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第19話 間者 軌刃

軌刃は城の中を探っていた。

どれだけくらい部屋であろうが、目が四方に動き部屋の中を探る。

けれど気配を感じて立ち止まった。

今までそこには気配はないはずだった。

「探し物は見つかったか?」

「っ!」

後ろを振り向くと誰もいなかった。

「!」

けれどその後ろでまた気配がする。

「平争から来た兵士か?」

真後ろで感じた声に裏拳で返そうとしたがそれは空を切った。

それでも負けずに気配を感じたほうに蹴りを出すと、布をかすった。

「何だ、偉く勘がいいな。」

相手はどこまでいっても楽しんでいるようだった。

軌刃はまた消えた相手の気配を探っていた。

突然、それが二つに増えた。

軌刃はまず手前にいた気配に向けて拳を突き出すとそれは気持ちがよいほど綺麗に相手に当たった。

「ってえ!何だ!」

今までとは違う声に一瞬軌刃は意味が分からず、止まると後ろ気配を感じた。

そして次の瞬間、鞭が足に絡まっていた。

「!」

「紅雷、しっかりしてください!どうやら稽古になりそうな相手みたいです。」

声の主のほうから炎が浮かんで迫ってくる。

軌刃はそれを切ると距離を置いて離れた。

「何だあ。いってえなあ!」

紅雷も立ち上がると剣を抜いた。

軌刃は見えないながらも剣を避け、それを縫ってくる鞭を斬った。

「偉く、手ごたえのある練習台だな!」

「ですね!」

軌刃は剣を持つ紅雷の手を取り投げ飛ばすと手裏剣を投げて紫奈の動きを止めて駆け出そうとした。

けれど明かりが灯った。

不意に見えた栗色の髪に紅雷と紫奈は息を呑んだ。

見慣れたはずの髪色は別の人物のものだったのだから。

「え?紀伊?ん?ええ?男か!」

紅雷の呟きを軌刃は聞き逃さなかった。

そして相手を睨む軌刃の瞳もまた紀伊と同じ色をしていた。

「違う、こいつは鬼族だ。」

頭上にいた男はそう言って笑った。

それは自分に探し物は見つかったのかという問いかけをした声だった。

軌刃は全くこの男の気配を感じることができなかった。

「平争の兵士に紛れてこの城へ入り込んだか。」

それは軌刃に意味の分からぬことだった。

自分は平争の兵士、それ以外の何者でもない。

「鬼族って何だ?紫醒様。」

「・・・そういう一族だ。お前ら、やられっぱなしだったな。さっさと戻って稽古してこい。」

「え〜?これから、こいつどうすんの?俺たちまだ戦えるって。」

「そうですよ。今はじめたばかりなんですから、もう少し。」

「離れてろ。こいつが本気を出せばお前ら竜に食われるぞ。」

「竜?」

軌刃には意味の分からないことばかりだった。

竜って何だ。

鬼族って何だ。

むしろ教えて欲しいのは自分だった。

竜といわれれば紀伊と共に持っている珠しか思いつかなかった。

懐に手を伸ばす。

「ここに何をしにきた。魔城の主を倒しに来たか?自分の一族の敵討ちか。」

「一族?」

軌刃が初めて出した疑問形の言葉を聞いた紫醒は眉間に皺を寄せた。

そして軌刃が懐から出した白竜の珠を見て凍りついた。

「まさか、お前。」

「紫醒様?なんスかそいつ?」

紅雷の言葉など無視すると紫醒は軌刃の襟を掴んで消えた。

「・・・何だったんでしょう?」

「わかんねえ。でも蹴られた!むかつく!」


秋涼はお菓子を食べながら霜月の手の動きを眺めていた。

「見てるんなら、書いてくださると嬉しいんですが。」

「お前のほうが字は綺麗だろう。」

秋涼は油で汚れた手を服で拭くと、別の菓子に手を伸ばしていた。

そんな時に突然、紫醒が現れた。

「なんだ?」

秋涼はさほど驚いた様子でもなくしていたが、霜月はそうではなかった。

「何だ?間者か!」

軌刃は紫醒から離れようとしたが、体はまるで金縛りにかかったかのように動かなかった。

「違う。よりによってなんでこいつが・・・。」

「なんだ?紫醒、そいつ恋人か?お前、その髪色に弱いなあ。」

秋涼は目だけをこっちに向けていたが、まだ紫醒の危機感を感じてはいなかった。

「・・・恋人・・・なら良かったが。」

その悲痛な声を聞いて秋涼はようやく体を起こして話を聞こうとした。

「何だ。」

「こいつが白竜を持っていました。()()が持ち、娘に託したあの白竜を。」

秋涼は動きを止め、隣にいた霜月は慌てて主の顔を見た。


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