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第68話 弟分の誓い

紀伊はその夜眠ることが出来なかった。

ただ鉄格子の向こうにいる人型の黒い魔物を見ていた。

魔物は番人の役を全く果たせていなかった。

こっくりこっくりと舟をこぎ、何度か目を開けてはまた眠りに入っていた。

しかしそんな番人がいきなり倒れたのだ。

紀伊が驚いて起きあがるとそこにいたのは知った顔だった。

「あれ・・・?大芝?それとも・・・琉陽様?」

すると男は口の端を持ち上げた。

「お前からそんな名前が出るとは思ってなかったな。」

そう言って見せる微笑はいつもと変わらぬものだった。

それは先ほど過去で見た琉陽が紀伊には見せなかった顔。

「大芝!よくここが分かったね!」

「助けにきたぞ。怪我は?」

「無いよ。大丈夫。」

「そうか、よかった。」

大芝は軽く頷き、門番から鍵を盗み扉を開けた。

同時に紀伊は隣で眠っていた花梨達を起こした。

「どうしたの紀伊?」

「助けが来たんです!」

「助け?」

花梨は目を開け止まった。

そこにある姿はもう失って数十年立つ人の姿だった。

「琉陽様。・・・これは夢?」

(花梨様でも思うくらい大芝は琉陽様にそっくりなんだね。)

「花梨様、この人は大芝って言って、」

「とにかくここから出るぞ。」

大芝は紀伊の言葉を遮り何も言わず、走っていった。

花梨も紀伊もその後を夢中で追いかけた。

外に出ると秋矢が驚き悲鳴を上げた。

今から助けようと勇んで中へ入るところに鉢合わせしたようだった。

「え!何?出てきたの?」

「秋矢様!」

(本当に助けてくれるつもりだったんだ。)

自分のことを思ってくれる年下の秋矢の存在が愛しく思えた。

「ま、いいや、安全なところまで送るから。ん、苦しいよ。」

紀伊はただ抱きしめた。

きつく、きつく。

自分をどこまでも助けようとしてくれる可愛い可愛い弟分。

「紀伊?」

「ごめんね。秋矢様・・・。あんな辛い選択させて。」

「紀伊・・・。」

秋矢はそんな紀伊の背中に手を回し、ゆっくり目を閉じた。

「大好き紀伊。これだけは変わらないから。」

そう囁く声が優しくて、まだ少し小さな秋矢の体が妙に頼もしく見えて逆にそれが切なく思えた。

「私もだよ。秋矢様・・・。大好き。だから私のことは良いから幸せになって。」

「紀伊のいない世界に幸せなんてないよ。」

「あるよ。きっと、たくさん。だから、秋矢様は秋矢様の幸せを見つけて。」

「やだよ。」

「行こう、時間がない。」

大芝の言葉に秋矢は紀伊を突き放すとすぐに三人を魔法で移動させた。

泣き顔は見せたくはなかった。

「紀伊なしでの幸せなんて僕にあるもんか。」

掌を見つめながら今触れた紀伊の温度を思い出す。

悲しくもないのに涙が毀れた。

「紀伊。紀伊のためなら僕はなんだってするから。だから、紀伊こそ幸せになってよ。」

秋矢は悲痛な声を出すと、何かを堪え涙を拭いた。

振り返った顔は子供ではなく男の顔だった。

目の前には無表情な女がいた。

「透影。頼みがあるんだ。」

「私、男は嫌いです。」

「・・・嫌いでいい。紀伊以外の人に嫌われたっていい。覚悟はできてる。」

「そうですか。」

透影は息を吐くと秋矢と正面から向き合った。

「で?私に何をして欲しいのです?」


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