第24話 片割れの家族
次の朝。
扉を開くと王座の前で全員が勢揃いしていた。
紀伊が荷物を降ろすと秋涼が声をかけた。
「本当に行くのか。」
「ええ、行ってきます。」
「って、何処に行くんだよ。」
紅雷が声を荒げる。
紀伊は幼なじみの紅雷と紫奈の方を見て笑いかけた。
「私、旅に出るの。一人で何処まで出来るか分からないけれど、自分一人の力で。」
「お、俺も!秋涼様、親父!俺も行く!」
紅雷が興奮気味に言う横で紫奈も続けた。
「紀伊一人では心もとありません。私も。」
けれど二人の父親は黙っていた。
「二人とも。」
紀伊はそんな二人を止めた。
「私はお姫様じゃないの。一人で何処までやれるか見ていて。」
秋涼が紀伊の言葉に頷き近くに呼んだ。
「お前には武道も教えてある。並の者よりは強いだろう。しかし自分の力を過信してはならないぞ。外の世界は厳しいだろう、くじけそうになったら帰っておいで。」
秋涼は紀伊に曲刀を渡し、紀伊はそれを大事そうに受け取った。
「うん、分かってる。」
紀伊は頷き笑うと皆の顔を見る。紫奈や紅雷の顔からは心配しているというのが見て取れた。
そして幹部たちも一様に紀伊に視線を送っていた。
紀伊はそんな家族同然の人たちに一度頭を下げた。
「ちゃんと、手紙を書きます。」
秋涼はその言葉に笑った。
紀伊は顔を上げると晴れ晴れした顔でその部屋から出て行った。
外では秋矢と花梨が立っていた。
「二人とも・・・。見送りに来てくれたんだ。泣かないようにしてたのに。」
「紀伊、行ってらっしゃい。はい、これお弁当。ちゃんと食事は取るのよ。」
「うん、ありがとう。」
花梨は紀伊を抱きしめた。
紀伊も花梨をしっかり抱きしめ返した。
「紀伊、僕駄々こねないよ。紀伊の道、進むといいよ。応援してるから。紀伊が自分の道を完成させる頃には僕は頼りがいのある男になって紀伊のこと守れるようになるから。待ってて。」
秋矢は紀伊に力強く誓った。
紀伊の目は潤み、結局年下の秋矢に抱きつき、秋矢の肩で泣いた。
「秋矢様の癖に生意気。」
「気をつけて。あなたを愛している人はここにたくさんいるの。」
「ちゃんと帰ってきます。」
花梨の言葉に頷くと紀伊は秋矢と花梨から離れ、門の所まで歩いていった。
門では犬がいつものように甘えてきた。
「そいつも寂しがるな。お前に一番なついてたんだ。」
「柳糸。」
「尚浴様から聞いた。頑張ってこい。」
「うん。」
紀伊は柳糸が用意してくれていた馬に乗り、故郷である魔城を出た。
紀伊が振り返ることは一度も無かった。
軌刃は扉を開けた。
部屋ではつまらなさそうに真壁が一人将棋をしていた。
軌刃はそんな相手のこまを一つ動かすと前に座った。
「手紙は?」
「そんな余裕はありませんでした。」
すると真壁は顔を上げた。
目の前の軌刃の顔は真剣だった。
「何か、あったか?」
「俺の人生揺るがす大きな出来事が。」
「へえ、どんな?何だ?魔城で命でも落として戻ってきたのか?過去の伝説のように俺の肉でも食らうか?」
「・・・はあ、真剣に聞く気がないのなら。」
立とうとした軌刃を真壁は制した。
「何?」
「どうやら、俺は特殊な力を持った不老の人間みたいです。」
「何だ?魔城の人間になったのか?お前。」
「魔城の人間ではないですが。それにかわいい妹もできました。」
「な、何だと!かわいい妹?さっさとつれて来い。」
「一緒に住むつもりでいたんですが・・・旅にでてしまって。」
「はあ〜?」
軌刃はそんな真壁の反応に口元を緩めた。
「驚かないんですか?もっと、飛び上がるかと思ってたのに。」
「別に。お前は、お前だからな。・・・で、ちゃんと話を聞こうか?」




