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第51話 美形三人組

「さあ、王宮に行こうか。」

朝、女の子は特別一人部屋だと別の部屋を取った砂鬼が仕切って、まだ布団に転がっていた三人をたたき起こした。

砂鬼にいわれるまま用意を整えた三人は宿から出ると並んで歩いた。

「なあ、なあ、さっちゃんの唇柔らかかった?」

紅雷が天使のような笑顔を浮かべて聞く。

「まっ、まさか!君達見てたんじゃ!」

「いいなあ。初めての。」

紅雷がニヤニヤ笑うと、紫奈は紅雷の頭を本気で殴った。

「てえ、何すんだよ。」

「お仕置きが必要ですか?君は。」

紫奈の顔は微笑んでいたが、目は殺気を帯びていた。

気がついた紅雷は紫奈の気迫に押されると頭を下げた。

「いえ、一人で反省します。すいません。」

「よろしい。」

「言わなきゃいいのに、そんなこと。」

柳糸はそんな年下二人の様子を見てから目を上げた。


目の前には李国の王宮があった。

李国王宮はどの建物も木造だった。

そうして造るのがこの国の風土にあっていると柳糸は昔読んだのを思い出した。

漆喰の壁に全て朱塗りの柱。

「うわあ、目がちかちかする。」

紅雷は目をこする横で、砂鬼が三人の前にズイとでて門衛に尋ねた。

「あの、軍師の八鬼様は。私、親戚なんです。この髪の色見てもらえばわかるでしょう?」

「ええ?考えてた方法ってそれかよ?」

紅雷が目を見張ると、紫奈が紅雷の足を思いっきり踏みつけた。

「いってえなあ!」

そ知らぬ顔をする紫奈の胸倉を紅雷が掴む。

「おい、お前ら。」

止めようとした柳糸を二人は突き飛ばした。

いつものように喧嘩を始めるつもりだった。

「さっちゃんの計画は完璧です。」

「んだと?」

紫奈は視線を反らしていた。

「ってか、お前も心の中で突っ込んだんだろ?」

「まさか、『さっちゃんの計画は完璧です!』。」

「無理に言ってんじゃねえよ。」

「何が。」

「はいはい。お前ら。」

柳糸が二人を引き離した。

「入れるみたいだぞ。」

「ええ?」

二人が視線を門に送ると砂鬼が衛兵に連れられて中へと足を踏み入れ手招きしていた。

「何だよ。」

「言ったでしょう?『さっちゃんの計画は完璧です!』。」

勝ち誇ったように笑う紫奈は砂鬼の下へと走っていった。

「たまたまだろ?」

「まあ、入れたからいいんじゃないか?きっと計画なんて何もなかったんだろうけど。」

柳糸も笑いながら二人の後を追いかけた。

「本当にこれで紀伊に会えるのかよ。」

紅雷だけはその場に座り込んだ。


門衛に案内され、侍女に言われるまま待たされていると程なくして茶色い髪をした男が入ってきた。

けれどその色の優しさとは対照的に少し長い前髪から見えるきつい目が印象的な男は黒い軍服を着、腰から黒い漆塗りの鞘のついた剣を下げていた。

「砂鬼か、何十年ぶりだ?相変わらずだな。」

そう言うと無表情に椅子に座り、隣の柳糸たちに目を向けた。

「ああ、あのね。こっちは魔城の子どもたちなんだけど。鬼族の子供を捜してるらしいんだ。」

「魔城から?鬼族の子供?どういうことだ?」

砂鬼は八鬼に今までの事情を話した。

「なるほど。敵ではないのだな。しかし捜している人物にはまだ会っていない。本当にこっちに向かっているのか?」

「来てるはずなんだ!」

紅雷が乗り出すと八鬼はあごに手をあてて何かを考えこんだ。

「何か心当たりでもあるの?だったら教えて。」

砂鬼が訊くと、八鬼は部下を呼んだ。

「お前、最近、美人な歌い手を見たっていっていなかったか?」

すると軍服を着た若い人間が顔に満面の笑顔を作り答えた。

「ええ、もうすごい美人で。ほんまに天女のようだって評判なんです。もう、あの店、予約だって取れへんようになったし。名前も年も何も教えてくれへんあの娘が優しそうな茶色の目を緩めて笑ってくれた日にはもう昇天しそうになるゆうて。」

「そうか・・・もう良い。下がれ、」

八鬼は全てを察知したようだった。

一方部下の方は、そのことを思い出したようで、ウキウキとした顔のまま下がっていった。

「それだ!茶色で、歌がうまくて可愛くて天女みたいなんだったら。」

紅雷が乗り出す。

「可愛いとは言っておられませんでしたが・・・会う価値はありますね。」

「よし、行ってみるか、お前たち!」

張り切った若者三人組とは違い、ただ八鬼は椅子に深く腰掛け腕を組んだ。

「はあ、鬼族か・・・。厄介だな。」

「厄介ってあんた、鬼族じゃねえのかよ!」

紅雷が噛みつくと八鬼は紅雷を冷たい目で見る。

「魔城の者にはわからんだろうな、ひっそり身を潜めている人間の気持ちは・・・。」

「まあ、いいじゃん。あんたの大好きな忠鬼の子供だよ。」

ピクリと男の眉が動いた。

「忠鬼と雅鬼の間に生まれた双子ちゃん、それにその捜してる女の子、どうやら忠鬼の性格にそっくりだしね。」

八鬼は無表情で立ち上がった。

「まあ、いい。行くぞ。そこに。」


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