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第65話 彼は誰?

城には番犬がいた。

いつもの紀伊になれた番犬ではなく、闘志と牙をむき出したその黒い巨大な犬を見て二人は少し気おされて顔を見合わせた。

「他には?」

「こっち。」

紀伊は次に聳え立つ石の壁を指差した。

「これを登るのか?」

「大丈夫。私、これ昔から紅雷や秋矢様たちと登ってるからコツは掴んでる。」

「わかった。」

紀伊はまず一つ目の石に手をかけ、手早く二つの目の石に手を伸ばした。

後ろの琉陽も紀伊の手元と足元を確認し、壁を登ってゆく。

「大丈夫?」

「ああ、思っていたよりも楽だ。ありがとう。」

「ううん。これ、でも飛び降りるとき結構ドキドキするんだよね。」

すると琉陽は今まで登ってきた道を見て少し引いた。

「この高さから飛び降りるのか?向こう側に緩衝材が置かれていることはないのか?」

「あるわけないじゃん。飛び降りるドキドキを楽しむんだから。大丈夫、少し足の裏がジンジンするだけだよ。」

「あ、ああ。あの。それで君は魔物なのか?人間なのか?」

紀伊は大芝そっくりの男から聞く質問に少し考えた。

そして大芝が前に言ってくれた言葉を重いだして笑みを浮かべた。

『紀伊は紀伊だろ?』

散々自分を敵視した後、結局そういう結論を出してくれた大切な旅仲間。

「私は私だよ。魔物でもないし、人間でもない。私は私。」

けれど琉陽は答えの意味が分からないのか、ただ首をかしげた。

そして塀の上まで来ると紀伊は地面までの距離に少し身震いした。

自分の身長五体分くらいの高さを最初に飛んだのはいつだろう。


一番に飛んだのは紅雷だった。

紫奈は馬鹿らしいと飛ばなかったし、柳糸は心配して下で手を広げていた。

『紀伊、本当に飛ぶの?』

秋矢はそう問いかけた。

目には恐怖を浮かべていた。

『飛ぶよ!』

けれど紀伊は怖かった。

正直、負けん気だけで登ってきたけれど、飛び降りる自信はなかった。

『じゃあ、僕も飛ぶ。』

秋矢は紀伊の言葉に頷くと思い切って膝を曲げて飛び降りた。

取り残されるのも、秋矢に負けるのも嫌で、その後、すぐ紀伊は涙を浮かべながら飛び降りた。


紀伊は着地するととにかく花梨と秋涼がいた部屋に向かってみた。

つい先日まで自分もその場所で暮らしていたのだ。

間違えるなんてありえなかった。

そしてその部屋は確かに存在した。

「花梨様いつもここにいたんだけど。」

いつも優しい空気の満ちている庭には一つの花も咲いておらず、土が見え閑散としていた。

「何これ。訳わかんない。」

「迷ったのか?」

「あ、ううん。きっとこっち。」

紀伊がこっそり花梨の部屋の窓を覗くと、花梨が椅子に座っていた。

最低限の家具しかない部屋に錠をかけられまるで閉じ込められているようだった。

けれど幸い体を縛られたりはしていないようで、琉陽は一度安堵の息を吐いた。

そして紀伊と顔を合わせるとどちらというわけでもなく部屋の扉をこじ開けようと試みた。

鍵は結局開けられず、紀伊が扉を指差すと琉陽は分かったように立ち上がった。

扉に二人で何度か体当たりすると蝶番が衝撃で飛び、扉が開いた。

その音に驚いた花梨は立ち上がり隅へとよったが、聞こえた声に慌てて駆け寄った。

「花梨。」

「琉陽様!どうしてここに。貴方は一国の太子ではありませんか!」

琉陽は花梨の手を取るとその手を強く引き寄せ抱き寄せた。

一方、花梨の表情には後悔と恐怖の二つの表情が読みとれた。

そして花梨は琉陽の後ろに立つ紀伊に一度も顔を向けることはなかった。

(あれ?花梨様、私、無視?ちょっと、花梨様!)

「心配したんだぞ!何で危ないことばっかりするんだ!」

「ごめんなさい。琉陽様!ごめんなさい!」

花梨は琉陽の胸に顔をうずめ、隠すことなく思いっきり泣いた。

「お母様に会いたかったの!どうしても!」

「もう分かった。良いよ。さっ、行こう。」

琉陽は花梨から体を抱きしめながら外に行こうとした。

しかしそれは不可能だった。

「おい、花梨を何処に連れて行く。」

扉に立っていたのは紛れもなく秋涼だった。

ただ瞳にはいつもとは違う鋭利さを宿していた。

「妻は返してもらう!」

琉陽は恐れることもなく秋涼に剣を向けた。

愛する妻を守ると決めた彼は普段以上の強い心を持っていた。

「花梨は俺の女だぞ、連れてゆくなんて許さない!」

その強さが秋涼には腹だたしく思えたに違いない。

秋涼は怒りをむき出しにして、琉陽を睨みつけた後、琉陽の周りを爆破した。

(この秋涼様、意味わかんない!何でこんなに攻撃的なの?)

人にここまで攻撃的な育ての親を見るのは初めてで、紀伊は動揺を隠せなかった。

そして一つの答えを導き出した。

(まさかここは過去。だから死んだはずの琉陽様がここにいて、城の様子も少し違うの?)

そう思えば全て納得がいった。

(とにかく今は琉陽様を助けないと、このままじゃ死んじゃう。)

紀伊はとっさに秋涼に体当たりをした。


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