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第53話 主(ぬし)

自慢げに紹介した家では鼻が曲がりそうな程の異臭がしていた。

玄関の扉を開けるとさらに匂いがひどくなった。

なんともいえない泥のような草のような、そして硫黄のような卵の腐った複合的な香り。

「何だ?くっせえ。」

紅雷が鼻をつまむ。

その横で紫奈は以前、砂鬼のために食べて腹を壊したことを思い出して吐き気に襲われた。

紀伊はもうそんな匂いに気がつかないほど慣れていたが、やはり他の者は一歩も家にはいることが出来ないようだった。

「入って、入って。」

紀伊がどれだけ勧めても誰も靴を脱ごうとしない、仕方がないので紀伊は叫んだ。

「師匠!鬼族の方が見つかりましたよ!」

しかし返事は無かった。

「お師匠!」

紀伊が諦めず三度叫ぶと怒鳴り声が返ってきた。

「何だ!用事があったらお前がきな!」

砂鬼と八鬼は思わずその声をきいて顔を見合わせた。

「まさか、巳鬼様?」

「だろうな。」

二人の顔に焦りが見えた。

帰ろうと背中を向ける。

けれど時すでに遅かった。

「なんだい全く。」

巳鬼が台所の奥から姿を見せたのだ。

呼びつけられかなり頭にきているようだったが、紀伊の後ろにいる人々を見て一度目を細めた。

「なんだい、悪がきたちじゃないか。八鬼に砂鬼、お前達久し振りだね。上がりなさい。」

そう言うと異臭のする家の中に入るよう勧めた。

八鬼と砂鬼は観念したのかそそくさと靴を脱ぐと、家の中へと進んだ。

彼らは紀伊よりも巳鬼の恐ろしさ知っていた。

それを機敏な動きを見せ付けられた紅雷たちもいそいそと靴を脱ぎ狭い居間に入っていった。

居間には紀伊へと送られた花が所狭しと置かれていた。

「巳鬼様。お久しぶりでございます。お変わりなさそうで何よりです。」

八鬼が恭しく礼をすると巳鬼は頷く。

「うむ、八鬼、立派に働いているようだね。それに引き換え砂鬼。お前はまだそのような格好をしているのか。いつまでもそのふざけた格好をするのはやめろ。」

砂鬼の格好は別にふざけているわけでも無かった。

紀伊とそう形の変わらぬ、桃色の裳で纏めていた。

「申し訳ありません。ですが・・・。」

「口答えはいい。」

巳鬼はそう言い捨て、一言で砂鬼を黙らせると後ろの者たちを見る。

「魔城の者たちか、こんな面倒くさい時に。こんなところで油売ってる間があったらあの魔王どうにかしな。」

紅雷が何か反論しようとするが、柳糸がその口を押さえた。

そんな中、紀伊がお茶を持って入ってくる。

「師匠はえらい人なんですか?」

紀伊が巳鬼に訊くと巳鬼は気を遣って全員にお茶を配りつつ頷く。

「お前たちは全く敬う気が無いがな、これでも私はまじない師だ。」

「まじない師ってそんなにえらいんですか?」

紀伊が砂鬼に向かって訊くと砂鬼は顔を強張らせ、何度も頷いた。

その無知さに怯えるかのように。

「族長よりも偉いのよ。まじない師は特別な力を持ってるの。」

「分かった!風神だ。」

「その通り!」

砂鬼が親切にも教えてくれたが、巳鬼の咳により会話は中断された。

「さて、これでお前は生き残り全員と会ったことになる。これからどうするつもりだ?まさか、会うことだけしか考えていなかったのではあるまいな。」

「えっと、」

皆の視線は紀伊の顔に集中した。

(会うことが目標で。それ以外何かあるかって言われると・・・。)

紀伊は不意に何かを思いついたようだった。

「打倒!秋霖。」

「お前、我々の村には百人もの鬼族がいて滅ぼされたのだぞ。たった五人で何が出来る!」

紀伊は巳鬼のお叱りを受け、口を尖らせた。

「軌刃も入れて六人だもん。」

巳鬼が何か言おうとすると八鬼が膝を前に進めた。

「今各地で魔物が暴れ回っているという話を聞いています。それを退治されてはいかがでしょう?この都にも被害が出たということを何度もきいております。」

「魔物退治か。それならばこのひよっっこも力がつくだろう。有料の退治屋。金が儲かるな。」

巳鬼は嬉しそうに笑った。

そこにいたものは更なる雷が落ちることが無くなり息を吐き、ひとまず安心した顔になった。



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