霖の言葉に碧という名を与えられた古参の男が前へと進み出た。

「王の命令を忠実に遂行なさり、各国に赴かれていると。」

「ほう。」

秋霖は目を細めた。

「かつての四国はなかなか気骨があったが、今は何の力もない。ただ結界を張っているのみ、その結界とて私の指一つで壊れるもろさ。何一つとして面白くはないな。あれには国を潰す面白さを教えてやりたいのだがな。」

「ご心配は不要かと。あの方は王の血を受け継ぐお方とお見受けいたします。」

そんな会話の中、一人の少年が姿を見せた。

あどけなさや幼さなど何も感じさせないただ美しい少年だった。

秋霖は愛する息子ではなく面白い駒の一つといった瞳で秋矢を見ていた。

「帰ったか。秋矢。どこの国へ行っていた?」

秋矢は王の前で跪き、頭を垂れた。

「平争へ。」

「面白い動きでもしていたか。」

すると秋矢は口の端を持ち上げた。

「いいえ、大したことは何も。取るに足らないことばかり人間は考えるものです。・・・さてと、母上の下へ行ってまいります。その後、少し休みます。」

「ああ、あれはお前のことを心配していた。顔を見せてやれ。」

「父上が復活なさって母上はよく笑っておられます。・・・母上にとって最高の薬は父上なのですね。では。」

そういうと秋矢は部屋から消えた。

「おや、王いずこへ?」

「私も彼女に会いたくなったのだ。邪魔をするではないぞ。」

「御意。」


「あら、旦那様。」

「父上。」

秋矢は後から現れた父親に頭を下げた。

秋矢は腕によりをかけて夕食を作る母を手伝うべく食器を持って歩いていた。

「もう少しお待ちいただけますか?旦那様。」

「よい。」

秋霖が椅子に座ると妻、(すずな)は昔と同じように酒を注いだ。

「今日は昔、旦那様がおいしいとおっしゃって下さった魚の煮つけなんです。」

「そうか。」

秋霖にとって彼女だけが特別だった。

初めて接触した人間だったからだ。

魔城を作り、共にこの地に降り立ったもの達とは違う、ただの人間。

長く生きていく中で何一つ楽しみのなかった自分の人生を変えてくれた唯一の人間だった。

だからこそ永遠の命を与えた。

そして彼女が産んだ秋涼も秋矢についてはその副産物という認識でしかなかった。

けれど彼女は違うようだった。

自分と夫との二人の血を分けたという理由で秋涼を愛し、秋矢を愛していた。

秋涼に裏切られた後でも、秋涼の命だけは助けて欲しいと泣いて頼んだのだ。

「その優しさが私達をまた引き離さねばよいがな。」

それだけ呟くと目を閉じた。


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