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第36話 族長の息子

王都は今まで見た中で一番活気に溢れ、呼び込みの商人達の声がひっきりなしに聞こえていた。

「お嬢ちゃん、かわいいねえ。おまけしとくよ。買っとくれ。」

紀伊は声をかけられ、いそいそとそちらへ寄って手を伸ばそうとした、けれどその手を大芝が取って前を向かせる。

それが数歩毎に繰り返される光景だった。

「すごい。めちゃくちゃ都会ね。」

紀伊は口をあけながら街を見ていた。

都を突き抜ける大通りには街路樹が等間隔に植わり、多くの商店が店を開き、道には行商人が商品を並べていた。

「わ、おいしそうな揚げ菓子。」

また紀伊がわき道にそれると巳鬼の杖が紀伊の頭へと飛んできた。

「急げ、日が暮れる。」

まだ正午を過ぎた時間だったが、巳鬼は何かとても急いでいた。

まるで一大事とばかりに早足で王都の横道に入ってゆく。

都のはずれの廟についたのはそれからしばらく後のことだった。


廟はかなり古い物らしく元々の装飾ははげ、土が露出していたが、手入れが行き届いているのか塵などは一つも落ちていなかった。

巳鬼は転がるように馬をおり、手鏡で自分の姿を点検すると何度も呼吸を整えた。

「師匠?」

もう巳鬼の耳には何も入ってこないのか、答えることなくただ廟へと駆け込んでゆく。

それはいつもの彼女からは想像もできない姿だった。

全てを諦めたように見えた目も今は紀伊に負けぬほど輝き、血色も良くなっていた。

「ど、どうしたのかな?」

「さあ、あの婆さん、何かの発作でも?」

紀伊と大芝も顔を見合わせ、何事かとすぐに追いかけた。

次の瞬間、見たものに二人は言葉を失った。

「きゃあ、あなた。会いたかったわ。」

いつも無表情だった巳鬼が笑顔一杯で男のもとに走っていったのだ。

男も竹箒で掃除をしていた手を止め、巳鬼に向かって手を広げた。

「会いたかったよ、巳鬼。ああ、愛する君。」

巳鬼と男は笑い声を上げながらずっと抱き合っていた。

男は長身痩躯で、茶色の目に茶色の髪。

「この人が四国にいる鬼族?」

「だろうな・・・。」

「まさか師匠の恋人・・・?」

「それ以外何に見えるんだ?」

巳鬼と男は所構わず接吻していた。

見ている二人は、その間中どうしようかかなり悩み、視線を反らしたりしてみたが、怖いもの見たさでそちらに目をやると男と目があった。

「愛する君、お客さんか?」

「ああ、そうなのよ。あなたに遇わせたかったの!あなた、今日は珍しいお客さんを連れてきたのよ。」

巳鬼は今まで聞いたことの無かった女性らしい、そして可愛らしい声で紀伊達を紹介した。

「何と雅鬼と忠鬼の娘なのよ。」

「本当か!あのうまれたてだった『ちび』か。」

男は本当に嬉しそうに巳鬼の顔を見て、走り寄ってきた。

そしてじっくりと紀伊の顔をのぞき込む。

「目は父親の忠鬼にそっくりだな。ん、口元は雅鬼か・・・。懐かしいな。よく忠鬼は君の手伝いをする雅鬼にちょっかいかけて君にとっちめられてたが・・・あいつらが親になって、その子供がこんなに大きくなるとはな。時代が経つのは早いものだな。」

「あら、あなた爺臭いわよそのせりふ!もう。」

「ははは、そうだな。君を見ると若い気分に戻れそうだ。今日は離さないよ。愛する君。」

(何・・・この人たち。)

「あの・・・すいません、父と母をご存知で?」

「覚えてないか。お前たちのおしめだって替えてやったんだぞ。まあ、小さかったからな。私の名は()()だ。」

すると巳鬼が男の肩に寄っかかりながら残念そうに喋った。

「鬼族の族長の長男で、次期族長だったんだよ。覚えてないのかい?仕方ないねぇ。」

(鬼族の次期族長。偉い人?)

紀伊はもう一度時鬼の顔をじっくり見つめた。


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