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第71話 新章

「それで?その戦力でどうするというのです?」

平争の国王は突然の声に動きを止めた。

すぐ目の前に立つ男は笑みを浮かべていた。

目を見張るほど美しい顔には闇があった。

死しかないと感じさせるほどの鋭利さ。

けれどその使いの来訪など知りもしなかった。

魔城への対抗手段を講じていた会議に突然割り込んできたのだ。

隣にいた軌刃は腰に帯びた手裏剣に手を伸ばそうとしていたが、男はそんな軌刃の動きを封じた。

「あまり抵抗すると、この国、滅んじゃいますよ?一人も残らずに、血だって一滴たりとも残しません。」

そう言って首を傾け微笑む姿にその場にいたものは寒気さえ感じた。

たった一人の男の出現が、自分たちの底知れぬ恐怖を植え付けた。

「あまり、僕に悲しいことさせないで下さい。」

男は微笑むと王の冠を調え微笑んだ。

「死にたくなかったら、何もしない。これが一番ですよ。」

そしてそれだけ言うと消えた。


大芝が紀伊の前から姿を消して一年、紀伊は白虎の国にいた。

白虎の国に広がる砂漠を横断し、外套に積もった砂を払うと低い造りの家の扉を開けた。

中ではおいしそうな食事の香りが漂っていた。

「あ、いい匂い。ただいまあ。」

「俺、はらペコペコ。」

一緒に退治に行っていた紅雷はすぐに夕食を覗きに行った。

紀伊は外套を片付けると顔と手を洗い、鏡を見つめた。

そこには何も変わらぬ紀伊がいた。

周りで変わったことと言えば、あれ以来大芝を見なくなったということと、仲間に花梨と透影が増えたということだけで、自身としては何かかわったと感じることは何もなかった。

「はいはい、もうすぐ夕食ですからね。」

花梨が皿を並べていると部屋から地図を持った柳糸が出てきた。

「お帰り、二人とも。」

「何だよ。また仕事って言うんじゃないだろうな?」

柳糸はこの中で任務を請け負う仲介役に徹していた。

魔力を高め、長距離の移動魔法を可能にしたことから自分をそう位置づけたようだった。

そして各地で情報を集め、実働部隊を派遣するという収集役を担っていた。

その実働部隊として、紀伊と紅雷、紫奈と砂鬼この二組が組まれていた。

「あ、そうだ。今日行った村でこれもらったよ。お礼だって。」

「そう、じゃあ、明日煮て食べましょうね。」

「うん。」

紀伊が花梨に生魚を手渡すと後ろから声がかかった。

「煮物なら私の鍋もお食べ。」

「食いたくねえよ!あんな不味くて臭い鍋。ばばあ一人で食えよ。ってか、ばばあも働けよ。」

紅雷の言葉に紀伊達は危険を感じ端へとよって様子を窺うと、案の定紅雷は杖を振り下ろされた。

「いてえ!このくそばばあ!」

「口の聞き方をしらないヒヨコが偉そうに言うんじゃないよ。」

「ヒヨコじゃねえよ!」

永遠続く口論に飽きた紀伊が椅子に腰掛けると花梨がお茶を出してくれた。

「ありがとう。」

そしてその前に柳糸が座った。

「平争でも魔物が出てるらしい。わりに王都の近くだから、どうだ?久しぶりにあの双子の兄貴に会ってくれば。」

「え?いいの?行く!」

「お兄様に?行く行!モガッ!」

紅雷も話に寄って来たが、柳糸は紅雷の口を押さえた。

その顔はいつもと何も変わらない。

だから紀伊は何の懸念もなく、ただ双子の兄、軌刃へと気持ちを動かしていた。

「ああ、ちょっと急ぎらしくてな。明日の朝には出てもらいたいんだ。悪いけど人数の都合、一人で行って欲しい。」

「うん!いいよ、じゃ、支度してくる!軌刃喜んでくれるかなあ。」

紀伊は立ち上がると部屋へと走っていった。

紅雷は口を押さえていた柳糸の手を振り払うと睨んだ。

「何すんだよ!」

けれど柳糸の相手は紅雷ではなかった。

立ち上がると部屋で本を読んでいる透影に声をかけた。

「・・・本当に罠ではないんですよね?」

「さあ、私は面倒な人に頼まれただけだから。」

「答えになってませんよ。」

「あいつは面倒だけれど・・・悪い奴じゃない。貴方の元上司だ。」

すると柳糸はため息を付いた。



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