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第44話 自分の味方

紀伊の元へ向かった秋矢はその一瞬後、何かやわらかいものを感じて首をかしげた。

弾力の意味が分からなかった。

「きゃあ!何?」

頭のすぐ上から聞こえたのは紀伊の声。

「えええ?」

慌てて一歩下がるとどうやら秋矢は紀伊の小さな胸に顔を埋めていたようだった。

思わず、顔が赤らむ。

「や、あの。紀伊元気・・・だったか・・・な?」

自分のまさかの失態を取り繕うとしたが、秋矢の動揺は隠せなかった。

紀伊もまた突然の訪問者に驚き、そして慌てていた。

「秋矢様!一体何!何でここに!」

「あ、いや。あの・・・。どうしても心配で会いたくなって。」

一人で行きたいと言った紀伊に怒られることを予測していた秋矢は恐る恐る見上げた。

けれど違った。

紀伊は目にいっぱい涙をためて秋矢を見ていた。

「どうしたの・・・?紀伊。」

「ううん。顔見たら・・・安心して・・・。皆、元気?」

「あ・・・うん。」

紀伊には秋霖の復活はいえなかった。

「ねえ、秋矢様、辛い目にあってない?」

「それは僕が聞きたいよ。紀伊はどう?どうしてそんなに泣いてるの?」

「ううん。大丈夫。目にごみが入ったの。」

強がる紀伊を守りたくて秋矢は体を抱きしめた。

すると紀伊は笑った。

「甘えただね。秋矢様は。」

「うん。紀伊が大好きだから。」

男と見られてないから彼女に触れることが許されている。

それは重々分っている。

でもその特権を使えば紀伊の匂いや温度を感じられる。

それだけで充分だった。

「私も秋矢様が大好き、秋涼様も花梨様も・・・皆大好き。」

「兄上なんて紀伊がいなくなってから碁、三百五十九敗中なんだ。この前なんか紫端に髪の毛結われてるの気がつかないくらいだったし。幹部たちも上の空の兄上心配しちゃってさ。早く帰ってあげてよ。」

「そっか・・・。」

自分を囮にするために育てた秋涼よりも、幹部たちに遊ばれる秋涼の方が納得できた。

自分が知っている人たちはそういう人たちなのだ。

「だよね。何も知らない人が言ってること信じるなんてどうかしてた。」

「・・・紀伊。何言われたの?」

「色々。でも、秋矢様のおかげですっきりした。・・・ありがとう秋矢様。会いにきてくれて。」

秋矢は紀伊の体にうずもった顔を上げた。

紀伊は微笑んでいた。

「僕・・・紀伊の役に立てた?」

「うん、すごく・・・。すごく嬉しい。会いにきてくれたこと。」

「紀伊。・・・僕だって紀伊に会えたことすごく嬉しい。・・・もし何かこれから先にあってもずっと僕は紀伊の味方だよ。」

「知ってるよ。」

すると紀伊と秋矢はお互いの顔を見て目じりを下げた。

「じゃあ・・・帰るね。会いに来たこと・・・皆には内緒にしといてね。」

「本当に秋矢様は私がいないとダメだね。」

「・・・そういうことにしといてよ。じゃあ・・・ね。」

秋矢は小さく手を振ると消えた。

紀伊は秋矢のいなくなった場所を見つめて自分も振っていた手を戻した。

「ありがとう。秋矢様・・・会いにきてくれて。」


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