第20話 信じられない現実
「なあにが、『子猫ちゃんと過ごす一夜を想像すれば、眠るに眠れない』だよ!絶対ぐうぐうねてるしさあ!」
紀伊が真壁の気色の悪い手紙の返事を書き上げ軌刃を探し魔城への道を歩いていた。
空は曇っていたが紀伊は軌刃に会えると思うと気分は上向きだった。
数ヶ月ぶりに逢えた運命の人ともっと過ごしたかった。
(夕食、食べる時間あるかなあ。ないなら、お弁当でも。あ、でも迷惑かな。)
紀伊は魔城の門を入り、しばらく歩いたところでボンヤリしていた軌刃を見つけた。
(一瞬で見つけられる私の目ってすごい!)
躊躇いなく駆け寄ると、軌刃は紀伊の存在に気が付き顔を強張らせた。
「どうなさったの?恐いお顔。」
紀伊はその顔の変化の意図を掴み損ねた。
先ほどまで自分に笑いかけてくれる人だった。
けれど今は紀伊という存在に困っているようだった。
頬に触れようとすると軌刃は一歩下がった。
紀伊の手は空をきった。
「どうなさったの?」
恐る恐るもう一度紀伊は尋ねた。
「ごめん、もう無理だ。君を愛せない。」
「え?何で。」
言葉の意味が分からず素直にただ返すしかできなかった。
けれど頭の中は真っ白になった。
何を言われても理解はできないに違いない。
それでも尋ね返していた。
けれどいつまで待っても答えはなかった。
軌刃の顔は今までとは違う悲しげな表情だった。
「軌刃さん、ねえ、ねえ。」
紀伊はすがるように軌刃の袖を掴んだが、軌刃はその袖を振り払うとその場から紀伊一人置いて立ち去っていった。
「どうして!何で!ねえ!」
紀伊は相手の背中に必死に叫んだ。
けれど軌刃一度も振り返ることなく歩いていってしまった。
「軌刃さん!」
紀伊はその場にただ座り込んだ。
「何で?」
さっきまで笑っていてくれた。
「何で?」
数時間前、これから一緒に暮らすことを考えていてくれていたはずだった。
「何で?」
(無視された。)
涙が毀れてゆく。
「こんなの嘘だ!嘘だあ!」
紀伊はただその場で叫ぶしかできなかった。
「紀伊、どうしたの!」
紀伊の声に気がついたのか、秋矢が走ってきた。
紀伊は年下の秋矢にはどうしても見られたくなくて走り出した。
「待って、紀伊。ねえ、紀伊!」
秋矢が追いつき、紀伊の手を掴むとこらえきれずただ泣き崩れた。
「ねえ?紀伊!」
秋矢は遠慮などなくただ問いかけ続ける。
「どうしたの。ねえ、ねえってば、紀伊!」
「放っといて!泣きたいの!」
「え〜?ねえ、紀伊何があったのさあ?」
いつまで待っても答えはなかった。
仕方なく秋矢は紀伊の隣に座ることにした。
紀伊はしばらくすると鼻水はすすっていたものの、涙は止まったようだった。秋矢はもう一度だけ紀伊に問いかけることにした。
「どうしたの。」
問いかけに紀伊は再び涙を流しながら叫んだ。
「愛せないって!愛せないって言われた!私は運命の人だって、そう思ったのに!」
叫び終わるとまた思い出して再びおいおいと泣く。
秋矢はその事実にしばらく呆然としていた。
秋矢にとっての敵といえば、あの幼馴染三人のはずだった。
そんな単純な考えかただった。
あいつら以上に紀伊に気を遣えば、いつか妻にできると勝手にそう思っていた。
けれど違う。
外に敵がいた。
まだ幼い秋矢はこみ上げてきた怒りにわれを失いそうになった。
けれどその怒りさえ吹っ飛ばすほど紀伊は激しい嗚咽に、秋矢は我に帰り紀伊の背中を撫でた。




