第5話 入国します
「よくいらっしゃいました。魔城の方々。」
まず見えたのは城塞のような巨大な門。
それが魔城と平争との国境だった。
出迎えてくれたのは老人。
不老の国に住む紀伊にとってはこれが初めて見る老人だった。
むしろ老人という概念が分からなかった。
髪が白いのも、顔が皺にまみれているのも全てもとからそういう人種なのだと思った。
そしてその老人より数歩下がったところに、たくさんの兵士と、一台の馬車が停められていた。
「柳糸、頼んだぞ。」
「はい。」
「紀伊もしっかりな・・・。」
紫醒の目が少し優しさを帯びる。
「はい、頑張ります。うっし!」
紀伊はニコッと微笑んだ後、平争の者たちを見て気合いを入れた。
人数で気おされるわけには行かなかった。
「では、参りましょう。」
紀伊たち一行は平争の国の老人に勧められるまま、馬車に乗り込んだ。
それと同時に紫醒の姿はどこかへと消えてしまった。
「ねえねえ。」
紀伊は自分の隣に座る柳糸の袖を引っ張った。
「ん?」
「何故、城まで魔法で行かないの?魔法使えば一瞬なんじゃないの?」
「時間的なものではね。でも、考えてごらん。相手にしてみたらいきなり王宮のど真ん中にこられたら気持ち悪いだろ?いつも見張られてるかもしれないって思われたら、もともと警戒されてるのにさらに警戒されてしまう。それに外交ってのは友達付き合いというわけでもないから、ある程度、その国に対する礼儀ってものが必要なんだ。」
「うざい・・・。」
紅雷は窓の外を見ながら吐き捨てた。
窓の外には田園風景が広がっていた。
まだ苗が植えられたところの水田は、朝日に照らされまぶしいほどの光を反射させていた
「礼儀かあ。うちの国にはないねえ。そういうの。」
「皆が家族みたいな国ですからね。」
「そうそう。なあなあだからね。」
紫奈の言葉に紀伊は口元を緩めると、紀伊は魔王秋涼を思い浮かべた。
(はあ、もう帰りたくなってきた。)
そしてそんな気分を変えるべく窓の外の光を眺めた。
(ダメダメ、甘えてちゃ!折角、外の国へ来たんだから色々勉強するんだもんね!)
けれどそんな紀伊はいつの間にか舟を漕ぎ、そのまま眠りに入った。
「寝たのか?」
紀伊の正面に座っている紅雷は紀伊の顔をのぞき込む。
「気持ちよさそうに寝てますね・・・。」
紫奈はフッと笑うと外を見た。
「しかし、兵士の数が多いですね。これが通常の範囲ですか?」
「我々は何と言っても魔物だから。」
柳糸は困ったように頭を掻きつつも余裕を持って外を見ていた。
そして独り言のように呟いた。
「平争は忍びの国、昔からこの国の兵士は最強といわれてきたんだ。人間の間では。」
「・・・所詮は人間。」
紅雷は腕を組み警戒した目をして回りに目を配った。
口に出さなくても紫奈の中にもどこかそんな思いがあった。
けれどそう言ってしまうと今の魔城の方針に背くことになるのであえて口には出さなかった。
一方、外務官として経験は浅くても人間と付き合うことを仕事として選んだ柳糸には決して仲間には持っていて欲しくない考え方だった。
「言っただろ?礼儀が必要なんだ。そんな目してたら相手に警戒される。まあ、我々の王が秋涼様に変わってからは、他国と交流を持つようになったけど、その前の代、秋霖様の時は本当にひどかったらしいからな・・・、魔物と感じられても仕方がなかったのだろう。人に植え付けられた負の感情なんて消せないものだから。」
魔城、初代の王は秋霖という男だった。
彼は数百という部下と魔物を連れ、この大陸を手中に収めようとしていた。
たくさんの命を奪い、たくさんの略取を行った。
けれどその蛮行を止めたものがいた。
息子、秋涼だった。
魔王、秋霖が魔城を作って数百年したあるとき、目に留め妻にした女が産んだ息子。
そしてその息子が秋霖に噛み付いたのだ。
今、その初代魔王、秋霖は息子に魔城の地下深くに封印され、大陸には穏やかな時が流れていた。
むしろ柳糸たちはそんな時代しか知らなかった。
そのため、今でもぶつけられる人の憎しみに理解できないことがあった。
「だからこそ、変えてかなくちゃな。」
「知るかよ。」
柳糸はそんな紅雷の言葉を聞いて呆れたようにため息をついた。
「はあ。面倒な奴だな。」




