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第32話 女ってわかんねえ

次の日には紀伊はもうそれなりに大きな白竜を出せるようになっていた。

「すげえ。」

大芝が手を叩くと紀伊は自慢げに笑った。

「でしょ。でもまだ師匠みたいにはいかないの。早く師匠みたいになりたい。」

紀伊の言葉に巳鬼が馬鹿にしたように言葉を発した。

「何を言っている。私はもう五九七歳だぞ。ひよっこと同じにされたら困るな。」

「五九七!」

二人は声をあわせる。

十七、十八くらいの外見に二人は完全にだまされていた。

そして大芝は一言呟いた。

「女ってわかんねえ。」

「さてと・・・お前も竜を出せたのだから竜鬼山に名前を報告に行こうか。」

「報告?」

紀伊は巳鬼の後ろを歩いてゆく。

目的地は山肌のようだった。

そして巳鬼は注連縄の前で止まった。

そこには二つの札が並んでいた。

どの札よりも新しいその札を見て紀伊の目から涙が落ちた。

目の前にあった名前は父と母の名前だった。

「この山は昔から私たちの神様が住んでおられる。鬼族は生まれるとこの山に連れてこられてこの山にいる神様から竜を預けられる。そして命が終わればこの竜を返す。この立て札は今まで竜を扱いそれを返した者の名前。そしてそれが私たちの墓になるだ。人間が作るような墓はこの村にはない。これが・・・墓なんだよ。」

紀伊は墓といわれてその立て札に触れてみた。

「お父さん、お母さん。」

今まで口からでることしかなかった名前を初めて目にした瞬間だった。

父と母はここにいた。

「私も軌刃もすっごい元気だよ。軌刃はね、しっかり夢を持ってる。私はまだ夢を見つけていないけど、幸せに暮らしてるよ。安心して。」

すると隣に立っていた大芝は黙祷してくれた。

紀伊は大芝の行動に少し驚いたが、少し嬉しく感じ目を細めた。

「大芝のご両親はどんな方?」

「聞きたい?」

「嘘は嫌よ。」

大芝は軽く頷くと一言呟いた。

「そうだな、とても立派な方だよ。俺もそんな家庭を持ちたいと思ってやってきた。」

大芝は更なる言葉を待っていた紀伊の顔を見つめ、ニコッと笑った。

「おしまい。」

「え?」

大芝は立ち上がると洞穴へと向かって歩き出した。

紀伊はもっと聞きたくて、大芝に追いつこうと後を追いかけた。

しかし大芝に追いつき、顔をのぞき込んでももう聞くことは出来なかった。

「これからどうするんだ?」

朝食べた緑色の汁を夕食に再び食べながら巳鬼が尋ねる。

「大芝はどうするの?」

「もちろん紀伊と一緒に行くよ。」

大芝が微笑むと今回の紀伊は、いつものような迷惑そうな顔をすることもなく大芝の顔を見つめた。

「何かついてる。」

大芝が紀伊に尋ねると紀伊は首を振る。

「私、四国へ行こうと思って。この大陸の中心を見てみたい!」

「四国・・・か。」

大芝は少し詰まった。

「よし、決めた私も行く。たまにここをあけても許してもらえるだろう。」

巳鬼が表情を変えることのないまま呟く。

「ええ、行きましょう。師匠。」

紀伊が嬉しそうに笑うと、大芝もそれを見て笑った。

「おし!行くか!」


「なあ、子猫ちゃんはお前の妹なんだろ?」

「ええ。」

護衛という任についているにもかかわらず、主はずっと気の抜けた言葉をかけてきていた。

「やはりなあ、見たときにこれは好みだと思ったんだ!子猫ちゃんはどこかお前の持っている感じと似てたからな。双子だと思うとますます欲しくなるな。俺と子猫ちゃんが引っ付けば、それに俺とお前の仲はさらに強固になるんだぞ。」

すると軌刃は真壁の言葉にため息をついた。

「嫌ですよ。可愛い紀伊が貴方の女癖に苦しめられるのを見るのは。」

「何をいう!お前の妹だというのなら、大切にするに決まってるではないか!ああ〜会いたい!つれて来い!」

「嫌です。」

「軌刃〜。俺はお前を愛してるんだぞ。もっと労わってだな・・・。」

「はいはい、そんなこと言ったって遊び相手にはなりません。おまけにそんな気持ち悪いことを言っていたら、人から後ろ指を指されますからね。気をつけてください。」

「ちぇ。」

真壁はそっぽ向くと窓から外を見た。

軌刃も外に視線をやると妹へと思いを馳せた。




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