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第23話 新たな決意

紀伊は一人、花の咲く庭に座っていた。

満月が池に反射しもう一つ地上に月があるようだった。

紀伊はそれを指でばしゃばしゃと掻き乱した。

「紀伊。」

後ろには何処で手に入れたのか肉まんを持った秋涼が立っていた。

秋涼は紀伊の側に座ると肉まんを差し出す。

紀伊はそれを受け取ると、ほくほくした肉まんを二つに割って食べた。

「どこに行くつもりなんだ?」

「・・・こっそり行くつもりだったのに、ばれたか。」

秋涼はこらえきれず紀伊を抱きしめた。

「ごめんな。」

「何で秋涼様が謝るの?秋涼様のせいじゃないんでしょ?」

紀伊は温かい秋涼の腕の中で目を閉じた。

秋涼は紀伊に優しく優しく話しかけた。

「お前は俺たちの大切な娘だよ。可愛い可愛いな。」

「うん、秋涼様はお父さんだよ。」

「お前の家はここだぞ、分かってるな。」

「うん。ちゃんと戻ってくる。」

後ろに誰かが立った。

紫醒と軌刃だった。

二人はただ静かに紀伊を見ていた。

「双子の・・・お兄ちゃんなんだね。」

紀伊が小さな声で呟くと、軌刃は静かに頷いた

「お前達が会うことはないと思っていたのに。まさか会っていたとはな。」

「何かに引かれたみたいでした。体が勝手に歩いていくんです。」

紫醒は紀伊の言葉に首を振りながらため息をついた。

「では、封印をといてやろう。水晶が出たそうだな、それをかざすように。」

紫醒の言葉に紀伊と軌刃は水晶を掲げた。

紫醒が手をかざすと水晶は粉々に割れキラキラと光を放ちながら消えていった、

開放され暫く二人の掌の上で具現化していた竜は静かに消えていった。

「お前達は竜を呼び出せるようになったのだ。私自身、呪文は知らないが・・・。」

紫醒は淡々と述べると一度二人の顔を見て消えた。

紀伊と軌刃はお互いの共通点を探そうと無意識に見合っていた。

「よく似ているわね。でも、双子だって言われなきゃ分からないけど。」

花梨が唐突に呟いた。

花梨もまた二人を見比べていた。

「紀伊、軌刃。あなたたちには家族がいる。紀伊にはこの魔城に、軌刃には平争に。そのこと忘れないでね。あなたの母親にもその言葉をかけていてあげられたら・・・、そう後悔することがあるわ。」

「花梨様。分かっているつもりよ。」

隣で軌刃も大切な人間を思い返していた。

花梨はそんな二人に本当に優しい笑顔を向けた。


紀伊と軌刃はただ池の畔で座っていた。

「ねえ、運命だったことは確かだったね。」

紀伊のそんな言葉に軌刃は静かに頷いた。

「そうだな。・・・さっき、混乱しすぎて・・・愛せないって言ったけど、俺、紀伊を妹として愛していこうと思う。」

「うん、私もよ。私達は運命の相手ではあったけどそれは恋ではなかったのね。」

紀伊は何故かすがすがしい気分だった。

今まで無かった自分の半身がやっと戻ってきた。

そんな感じだった。

「あのね・・・軌刃には分かって欲しいの。ここにいる人は皆優しい人だってこと。」

「だろうな。ここに来て、少し印象が変わった。魔王は紀伊と肉まん食べあう仲なんだもんな。」

「ありがとう。・・・でね、私、本当のお母さんお父さんの故郷に行ってみようと思って。」

「いいな、それも。」

「じゃあ一緒に。」

「俺は行けない。」

それは強い言葉だった。

「俺の夢は平争で一番の兵士になることだ。守りたい者を守る。その為に努力を努力と思わずにやってきた。だから・・・まだ行けない。」

「そっか。・・・夢の為に頑張って。そして夢にたどり着いて・・・。」

「ああ、きっとなってみせるよ。この年で隊長になったんだ。やってみせる。」

軌刃の顔は自信が溢れていた。

「私も負けてらんないね!頑張らなくちゃ・・・。」

軌刃は紀伊の言葉に少し微笑み、紀伊の頭に手を置いた。

「お互い負けられないな。」

「うん。」

二人は同じ茶色の目を細めて笑い合った。


紀伊は旅支度をしていた。

部屋には外務官の尚浴がいた。

「紀伊、お前の国券だ、無くしてはいけないよ。これは各国の通貨だ。あと魔城と聞くと敵対心を持つ者がいるから注意をするように。」

尚浴は幹部の中で一番外の世界に明るい人間だった。

「尚浴様、鬼族は誰一人生き残っていないのでしょうか。」

「裏から聞く噂では四国に一人いるというのと、李国に一人いると言うのを聞いたことがあるが・・・。場所までは特定できないな。」

「そうですか。」

それだけ分かれば充分だった。

自分たち以外にも生きている鬼族がいる。

生きていれば必ず会える。

「しかし、一人で大丈夫かい?本当に紅雷や紫奈を連れては行かないのかい?秋矢様は駄々をこねると思うけど。」

紀伊の脳裏に駄々をこねる秋矢の姿が浮かんだ。

「皆私を甘やかしてしまうから。絶対私を守ってくれるし、私に合わせてくれる。」

「それが愛情ではないのかな?愛する者が苦労する位なら、自分が苦労した方が良い。そうではないかな?」

「でも、私は皆の望んでいることを多分返してあげられない。そう思うから・・・。それにこれは私の自立への一歩なんだ。」

「そうか、頑張りなさい。応援してる。」

尚浴はそれ以上何も言わなかった。

紀伊はただ黙々と荷物を詰めた。


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