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第72話 厄介なお土産

「ねえ、ねえ、軌刃、どんなお土産喜んでくれるかな。これとか、どう思う?お土産として一番人気、『砂漠に立つ白虎』。」

紀伊は玄関に置いてあった木彫りの人形をもってくると花梨に見せた。

「…重いわよ。」

「ん〜。何がいいかなあ。」

「紀伊が来てくれたら嬉しいんじゃないかしら。紀伊だってそうでしょう?」

しかし、紀伊は満足できないようだった。

まるで子供のように家中の物をあさったり、本を読んだりして軌刃の喜びそうな物を探していた。

すると巳鬼が勿体をつけて瓶を前に置いた。

「仕方ない、持ってお行き。秘伝の鍋だが、鬼族が飲むなら分けてやる。」

(いらないし〜。これ。)

「ほら、お礼は?」

巳鬼の言葉に紀伊は小さく頭を下げた。

(あとで流しとこう。荷物になるし。)

その後ろで紅雷は足をばたつかせていた。

「俺も行きたい!行きたい!お兄様と紀伊と三人で遊びたい!」

「ほら、紅雷!秋矢みたいなこと言わないの!」

花梨の言葉を聞いて紀伊は窓を見つめた。

「秋矢様、元気かな?」

最後に会った時の秋矢の悲しい顔が心に浮かんだ。

最後の最後に少し秋矢の男らしさを知った。

今、彼はもう十六になった。

あの魔物の棲む城で。

「さあな。俺達は皆、こっちに来てるから、あいつ・・・一人だもんな。今度あったら遊んでやるか。」

紅雷もまた秋矢を思い出して少し寂しそうな顔をした。

「はあ〜家についちゃったあ。ああ、もういちゃいちゃできないね。」

「ええ。残念ですが。」

「ねえ、じゃあ、今日最後のチュウして?」

「もう、さっちゃんは甘えたですね。今日だけで、もう百八十九回目ですよ。」

玄関の向こうから聞こえた言葉に巳鬼が苛つき扉をあけた。

入り口の前で激しく口付けあっていた二人はその存在に気がつき慌てて離れた。

「鬱陶しいねえ。いい年して、何考えてんだい!」

「お前もだろ、ばばあ。」

柳糸の影に隠れるように呟いた紅雷だったが、柳糸がふいとどいた瞬間、杖が目の前に迫っていた。

「うわああ!」

重い音がした。



「じゃあ、平争に行ってきますね。」

次の朝早く、紀伊は見送りに出た花梨に手を振ると、柳糸に平争の国境へと送ってもらった。

「気をつけて。」

「うん!楽しんでくるね。」

紀伊が出てゆくと巳鬼は置かれたままになっている瓶に目を留めた。

「全く、大切なもの忘れて。まったく父親に似た子だねえ。」

巳鬼は新聞を読んでいた時鬼の前に置いた。

「え?愛する君。何かな、これ。」

「朝食に食べてくださいな。せっかく私が作ったんですから。」

時鬼は目の前の愛する女性の笑顔に笑顔で返していたが、その額には冷や汗が浮かんでいた。

そして隣で逃げようとしていた砂鬼を掴むと笑みを向けた。

「砂鬼、折角だから、君も飲むといい。」

「ええ?いや、私は。」

「仕方ないね。じゃあ、もっと持ってくるか。」

「待ってくれ、愛する君、もったいないからこれを二人で飲むとするよ。」

時鬼と砂鬼は処分するのを忘れた紀伊に殺意さえ覚えつつ瓶の蓋を開けた。

葉の匂いとカメムシのような悪臭が鼻孔を掠め、後ろにいた紫奈が部屋を飛び出し、透影は鼻をつまみながら本を読んでいた。

紅雷はいぶりだされるように自分の部屋から飛び出てくると新鮮な空気を求めつつその場で倒れた。


紀伊は昼になると黄金の稲穂に挟まれた一本道を進んでいた。

「はあ、綺麗。だって、軌刃が守ってる国だもんね。」

それだけでこの国は最強だと思えた。

「ま、真壁様っていう気持ち悪い奴さえいなければ、完璧なのになあ〜。」

しばらく進むと、道の端に植えられたご神木が見えた。

「こういうのも風情があるよねえ。」

遠くから眺めていたご神木に近づいてゆくにしたがってその松の根本にある大きな石の上に何かがあるのに気がついた。

(お地蔵さんかな〜。)

けれど近づいてゆくうちに、それは人の大きさをしたものだということに気がついた。

(あ、誰か座ってるんだ。)

「休憩中かなあ?のどかだねえ。」

紀伊はなんとなく前を通るときに、その人物へと視線をやった。

その途端、胸が高鳴った。

その神々しさに一瞬神様かも知れないとまで思った。

黒い髪に長いまつげ、水色の着物を着た青年で、その場で眠っているようだった。

しかし眠っているその姿からは何か強い気が出ていた。

(何この人・・・。)

紀伊は吸い込まれるように馬から下りて近づいた。

(生きてるの?)

のぞき込んでいると男がいきなり目を開けた。


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