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第34話 恋なんてもうしない

紀伊は暫くぼんやりしていたが思い出したように鞄をまさぐった。

「折角、時間があるんだしね。」

部屋の隅に置かれた大きな黒い布鞄から少し黄ばんだ堅い紙を出すと墨を擦り、小筆を持った。

「えっと。・・・秋涼様、花梨様お元気ですか?今私は青龍国にいます。鬼族の村でまじない師に会いました。何とこの人はもうすぐ六百歳だそうです。あと私を魔物だと敵視していた男の人に会いました。でも今は・・・。」

(まだ・・・私を魔物って・・・言うのかな。)

「でも、何と書くつもりだ。」

「師匠!」

紀伊は慌てて手紙を体全体で隠した。

「惚れたかあの男に。」

巳鬼の言葉に紀伊は思いっきり否定した。

「そんなんじゃないです!ちょっと良い奴だと思ったからそう書こうと思っただけで。」

「そうかい。」

巳鬼はニヤッと笑うとまた自分の寝台へ戻った。

ただその際一言呟いた。

「こう血の匂いがすると気持ち悪いねえ。寝られやしないよ。」

けれどすぐに眠りに引き込まれたのか寝息が聞こえた。

一方、紀伊は手紙の「でも」と言うところを破り、窓を開けて尚浴に渡されていた木の笛を吹いた。

するとどこからか烏のような魔物が現れた。

「頼んでいい?」

鳥はすぐに手紙をくわえ魔城へと飛んで行ってくれた。

紀伊は一息つくとお茶を入れた。

「ついでに淹れてやりますか。」

茶器をもう一つ取ると大芝の分も用意した。

湯飲みからはゆらゆらと湯気が立ち上り、香ばしい臭いが部屋中でしていた。

紀伊はお茶を一口飲むとあまりの熱さにすぐ口を離したが、もう一度ゆっくり口をつけた。

(惚れるなんてありえないし!もう恋なんてしないんだ。恋をしたら自分が辛いだけなんだから。誰も好きにならないもん!)

紀伊が物思いにふけっていると大芝が気持ちよさそうに風呂から出てきた。

上半身に何も着ていなかったため体が見えた。

余分な筋肉も贅肉もない、鍛えられた体に一瞬紀伊の心は揺れた。

(格好いい体だなあ・・・。)

「お茶入れてくれたのか。ありがとう。」

呆ける紀伊に笑いかけると湯飲みを取り、熱湯であるはずのお茶を一気に飲んだ。

「あ!それ熱くなかった?」

「え?・・・いいや。」

「何?・・・私猫舌?」

「かもな。あ、豚舌じゃないのか?」

「ひどおい。」

紀伊が頬をふくらませると、大芝は紀伊のしっとりとした頬を両手で押す。

プッと紀伊の林檎のような真っ赤な唇からから空気が抜けた。

紀伊は自分の頬を両手で挟んだ。

(子供扱いして・・・。本当にこいつは・・・。)

しかし大芝は何処吹く風といった様な表情で髪から垂れる雫を拭いた。

紀伊はそんなしぐさを見ていた。

(何か・・・いいかも。)

けれど慌てて首を振った。

「もう恋なんてしないんだから!」

「またそれか?」

「ねえ、大芝は辛い恋をしたことある?」

「ああ、あるよ。」

「それから・・・二度と恋しないって思った?」

「いや、・・・どんなにひどい目にあっても俺は嫌いになれなかった。」

大芝が自分よりも純情そうな心の持ち主に思えた。

(大芝は一体どんな恋をしたのだろう。気になる・・・。)

「さあ、寝よっと。今日はぐっすり眠れるぜ。」

「何で?寝てなかったの?」

「さあな。」

大芝はそう言うと眠りについた。

紀伊も腰掛けていた寝台にそのまま倒れ込む。

体を伸ばすと体中の筋肉が伸びるようであった。

紀伊は大きなあくびを一つすると眠りに落ちた。


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