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第74話 騙された!

(あったかいなあ。)

紀伊は心地よさをさらに追求して体を動かした。

そこはとても心地よかった。

「俺、腹減ったよ。紀伊、そろそろ起きて。」

「ん〜無理・・・。」

すると耳元で声が聞こえた。

「お姉さん、起きないと俺だけご飯食べちゃうよ?」

「それも嫌〜。」

すると耳元でクスクス笑う声が聞こえて紀伊は薄く目を開いた。

見えたのは見慣れない青い着物。

紀伊は顔を上げるとすぐそばに顔があった。

ぼんやり見ると秋涼のような気がして甘えたくてその胸にもっと顔を埋めた。

すると男の手が紀伊の頭を撫でた。

「じゃあ、あと少しだけだよ。」

「うん。」


「あれ?」

目を覚ますと質素な茶色い木の天井が見えた。

目を動かすとどこかの部屋の一室だった。

そしてどれだけ記憶を辿っても室内にいる記憶はなかった。

(何?これ!私もしかして悪い奴に売り飛ばされた?)

慌てて布団から飛び出ると外へ出ようとした。

(私としたことが!最悪!大失態!)

扉を開けるとその先にあった青いものに鼻をぶつけた。

「いったああい!」

「紀伊!何してるの?」

周は両手に何かを持っていた。

「あなた私をだましたわね!」

「え?」

周は眉間に皺を寄せた。

ほんの少しの動揺を紀伊は見逃さなかった。

「私を悪いやつらに売り飛ばす気でしょう?おあいにく様!私、そんなに弱い女じゃないから!」

紀伊は蹴りあげようとしたがそれをかわされる。

「ちょっと待って!あのさ、両手塞がってるんだけど。」

「知らないわよ!」

紀伊がもう一度蹴り上げようとすると相手は全てかわして机の上に両手に持っていた器を置いた。

中には食事が入っていた。

(あ、おいしそう。肉まんだあ。)

紀伊が肉まんに目を留めると青い着物が目の前を遮った。

「あのさあ、俺、何回も起こしたの覚えてる?」

「知らないわよ!」

「自分が何時間寝てたと思うの?」

紀伊は外を見てみるともう陽は落ちていた。

「…薬でも盛ったの?」

「盛ってないし。俺、ご飯食べようって何回も言ったよね?でも、起きなかったのはどっち?」

「…そんなの知らない。」

「そ、じゃいいよ。」

すると周は一人椅子に座り肉まんへと手を伸ばした。

わざわざ紀伊に見えるように肉まんにかぶりつくと、物欲しそうな紀伊の顔を見上げた。

「あ〜。おいしいなあ。」

(た、食べたい。)

紀伊が寄ってゆくと、男は開いていた手で紀伊に肉まんを渡した。

そして紀伊が嬉しそうにかぶりつく寸前に声をかけた。

「それ食べたら、暫く俺、紀伊にくっついていくからね。」

聞き終わる頃には紀伊の口には肉まんの肉汁が広がっていた。

必死にそれを噛んでから紀伊は叫び声を上げた。

「ひ、卑怯よ!そんなの!」

「そんなに怪しいって思うなら、もらうなよな。」

「渡しておいてよく言うわよ!」

すると周はあいていた椅子を勧めた。

「もういいよ。座って一緒に食べよ?折角、買ってきたんだしさ。」

「仕方ないわね。」

紀伊は椅子に座ると夕食の献立を見て目を輝かせた。

「あ、この鳥の揚げ物大好き。食べていい?」

「俺の分、一つは残しといて。」

「うん。」

紀伊は嬉しそうに箸を持って一口口に入れた。

「おいしい。」

目じりを下げると男も目じりを下げた。

(悪い人じゃないかも…。)

「ん?」

紀伊は見ていたことを悟られたくなくて首を振ると次々に口に運んだ。


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