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第64話 ここは何処?私は誰?

「おい大丈夫か?」

紀伊は男に声をかけられ目を覚ました。

朝日が寝転んだ自分の顔にまぶしいぐらいに降り注ぎ、緑の草が顔に触れた。

そして目の前にいたのはいつもの見慣れた大芝だった。

(あれ、私無事なの?)

竜を秋霖にぶつけた後、自分はどうなったのだろう。

何の記憶もなかった。

(大芝がここにいるということは、自分が無事に逃げ出せたというわけで・・・。)

紀伊は安堵の息を吐いてから大芝に微笑みかけた。

「大芝。」

けれど紀伊に大芝と呼ばれた大芝はその言葉を聞いて眉間に皺を寄せた。

「何を言っているのだ?呪文か?」

「え?」

「言葉は通じるようだな。お前、誰かと間違えているのか?」

「え?大芝何言ってんの?もう!私、大変な目に遇ってたんだから!ふざけないで!」

「ふざけているのはお前だろう。それとも、これは魔物の幻覚の一種か?」

これほど意思疎通のできない男ではない。

(冗談でもなさそうだし。)

紀伊は首を四方に向けてからもう一度、男と目を合わせた。

そこにいるのはどこからどう見ても大芝。

髪の長さも、自分を見つめる目も、問いかける声も全てが大芝なのに、記憶だけが大芝ではなかった。

記憶が違うというのは容姿の見た目よりも紀伊に不安を覚えさせた。

「本当に大芝じゃないの?」

「違うといっている。」

「じゃあ、貴方は誰だと言うの?どうして大芝じゃないの?大芝でしょ?そう言ってよ!」

すると男は息を吐いて紀伊の瞳をまっすぐ見つめた。

「俺の名は琉陽だ。」

「琉陽?」

「そうだ。後にも先にも大芝という何なった覚えはないがな。」

男は言い切ってから紀伊の表情を伺っていた。

名前を聞いた紀伊は記憶の中にある「リュウヨウ」という響きを必死に探した。

それはさほど深くはない記憶の引き出しに入っていた。

「琉陽?あっ花梨様の旦那様?」

「花梨を!花梨を知っているのか!」

花梨という名前を聞いて大芝と瓜二つの男は紀伊に寄った。

紀伊はその琉陽の勢いに呑まれ安易な返答を避けることにした。

そして必死に頭の中を整理しようとする。

(え?何どういうこと?琉陽って死んだ人だよね?魔物に殺されて。何でこの顔で琉陽なの?どう見たって大芝でしょう!あ〜もう意味わかんないよ!)

紀伊は体を起こすと周りを見渡した。

すぐ側に黒くまるで光るような見慣れた魔城があった。

(私、さっきまであそこにいたのよね?じゃあ、今どうしてここに五十年前に死んだ人といるの?)

紀伊はどう考えをめぐらしても今自分の置かれている状況が全く分からなかった。

自分の状況を知るためには、相手のことを知らなければならない。

とにかくまず一つめの質問は、

「あの、あなたは生きていたんですか?」

「は?生きている?お前さっきから何を言っている?」

(貴方こそ何言ってるんですか?一体何これ。)

紀伊が理解に困り、黙り込むと琉陽は魔城を見上げた。

手っ取り早く紀伊を処理しようとしたのだろう。

「花梨を迎えにきた。花梨はここに母親がいると手紙を置いて魔城に行った。あの、じゃじゃ馬め・・・。心配ばかりかけて。」

「花梨様のお母さん?」

「ああ、花梨の母親は秋霖に無理矢理妻にさせられ、そこで花梨の弟を産んだという。花梨はその話を魔城から来た外務官に聞いて置手紙だけして朱雀国を出ていたんだ。」

紀伊は不思議そうに大芝そっくりの男の顔を見た。

(ん?秋霖の妻?花梨様に弟がいる?そんな話聞いたことない。)

琉陽の顔には焦りが見え、先を急ぎたいが紀伊をどうしたものかと悩んでいるようだった。

紀伊はもう少し知りたくて声をかけた。

「あのだったら、私も行きます。中・・・少しは案内できるかもしれないし。」

「本当か?」

「ええ。私もどうしてここにいるのか分からないから、行きます。」

その紀伊の言葉に琉陽は頷き、城に入った。


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