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第59話 肉を喰らう

「何か暇だね。私も大芝と一緒に外に行けばよかった!」

「よし!じゃあ、俺たちも外、探検するか!」

紀伊の隣で寝転んでいた紅雷は体を起こすと紀伊を誘った。

紀伊も頷いて起き上がる。

「うん!そうしよう!決定!」



暗闇の中で行われる行為に軌刃は驚きを隠せなかった。

ある程度の覚悟をしていたが、それは目も当てられない光景だった。

人が人を食べる姿など。

それは先ほどまで人のよさそうな青年だった。

けれど酔いつぶれた男を隅へと連れてくるとそれを屠ったのだ。

血が掌から流れ落ちて、地面に染みをつける。

暫くするとそこには被害者の衣服と血の跡しか残らなかった。

大芝は立ち上がると血で濡れた掌を舌で舐め上げた。

「人の食事・・・見て楽しかったか?」

声を掛けられ軌刃の肩が揺れた。

「いや、見なければ良かったと後悔しているところだ。」

答えたのは真壁だった。

そして軌刃より先に大芝の前に姿を現した。

軌刃も動揺しつつ大芝の前に姿を現した。

「お前、何者だ?」

「何者・・・?名乗りたくないな。」

「何だと。」

軌刃の手には手裏剣が握られていた。

けれど相手は恐れなかった。

ただ笑うだけ。

けれどどこかそれが悲しげに見えた。

「さてと、帰らないと。食事の約束をしてるんだろう。それとも、なんなら俺は席をはずそうか?今の見た後じゃ、食事も喉を通らないか?」

「ふざけるな!」

軌刃の怒鳴り声を大芝は気に留める風でもなく歩き出した。

追おうとした軌刃を真壁が止める。

「もういい、あいつは逃げないだろうし。」

「ああ、逃げる気なんてないさ。殺すならどうぞ。さてと、ちょっと、体流してくる。遅れるなよ。夕食。」

あまりに変化のない大芝の姿に呆然とする軌刃の肩を真壁叩いた。

「どうしたら・・・良いんですか。あんな男と紀伊が一緒にいるだなんて!」

「あれも魔物なのか。子猫ちゃんは知ってるのか。知ってて連れてるのか?」

「そんなこと!紀伊がするわけない。」

真壁の耳には人の足音が聞こえていた。

「とにかく行こう。人が来る。」

軌刃たちはその場を後にした。

すぐに人の悲鳴が聞こえた。

「俺・・・聞きます。紀伊に今のを話して、紀伊が分かっているのかどうか。」

「そうか。」


街に出ていた紀伊を見つけるのにそれほどの労はなかった。

仲間と街で楽しげにはしゃぐ声が聞こえた。

軌刃を見つけると紀伊は嬉しそうにかじりかけのりんご飴を前にだした。

「食べる?」

「あの・・・紀伊。紀伊と旅をしてるあの大芝っていう・・・、」

言おうとした軌刃はまるで金縛りにあったように動けなくなった。

まるで何かの重圧をかけられているかのような重さが自分を包み、汗が流れる。

「どうしたの?」

紀伊が不思議そうに首をかしげる。

「疲れたのかい?ひよっこ男子。」

巳鬼の瞳は軌刃をまっすぐ捕らえていた。

そのなんの動揺のない瞳で軌刃は悟った。

自分に圧力をかけているのはこの女だということに。

そしてそれを悟ると重圧は消えた。

「大芝がどうしたの?軌刃?」

「あ・・・いや。」

「そう?」

「よし!飯だ飯!」

「うん!お腹すいた!行こうよ、軌刃。」

「ああ・・・。」

そんな軌刃の隣を過ぎようとした巳鬼が囁いた。

「もう少し・・・待っておやり。大芝だって地獄にいるんだから。」

その日の夕飯に大芝の姿はなかった。


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