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第15話 それは敵意ですか?

「これは・・・。」

水が何故か下から上へと流れていた。

紀伊はそれを驚いてみていた。

「ねえ、花梨様!これ!これ!」

「紀伊、落ち着きなさいな。」

はしゃぎまわる紀伊を微笑みながら見ていた花梨は開き始めた水の扉に目を移した。

「ようこそいらっしゃいました。」

そこに立っていたのは長い豊かな髪を三編みにした女だった。

魔城のものとは違いただの人間であった彼女は細い一重の切れ長の目で花梨を見ていた。

「俺もここにいるんだけど。」

「花梨様、おかわりなさそうで。」

「あの〜俺も。」

「ええ、あなたも変わりなさそうね。安心したわ。」

「ええ?花梨様まで俺を無視ですか。」

困ったように頭をかく尚浴は隣で微笑んでいた糸鈴に微笑んだ。

「いっつもこれで。」

「知ってます。昔よく見た光景ですもの。」

「そういわれると心の傷が。」

後ろでのんびり笑いあう尚浴と糸鈴を見た城主は一度咳払いをすると紀伊に目をやった。

紀伊は逆流する水に手を浸して歓声を上げていた。

「あの子が・・・。」

「ええ。雅鬼の忘れ形見よ。やっぱり似ているでしょう?」

「そうですね。でも、もう少し、母親のほうが落ち着きがあったと思いますがね。糸鈴も久しぶりね。」

「元気だった?」

「ええ。・・・では、お入りください。」

「紀伊!いらっしゃい!」

紀伊は城主の存在に気がつくと慌てて駆け寄り頭を下げた。

「あ、あのすいません!紀伊です。城主様!」

すると女はさして表情を変えることもなく紀伊を眺めていた。

「え・・・・。あの。」

(怒ってらっしゃる?)

「気にしなくていいさ。こいつ無愛想なだけだから。俺だって笑った顔見たことないし。」

尚浴の言葉に紀伊はもう一度改めて頭を下げた。

「お招きありがとうございます。」

「・・・どうぞ。」

女が手を挙げると再び水の扉が開いた。

「うわあああ!」

紀伊は誰よりも先に走ると扉を下から流れた水を見上げた。

「じゃあ、花梨様、また明日の昼、お迎えに上がります。」

「ええ。よろしくね。」

「じゃあな、(すき)(かげ)。」

城主からの返事はなかったが、尚浴は手を振って消えた。

「相変わらずなのね。あなたたち。」

「花梨様、いい加減、あの外務官を変えてください。糸鈴の息子も外務官になったのでしょう?」

城に入ってしまうとこれほど殺風景な場所があるのかと思うほど何もない空間だった。

長く続く廊下はどこまで行っても同じような光景で、床も壁も天井でさえも白一色だった。

「相変わらずあなたは潔癖ね。」

「魔城は暗すぎるんです。」

「それでも少し明るくなったのよ。一回くらい帰ってきなさいな。」

花梨の言葉に透影はまるで馬鹿にするように笑った。

「あそこは私の国ではありませんよ。私はもともとあの国に滅ぼされた国の出ですもの。糸鈴だってそうでしょう?」

すると控えめな女は言葉を返した。

「そうね、昔はそうおもっていたけれど、今は大切な家族が魔城にいる。もうあの国が私の国よ。」

「そう。」

透影の表情はどこまでいっても変わらなかった。

ただちらりと紀伊を見ると前を向いた。


「兄上〜。何で僕も一緒に連れてってくれなかったのさ!」

「仕方ないだろう。時空城は男子禁制なんだから。」

花梨がいないために一人で昼食の麺を茹でていた魔城の主、秋涼は弟から文句を言われ続けていた。

「子供ならいいんじゃないの?」

「お前、都合のいいときにだけ子供になるなよ。・・・でも、例えお前が子供であろうが、きっと彼女は城に入れてくれないだろうな。」

「なんでさ。」

秋矢は兄が茹でた麺を奪う気満々で、兄の箸を持って待っていた。

「お前だって知ってるだろう?花梨が育ててきた五人の娘のこと。」

「まあね。柳糸、紅雷、紫奈、紀伊の母親たちと、あの時空城の主、透影。」

「そうだ。五人の娘たち。彼女たちは父上が滅ぼした国で傷ついて倒れていたところを花梨が助け、ここにつれてきた。そして傷がいえてゆくにつれ、それぞれ幹部たちと勝手に恋に落ちて子供を次々にもうけた。でも、例外もある。」

「それが時空城の主?」

「ああ、それと紀伊の母親だ。」

「紀伊の父親って平争の兵士なんでしょ?」

秋涼は答えることなくただ麺をざるにあげると湯を切った。

「時空城の主だけはほかの娘たちと混じることのない性格で、目の前で家族を皆殺しにされたからひどくここを憎んでる。ひどく憎むからこそ、時を操る術を数十年がかりで会得して、魔城とは距離をとり、空の上に城を作った。」

「でも、兄上、魔力を使えばあの城落とすことぐらい平気でできるんじゃないの?」

兄は何も言わず麺を出汁の入った器に入れると箸を探した。

一方秋矢はその間に兄が今置いた器を自分のほうに引き寄せると、中の麺を口へと運んだ。

「しっかし、尚浴も偉くめんどくさい女に執着してるんだね。」

「面倒くさいからいいんですよ。」

尚浴の声に秋矢は悪びれた顔をすることもなく目を向けた。

扉口には先ほどまで時空城にいた一人男が立っていた。

一方、秋涼は見つからぬ箸をひたすら探していた。

「ご苦労様。」

「それによく考えてみてください。秋涼様と花梨様の関係だって、秋矢様と紀伊の関係だっていちゃいちゃするには程遠いものがあるでしょう?俺のだってそれと同じですよ。」

「ば、馬鹿いうな!俺は数年したら紀伊を嫁にもらって!」

「へえ。」

「おいこら流すな!」

秋矢と尚浴の言葉を背中に聞きながら秋涼は声を漏らした。

「箸、俺の箸は?麺が延びる。早く。早く。花梨〜箸どこだっけえ?」



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