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第41話 知りたくなかったこと

「あれ青龍国の王都の隣が朱雀国の王都?何で?」

紀伊は不思議に思って地図を見た。

四国合わせた領土の中心にあるほぼ円形の王都は見事に東西南北に分割され、それが各国の王都として存在していた。

「ああ、もともと四国は一つの国だった。でも今から三千年前に四姉妹がそれを四つに分けた。そして一つだった王都も四等分してそこにそのまま王都を置いた。だからこうなったんだ。」

「大芝よく知ってるのね!すごいなあ。さすが四国、普通の国じゃないなあ。」

「まあ、四国って言ってももうこれが一つの集合体みたいなもんだからな。」

紀伊は感心し、国境に立っている国境警備隊を見た。

青龍国は青色の軍服であったが、朱雀国は赤色の軍服を着ていた。

それだけが唯一の違いに思えた。


紀伊はふと思い出した。

(そう言えば・・・花梨様は朱雀国のお姫様だと言っていた。どうして秋涼様と巡り会ったのだろう。)

紀伊は好奇心の固まりとなっていた。

自分の養父母のなれそめを調べてやろう。

そんなことを考えた。

「あの、私、図書館に行きたいんですけど。」

紀伊が巳鬼たちの馬に声を掛けると巳鬼の顔が歪んだ。

しかし紀伊はひるまなかった。

「どうしても調べたいことがあって。皆さんは先に休んでいて下さい。」

「そうさせて貰いたいのは山々だけどね。お前一人にしておくと何をしでかすか分からないからね。駄目だよ。私達は先を急ぐんだからね。」

巳鬼にあっさり却下された途端、更に調べたいという衝動に駆られた。

(駄目だと言われればますますやりたくなるのよ。)

紀伊は一人でメラメラと、やる気を起こし燃えていた。

大芝はそんな紀伊のことを見てため息をついた。


紀伊は夜になって一人こっそり宿を抜け出した。

巳鬼と時鬼は二人で一部屋に篭ってしまっていたし、同室の大芝は酒場へ行くと姿を消していた。

(こんな絶好の機会はないんじゃないの?)

紀伊は一人笑いを噛み殺しながら、街を歩く。

生まれて初めての本屋を見つけるのはあまり苦労しなかった。

看板に大きく赤で本の字が書いてあったらだ。

紀伊は店にはいると歴代の王様の家系譜を捜した。

何冊かある本を手に取りそれをペラペラとめくってみる。

そして最後の方に書かれている花梨の名を見つけると興奮して変な汗をかいた。

とりあえず、詳しく書いてありそうな本を選ぶと、いつも大芝が行っているように料金を払いに行った。

どの貨幣がいくらか把握していなかったが、店の者は紀伊の顔を見て、親切に紀伊の手のひらから貨幣を取ると、おまけしとくよ、と言ってくれた。


紀伊が微笑みながら礼を言い店を出ると夕日が正面に見えた。

そして夕方の通りは人が溢れて活気に満ちていた。

(これが花梨様の育った国。)

こんな景色を見ていれば、魔城の殺風景さが寂しく思えた。

「こんな国にしたいなあ・・・。って花梨様もおもうよね。」

紀伊は買い物に満足し、皆にばれないように宿屋の庭で本を開いた。

「何々・・・。へえ花梨様は大臣のおうちで育ったのね、その後皇太后の養女になって、へえ、皇太后の養女ってなれるものなの?」

紀伊は独り言をぶつぶつ呟きながら更に本を読み進める。

「養女になったのが十歳で、十七の時に皇太子、琉陽と結婚。しかし結婚後まもなく琉陽は魔物に襲われ亡くなり、花梨様は行方不明になった・・・。」

紀伊そのまま止まった。

(花梨様の夫は魔物に殺された?)

家族を魔物に殺されたものの憎しみはこの前、巳鬼を見せつけられた。

(それなのに・・・なのに・・・何故、今は秋涼様と一緒なの?行方不明って何?)

紀伊の頭に透影の言葉がふと聞こえた。

『大切な家族をあの冷血な男に殺された憎しみがあった。そしてあの城主への想いがあなたを苦しめていた。その気持ち、もう捨てられたのですか?』

確かに透影はそう言った。

(冷血な男、じゃあ、秋霖様が花梨様の夫を?だって秋涼様は私が小さい頃から人間と共存するって言ってたもの。殺せるわけない。でも花梨様が秋涼様を愛しているなんてとても思えない・・・。じゃあ、花梨様は何のために秋涼様と一緒にいるの?行方不明ってどういうこと?花梨様は秋涼様のこと恨んでるの?復讐しようとか・・・思ってるの?)

紀伊は本を閉じて、隣に置く。

緑色の紙で装丁された本は紀伊に大きな疑問を投げかけた。

本当は皆、美しい仮面をかぶっているだけなのだろうか。

自分は操られているのかも知れない。

鬼族が集まれば、一網打尽に捕まえ殺されてしまうかも知れない。

本当に魔城を信用していて良いのか。 

紀伊は自分の体を抱きしめた。

(恐い。)

こんな風に考える自分が恐くなった。

色々なことを知れば知る程自分の頭の中は混乱し、善悪の区別がつけられなかった。

まるで今まで一本道を歩いてきたのに、自ら進んで林の中に飛び込んだ様な感覚。

紀伊はその本を持つと部屋に戻ろうとした。

けれど次に耳に入った言葉がさらに紀伊に追い討ちをかけた。

「魔物だ!」

紀伊はその言葉にびくつき、肩を揺らした。

男たちが路地へと走ってゆく。

紀伊は振り返ると走り出した。


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