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第21話 それが現実

「あらまあ、どうしたの?」

泣きはらした目をした紀伊に花梨は優しく言葉を掛ける。

「秋矢様と喧嘩しちゃって。」

紀伊の後ろでは秋矢が口を尖らせて立っていた。

そして紀伊が花梨の元へ戻ると秋矢は少し頭を下げ走っていった。

花梨は何も訊かず、紀伊を中に入れた。

「秋涼様は?」

これ以上誰かに尋ねられたくなくて紀伊は涙を袖で拭きながら尋ねた。

花梨は会議中とだけ答えた。

「秋涼様、お仕事大変なんだ。」

「いつも暇だから、たまには働かないとね。」

もう数十年生きているというのにいつまでも年を取らない花梨はそう言うと、紀伊の前にお茶を置いた。

紀伊はそれを一口飲むと机に手を広げ、頭をつけた。

「花梨様は秋涼様を愛してる?」

昔から何度もした問いだった。

けれど彼女から紀伊の望む答えが出たことはなかった。

「花梨様はお姫様だったんでしょ?どうして魔城に来たの?秋涼様に恋をしたの?それとも連れ去られたの?」

紀伊は初めて花梨の素性について尋ねた。

花梨はただ笑っただけだった。

「たまには教えてくれてもいいじゃない・・・。」

そのうち紀伊は泣き疲れて眠ってしまった。


「お帰りなさい、紀伊が寝てるから静かにね。会議長引いたのね。というより、会議ってなに?あなたたちが会議なんてよっぽど何かあったの?」

「紫醒の報告を聞いていた。本当にあいつは余計なことを!」

秋涼の声で紀伊は目を覚ました。

花梨の寝室で眠っていた紀伊は体を起こすと、声のするほうへと寄っていった。

「紫聖が?何を?」

「鬼族と意識のない鬼族に自らバラすなんて!」

「鬼族が?ねえ、秋涼、ちゃんと話しなさい。どういうことなの?」

「紀伊の・・・双子の兄が来た。」

紀伊は意味がわからなかった。

もっとよく聞こえるようにと扉に耳をつけた。

「双子・・・。紫醒が平争に置いてきたっていう・・・?」

「ああ、そうだ。今魔城に来ているらしい。それも紀伊の恋人としてな。」

「何ですって!だから私は平争に行かせるのは反対したのよ。それなのに秋涼が可愛い子には旅をさせろっていうから!」

「それは!・・・まさか、二人が出会うなんてこと考えもしなかった。平争の人口は一千五百万人だぞ!その中でたった一人に会ってくるなんて、そんな偶然起こる分けない!そう思ったんだ。」

秋涼は頭を抱えていた。

「で?その兄という子は・・・どうしてるの?」

「紫醒が説明したそうだ。鬼族のことと・・・妹のことを。」

秋涼と花梨の話の意味がわからなかった。

(兄?妹?何、それ?双子ってなに?)

自分が拾われっ子だということは知っていたが、両親が何故死んだか、まして兄妹がいるなんて事は知らなかった。

紀伊は全てを知りたかった。

ただその一心で、扉を開けるとその先にいた二人は驚いた顔で見ていた。

「紀伊、起きてたの?」

「な、何だ?紀伊。どうした!そんな怖い顔して。」

二人はとぼけようとしていた。

けれど紀伊の顔を見た二人には諦めが浮かんでいた。

「本当のこと教えて。もう十六だよ。受け止められるから。」

紀伊の言葉に二人は顔を見合わせる。

先に紀伊を見たのは秋涼だった。

その目は魔物の主ではなく、ただの親としての眼差しだった。

紀伊はそんな秋涼にもう一度声をかけた。

「お願い。私知りたいの。」

そんな紀伊の背中を花梨が押した。

紀伊を椅子に座らせると秋涼がポツリポツリと昔のことを話し出した。


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