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第43話 緊急事態

「秋涼様!」

「どうした霜月。そんなに慌てて。」

魔城の内政を司る美しい男が珍しく脂汗を浮かべ走ってきた相手を寝転がり肉まんを口に運んでいた秋涼は上半身だけ持ち上げて見ていた。

けれど何処かで不安がこみ上げてきていた。

そして不安は的中した。

「封印が!封印がもうすぐ破れそうなのです!」

秋涼はその言葉に凍りつき持っていた肉まんを床に落した。

「何だと!もうすぐとはどれ位だ!」

「おそらく数日…。」

暫く言葉を失った秋涼の焦りは目に見えるものだった。

けれど、平素のように取り乱したりはしない。

静かに最良の選択肢を探っていた。

相手は最悪の相手なのだ。

秋涼の額からも冷汗が額から流れ落ちた。

「皆を集めろ。すぐにだ!」

「御意!」

霜月はすぐに消え、秋涼も息を吐くと思いついたように花梨の所へ向かった。

「花梨!荷物をまとめろ!」

「何、どうしたの?」

花梨はいつ帰ってきても迎えられるようにと紀伊の寝巻きを縫っていた手を止め、顔を上げた。

目の前の男は最近見たことがないほど険しい顔をして、花梨を見下ろしていた。

そのせいですぐに花梨も秋涼の気迫に飲まれてしまった。

「何が…あったの?ねえ、何?紀伊に何か!」

秋涼は何度も何度も首を振って花梨の肩を掴んだ。

「父上が復活する!」

「嘘。そんな。」

「こんな早くに結界を破るなんて。」

「秋涼、あなたはどうするの。ここにいればあなたは殺されるかも知れないのよ。ううん、絶対に殺されてしまうわ。」

秋涼は自分を見つめる花梨にニコッと笑うと額に口付けた。

「ここに残る。俺は魔城の王だ。父上を止めなければいけないからな。」

「秋涼!無茶よ!あの魔王は貴方よりずっと強いわ。それに前にはなかった貴方への憎しみだってもっているはず!」

「でもそうしなければ、またたくさんのものが殺される。紀伊だってここには帰ってこれない。」

「紀伊。」

「花梨、時空城に行け。透影ならばお前を救ってくれるだろう。」

「秋涼!」

「尚浴!」

花梨が叫ぶのと同時に、秋涼が違う名を叫ぶといつも笑顔の外務官が顔を強張らせて現れた。

「花梨を透影のもとへ。」

「御意!」

尚浴は一度礼をして花梨に触れた。

「待って!秋涼!」

何かを言おうとした花梨の姿が消えると秋涼は一つ息を吐き、歩き出した。


向かった先は母のいる建物だった。

顔をあわせることが嫌で避けてきた場所。

今はそうも言ってられなかった。

表には秋矢と紫醒が立っていた。

秋涼を見つけると秋矢の方から走り寄った・

「兄上、聞きました。」

「母上は?」

「いえ、まだ話してません。」

秋矢は首を振ると兄の顔を見つめた。

いつもふざけた顔をしている兄だったが、今日は見たことのない目をしていた。

強い意志の宿った瞳。

秋矢は思わず息を呑んだ。

「秋矢、お前、紀伊の気を探れるか?」

「紀伊の?」

「できるか?」

「…そんなこと、いつもしてます。」

「なら、悟られぬように結界を張ってくれ。」

「紀伊に危険が?」

「及ぶかもしれん。ただ父上の目下の敵は俺だ。俺に何かあれば、紀伊は守ってやれない。お前が紀伊を守れ。」

「はい。兄上。」

「で、母上は?」

秋矢は刺繍をする母の元へと連れて行った。

「母上、兄上が。」

女は決して秋涼に目を向けなかった。

「父上が復活します。」

その言葉に女は目を見開いた。

「花梨は避難させました。…ですが俺はまたあの父と戦います。俺の大切なものを守るために。」

「今度こそ…死ぬわよ。」

「大切なものがいなくなっても生きているよりもましですから。」

「あなたは自分の母にそれを強要したくせに。」

秋涼は一度頭を下げると部屋から出て行った。


一方、秋矢は部屋の中で紀伊の気を感じていた。

そして見つけた。

感じてしまうとどうしても会いたくなった。

「紀伊…。会いに行ったら怒る?」

秋矢はそれから部屋を見回した。

何か用事になりそうなことを、どんな些細なことでもいい、理由が欲しかった。

けれど何一つ見つからなかった。

「寝顔。」

気づかれなければ怒られない。

出てきた答えは一つだった。

「寝顔位ならいいよね。紀伊が眠りについたら起きることなんてないし。」

そう何度も自分に言い聞かせた。

そして思い切ってその場から消えた。

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