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第33話 宿屋にて

次の朝早く、三人は村の入口に立っていた。

「よし、では行くぞ。ここから一番近い青龍国までは馬を走らせても三十日はかかる。そんな時はこれだ。」

巳鬼が呪文を唱えると目の前に厳つい顔の巨人が現れた。

「師匠、これは?病人?ものすごく顔白いんですけど。」

「本当だな、呼ばれること自体が嫌だったんじゃないか?」

すると巳鬼は咳払いをした。

「風神だ!好き勝手いいよって!これは風になって移動できる。まじないしのみが使える召喚技だ。まあひよっこのお前には出来る芸当ではないな。」

巳鬼の言葉に紀伊は悔しそうに地団駄を踏んだ。

(ひよっこじゃないやい。)

紀伊は反論したかったが、すればそれを百倍にして返ってきそうだったので、黙っておくことにした。

三人と二頭の馬が風神の後ろに乗り込むと風神はフワッと地上から浮いた。

そしてあっという間に茂っていた木々の高さを超えた。

「わ!すごい!」

「黙っていろ、舌を噛むぞ!」

「え?わ!」

突如動き出したそれは疾風のごとく緑一色の森の上を駆け抜けていった。


紀伊は風神から降りると周りを見回した。

古くから存在する国、青龍国は伝統だけでなく建物も古い物ばかりだった。

紀伊は格式ありそうな建物を見て、ため息をつく。

「私もこんな家に住みたいなぁ。古くても歴史がありそう。」

「古くてぼろいだけだろう。風が入って寒い。さて先を急ぐぞ。」

巳鬼は風神を消すと紀伊の夢を否定し大通りを進んだ。

紀伊は否定され巳鬼の後ろで足を踏みならした。

大芝はそれを見て噴出していた。


大通りは馬車がいくつも行き交い、馬車を縫うように華やかな衣装を着た人々が行き交っていた。

紀伊はキョロキョロと楽しそうに周りを見る。

何度か人にぶつかったが、謝ると男たちは顔を赤くして許してくれた。

「あんたが一番まともな感覚持ってるだろう。宿探しておいで。」

「はいよ。紀伊、お前も来るか?」

「え?私、もうちょっと見てる。」

街に夢中の紀伊の後姿を見て大芝は頭を掻くと歩いていった。

宿屋で夕食を取ると、巳鬼はいつもの草の汁がいいと文句を言っていたが、紀伊にはこちらの野菜炒めの方が数段美味しく感じた。

「はあ、お風呂だあ!」

紀伊が何十日かぶりにお風呂にはいると水が濁った。

(なんだこれは?きったなあい。なんだなんだ。この土のかたまりは。)

紀伊の体からは垢らしき物が落ちていった。

(一体どんなところで過ごしていたんだ私は。)

紀伊は自分の汚さに呆れ、自分に対して突っ込んでいたが、体を全て洗い終わると本人的には天女にも負けないぐらいの清潔さであるような気さえした。

部屋は三人一部屋だった。

一番に風呂を入り終えた巳鬼はもう眠っていた。

けれど部屋を見回してもどこにも大芝の姿はなかった。

「あれ?どこいったのかな。」

紀伊はさほど気にすることもなく、布団に転がった。

睡魔が襲った頃、扉が開いた。

「どこ行ってたの?」

紀伊がそこにいたことに気がついた大芝は慌てて後ろを向いた。

「何だ、もう出てたのか?」

「ん?どうしたの?」

「いや、何でもない。ちょっと、外で酒飲んでて・・・。さてと、俺も風呂に入ってくるか。」

「ん〜。気持ちよかったよ!」

紀伊の笑みを見て大芝はそのまま風呂へと向かった。

「・・・きっとお前が・・・知ったら怒るな。」

大芝が体を流すと、排水溝へと血が流れていった。


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