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第47話 出せない手紙

この世界を破壊するのかというような大地震があって三週間したある朝、時鬼がある新聞の記事に目を留めた。

顔は険しいものだった。

「時空城崩壊か・・・。」

「時鬼さん!それ本当?」

紀伊は朝食を取っていた手を止め新聞の一面に目をやった。

そしてそのまま食い入るように記事を見つめた。

民の間では地上を浮遊する時空城はどこか夢の世界の産物だという想いがあった。

それが魔城に滅ぼされた。

直接関わっていないにしても気持ちが下降してゆく話だった。

紀伊は時空城が崩壊したというより、それを魔城が行ったというほうが衝撃だった。

「いよいよ本格化してくるな。これから国の様子はどんどん変わっていくんだろう・・・。」

紀伊の頭の中はそんな世界情勢よりも魔城の人々で一杯だった。

他国への侵攻がはじまったというのなら、秋涼たちが王座から下ろされたということ。

秋霖という父母を殺した相手にまた自分の養父が負けた。

そしてそれは紀伊の帰る家がなくなったということに等しかった。

帰りたいと願ってももう叶わない夢になるのだろうか。

(秋涼様、花梨様!お願い生きていて!皆!お願い!)

今の自分の能力では祈ることしかできなかった。


李国は四神ではなく初代国王を神としてあがめ、街の至る所に初代国王の石碑が建っていた。

国の歴史はまだ四五〇年程、比較的新しい国であった。

「李国の何処にいるかが分からないんだよな。さてどうしたものか。」

時鬼の言葉に紀伊はあたりをキョロキョロと探ってみたが、そう簡単に見つかるわけが無かった。

「ふむ。そろそろ路銀も底をつき始めたし、ここで人捜しがてら、路銀を稼ぐか・・・。」

「え?師匠どうやって?」

紀伊が何か特別なものを見せて貰えるのかと目を輝かせる。

しかし巳鬼は淡々と答えた。

「働くんだよ。わかったか?」

紀伊の顔が絶望へと崩れた。

(そんな悠長な・・・。大体、おかしいじゃない。私しか路銀持ってないなんて・・・。おまけに師匠が使いすぎなんだよ!)

「何か言ったかい?」

「い、いえ。」

紀伊が顔を反らすと紀伊の心が分る大芝は噴出した。

一方、時鬼があたりを見回して呟く。

「まずは家探しだな。このご時世、まだ仕事もない俺たちを入れてくれるところがあると良いが、大芝、お前一番普通の人間みたいだからな、お前捜してこい。」

「だ〜か〜ら〜普通の人間なんですって!」

大芝は笑いながら人が行き交う往来を歩いていった。


大芝が戻ってくるまでの間、巳鬼達は腕を組みながら昼食を食べに行くという、紀伊は一人だけその場に残された。

往来の脇に座り、道行く人々を見ていた。

人々は魔城の脅威を我が身と感じていないのか、ただ無関心なだけなのか声を上げて笑いながら紀伊の前を通り過ぎてゆく。

「皆。」

笑いあっていた幼馴染達は今頃どうしてるんだろう。

いつも甘える弟分は泣いてないだろうか。

「こんなことなら皆と一緒にいればよかった。」

勝手にあの居心地のよい空間が一生続くと思っていた。

紀伊は一人いつもの紙を出してむりやり自分の気持ちを引き上げようと試みた。

(秋涼様、花梨様ご無事ですか?私は李国にいます。しばらくここに滞在することになりそうです。路銀を稼ぐことになったので、暫く魔城には戻れそうにはありません。でも、私は元気で過しているので安心していて下さいね。)

紀伊はそうしたためると、出せない手紙をまた紙を鞄の中に戻した。

「会いたい。皆。会いたいよ。」

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