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第22話 生まれ

昔まだ魔城の王が秋涼の父、秋霖であった頃、各地には人以外に異種の力を持った民族がたくさんいた。

彼らは国としての機能を持たずとも、独自の文化を形成し、生活をしていた。

鬼族もその一つだった。

竜鬼山というまじない師の暮らす山のふもとで生活する民族がそれだった。

今から五五年前、魔城の北に位置していたその部族に秋霖は目をつけた。

それはただの遊びだった・

他の部族に比べきわめて高い戦闘能力を持つ鬼族というものが自分の攻撃に対し、どれだけ持ちこたえられるか。

それだけのための戦闘だった。

その時生き残った子供が紀伊たちの父と母だという。

父は自力で生き延び平争で軍人となり、母は負傷していたところを花梨が助けた。

母はその後、紫奈の母や柳糸の母と共に楽師となり花梨のもとにいたが、平争で偶然父と再会し、魔城から逃げた。

行く場所をなくした二人は生まれ育った故郷に戻り、子供が出来た。

それが鬼伊(きい)鬼刃(きは)だと言う。


紀伊は花梨の話の腰を折った。

「キハって、あの人が私の・・・、お兄ちゃんなの?」

紀伊の言葉に花梨は頷き続けた。


けれど子供が生まれ幸せそうな二人にまた秋霖の手が忍び寄った。

その頃の村には数人の生き残りが戻っていた。

秋霖は彼らが生きていたこと自体が気に入らなかった。

そして全てを殺すべく自分の部下や魔物の大軍を送り込んだ。

まだ十代だった紫醒はずっと紀伊の母に恋い焦がれていた。

大軍が送られたことを知ると、自分の想いが叶わぬとわかってはいても彼女を助けたい一心で村へ行った。

村はすでに制圧された後で、そこには求める姿はなかった。

紫醒はそれでも探し続けた。

そして山の中で声を聞いた。

紫醒がその声を間違うはずはなかった。

毎晩足しげく通い、聞き続けた彼女の声。

たどり着くと夫が魔物と戦う後ろで紀伊達の母は子供を守ろうと体を張っていた。

親二人は体中に傷を負い血を流す一方、子供二人は無傷だった。

母親は紫醒を見つけるとすがるように走り寄った。

そして腕の中でおびえる三歳の双子を紫醒に誰かに預けて欲しいと頼んだ。

紫醒には迷いはなかった。

子供二人を受け取ると母親は満足そうに微笑み、紫醒に深々と頭を下げた。

そして夫のほうへと駆け寄り二人で竜を暴発させ全てを消したという。

紫醒はその後二人に竜を封印する魔法を施し、平争の人間に一人、子のない秋涼たちに一人を託した。


紀伊は膝を抱えた。

事故で死んだと聞かされた両親がそれほどまで秋霖に苦しめられているなんて知らなかった。

「一族・・・皆、秋霖様に。」

紀伊は秋霖に会ったことがなかった。

自分が物心着く前にはもう封印されていたのだ。

けれど、その少し前まで秋霖は暴虐の限りをつくしていたというのか。

そうきかされれば、秋霖への憎しみがふつふつとこみ上がってきた。

この前透影に聞かされた母と共に倒そうと話をしていたということにも納得できた。

そんな紀伊の頭を花梨が撫でた。

「もう秋霖はいない。人を苦しめすぎたのよ、あの人は。でも、それを秋涼が封印してくれた。」

「うん・・・。」

「あなたの一族は鬼族。竜を召喚するの。」

紀伊は水晶に入っている竜を思い出した。

「黙っていて済まない。しかしもし話してお前が反魔城感情を持てば、お前が苦しむことになる。お前には笑っていて欲しかったんだ。ここで育った魔城の子供として。」

紀伊はそれを聞くと少し笑った。

「秋涼様。私反魔城感情なんて持たないよ、だってこの国が私の故郷だもの。あ、ねえ、紫醒様に聞けばかけられた魔法はとける?」

「ああ、解ける。もう半分解けてるそうだからな。」

「そっか。」

紀伊は息を吐いた。

そして最後に一つだけ質問をした。

「お母さんは・・・ここで笑ってたことあった?」

すると花梨は微笑み紀伊を見つめた。

「ええ、もちろん。あなたの母は何にも好奇心旺盛で、元気で明るくて。」

「そっか、じゃあ、お母さん、辛いことばっかりじゃなかったんだね。ありがとう。花梨様。」


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