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第46話 紅雷の甘い考え

「秋霖が復活した・・・。」

花梨は伝わった振動で目を開いた。

後ろに控えていた透影も感じ取ったのか頷いた。

花梨はもう一度瞳を閉じて、いつも能天気に自分に微笑む男を思い浮かべた。

思い返すと胸が痛くなってゆく。

透影にはそんな花梨の気持ちが伝わっているのかもしれない。

「ご心配ですか?秋涼様のこと?」

「殺されるかも知れないのよ・・・。そりゃあ心配よ・・・。」

「花梨様・・・。」

「あの人だけじゃないわ。・・・あなただって、紀伊だって殺されるかも知れないわ。」

後ろに立っていた髪の長い女は細い目をさらに細め魔城の方を見つめた。

「おそらく一番に狙われるのはこの城でしょう。私の城には百名ほどの人間しかいませんからね。すぐ潰されます。ただ時間を稼ぐことはできるでしょう。とにかく花梨様は次の脱出先を。糸鈴や他の者たちのようにとにかく人の世界に避難をしてはいかがでしょう?」

「いいえ、私もここにいるわ。」

花梨の言葉に女は動揺することもなく目の前に跪いた。

「花梨様。」

「逃げても行くところは無いし・・・。秋涼の側にいてあげないと。あの子は私がいないと、どうしようも無い子だから。」

花梨はそう言うとぐうたらな秋涼を思い浮かべて微笑んだ。

また胸が痛んだ。

「・・・なら私も貴方のそばに。」

「透影。」

「あの・・・尚浴も命を捨ててもあの馬鹿城主からは離れないでしょう。ですから私も離れません。・・・貴方に助けていただいた命ですから。」

「・・・ありがとう。透影。」


「復活なさるですって?」

紫奈が目を剥いた。

目の前の柳糸は突然、紅雷、柳糸の前にふったかと思うと、頬に受けた衝撃のせいか、珍しく倒れこむという失態を年下二人に見せる羽目になった。

そして紫奈が気をきかせ、持ってきた水を一気に飲み干すと、自分の故郷へと思いを馳せた。

「で、父上や秋涼様は!皆はどうしてるんです!」

「ああ・・・お前の父親に殴られてここへ飛ばされた。後は何も分からない。」

「そんな!父上・・・。」

「すまない紫奈。俺だけ助けてもらって。」

「・・・いえ。」

「で、あのくそがき何してんだよ。あいつも逃げられたのか?」

紅雷の言葉に柳糸は首を振った。

そういえばあの騒ぎの中、紅雷のいう少年を見た覚えがなかった。

あの聡い少年が気づかないわけはないが、自分にも余裕はなかった。

だからこそ、予想の範囲で返した。

「いや・・・。秋矢様は母上のそばにいるのだろう。」

「あいつはどうするんだ。秋涼様につくのか、秋霖様につくのか。」

「そうですね・・・。秋矢様は父親に会ったことはないんです。そして秋霖様を愛する母親のそばで育った。ひょっとすると・・・秋霖様側ということもありえますね。」

紫奈の言葉が終わる前に紅雷は剣を抜き、刃にうつった自分の瞳を見つめた。

「親父・・・。」

紅雷にとっての父親は怖いけれど尊敬できる父だった。

自分の師であり、目標だった。

「今のお前が行っても無駄死にだぞ。」

これが秋霖でなかったら、きっと怒り狂っただろう。

けれどいくら本能で動く紅雷でも力の差ぐらい分かっていた。


三人がそれぞれに沈黙すると扉が少し開いた。

そこからは大粒の茶色の瞳が覗いていた。

「お話終わった?」

柳糸は女の声に驚いて紫奈を見た。

すると紫奈は扉を開き女を迎え入れた。

「さっちゃん、ごめんなさい。一人にしてしまって。」

「うんん、いいんだよ。ね、紹介して?」

「ええ。」

砂鬼は柳糸の前に立つと長い髪を耳にかけ、はにかみながら挨拶した。

「こんにちは。砂鬼っていいます。さっちゃんて呼んでください。」

「柳糸といいます。お騒がせしてしまってすいません。私はこの二人の保護者みたいな者で・・・。」

「あら、まあ。大人は好き。」

「さっちゃん、大人の男が好みなんですか?」

紫奈が当たり障りのない笑顔で訊くと砂鬼は意地の悪そうな微笑みを見せた。

「さあ、どうでしょう?もしそう言ったらどうするの?」

紫奈は何も言わなかった。

ただ何もいえない自分が悔しいのかそのまま唇を噛んだ。

すると砂鬼はクスリと笑って部屋から出て行った。

「お前、さっちゃんに惚れたのか?性悪同士で良いんじゃないか?」

そんな紫奈の様子を見て紅雷は窓に体を預けながら問いかけた。

「そんなんじゃ!少なくとも彼女はいい人ですよ!」

紫奈からいつもの笑顔が完全に消えていた。

「あたりか。俺ら女に免疫無いもんな。でもさっちゃんは・・・何かが怪しい!」

「だから。そんなんじゃ無いっていってるでしょう。」

「まあまあ、良かった。これで倍率が減ったからな。そうかぁ、さっちゃんかぁ。」

紅雷は笑いをかみしめて剣を収めた。

その後ろで更に柳糸が呟いた。

「でもな紅雷、紀伊が俺たちの気持ちに気が付くことなんて一生ないさ・・・。」


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