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第31話 特訓

食事が済むと巳鬼は紀伊に呪文を教えてやろうと立ち上がった。

紀伊も本題に入ることができて嬉しそうについていった。

「お前、ただの人間か?」

洞穴から出て移動している最中、紀伊から離れることのない大芝に巳鬼が尋ねた。

大芝はほんの一瞬黙ったが、人のよさそうな笑顔を浮かべた。

「ほかの何に見えるっていうんです?」

「・・・纏っている気が人間の物とは違うが。」

「まさか。」

大芝はそのまま巳鬼を抜かして山を降り、木下に座り込むと二人を静観した。

巳鬼は紀伊の方へと向き直り、紀伊の警戒という言葉すら知らなさそうな大きな目を見た。

「あの男、何処で知り合った。信用できるのか?」

「大芝ですか?私もよく分からないんです。何故魔城の土地にいるのか、何故私の隣にいるのか。」

巳鬼の目は心の奥を見ているようだった。

その目が気持ち悪くて紀伊は視線をそらした。

「あの、巳鬼さん。あの人悪い人なんですか。」

紀伊は恐る恐る訊くが、巳紀は何も言わず足を開いた。

「よく見ているんだぞ。一回しかやらんからな!」

「あ!はい!」

「巳鬼の名において命ずる。出でよ紫龍。」

すると巳鬼の足下が円形に光り出し、そこから巳鬼の体を通って大きな紫色の龍が現れた。

紫龍はあたりに風を起こし、木の葉が激しく乱舞した。

そして現れた紫龍は紀伊のことを見下ろしていた。

「まあ、こんなもんだ。」

紫の鱗に黒い瞳。

とても高潔な竜だった。

紀伊はキラキラと目を輝かせ、しばらく見つめた後巳鬼に振り返った。

「これが竜。すごい。」

「やってみろ。お前も『鬼』と名のつけられた鬼族であるというのならな。」

巳鬼の言葉に押され紀伊は頷いた。

紀伊は足を肩幅に開けて立つと深呼吸をし、気合いを入れて叫んだ。

それは両親がつけてくれた自分の本当の名前だった。

「『鬼伊』の名において命ずる。出でよ白竜。」

すると紀伊の足下が光り出した。

体の足元から何かが這い上がり、頭の上へと通り抜ける感覚。

紀伊は思わず目を閉じた。

周りの草が風になびきサワサワと音を立てるのが聞こえた。

(出せた?)

「ちっせえ。」

紀伊の耳には大芝の声が響いてきた。

紀伊が目を開けると竜の顔が見えた。

真っ白い純白の姿。

けれど姿を現した白竜は鬼伊の背丈の半分もなく、とても細かった。

紀伊はそれでも嬉しかった。

竜を呼び出せる事が出来たのだ。

(これで鬼族の仲間入りが出来る。)

紀伊は満面の笑顔で巳鬼の方を見た。

しかし巳鬼はあっさり呟いた。

「特訓だ。」

紀伊はその言葉を聞き、少しがっかりしたがすぐに自分の力になると思うと興奮した。

(これで一人でも戦う力がつく!)

「分かりました。頑張ります。」

「分かればよろしい。」

巳鬼は腰に手をあてて頷いた。


「だあ、疲れた。」

紀伊は洞窟になだれ込んだ。

その白い絹のような体からは汗が流れ落ちていた。

「大丈夫か?ほら。」

大芝は水を柄杓にすくって持ってきた。

紀伊はその水をゴクゴクと音を立てて飲むと、地べたに崩れ落ちた。

「紀伊。おい?」

大芝が声をかけるともう眠りに入ったようだった。

大芝はため息をつくと、紀伊を抱き上げて寝台に寝かせた。

「魅了させられたか。」

後ろから巳鬼が入ってきて大芝を見ていた。

「まさか。俺は別に。」

「別になんだ?では何のために鬼伊と共にいる?」

「それはこいつがあんまり無防備だから。」

「確かに、これは疑うということを知らぬのかと問いたくなる。だからこそ、見守ってやりたくもなる。だからこそ問おう。お前は・・・鬼伊の肉体でも狙っているのか?」

「こいつには色気なんてないさ。」

大芝は紀伊の頬をいつものようにつねった。

「ふん・・・。そうだな。これの母親のほうが色気はあった。・・・だがな、私が言いたいのは。」

「分かってる。あんたの言いたいことは。あんた魔城憎いんだろ?俺だって憎い。でも・・・それだけじゃ。俺は前に進めない。」

巳鬼は全てを見越したように微笑み、大鍋を混ぜはじめた。

「憎しみばかり持って生きることは辛いものだな。」

「そうだな。」


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