第116話 後悔してもしらないからね
「あ、紀伊。」
「え、あれ?ここ。」
目の前にいるのは軌刃。
そしてここは。
「鬼族の・・・村?」
目の前には竜鬼山があった。
「遅かったね。」
顔を出したのは巳鬼だった。
「師匠、それに時鬼さんまで!ねえ、秋矢様、これは。」
すると秋矢は笑みを浮かべた。
「紀伊のご両親の墓参りだよ。」
「本当に?」
「ああ、もう鬼族は潰させない。俺が一生守りぬくから。」
(そんなこと言われたら泣いちゃいそう。)
軌刃はそんな二人を見て目じりを下げた。
「お前もいい相手をお探しよ。」
巳鬼はそんな軌刃の背中を叩き、目の前の札を見た。
札には両親の名前、そしてそのまえには一輪の花が備えてあった。
「あれ、お花。」
「ああ、昨日来てたよ。よく見る奴だが私に無言でいつも現れては暫くその札の前に立って去ってく。不気味なんだよ。あの髪の長い男。」
「髪の長い男?」
そういわれて想像できるのは一人だった。
「紫醒様・・・、ありがとう。」
紀伊はその花に触れると目の前の札を眺めた。
「お父さん、お母さん。約束通り軌刃と来たよ。それでね、私、結婚することしたの。秋矢様と。幸せになるから。」
秋矢は紀伊の後ろで頭を垂れて黙祷した。
すると軌刃が紀伊の手を繋いだ。
「父さん、母さん、来るの遅くなってごめん。俺は夢のために頑張って生きてる。父さんと母さんがくれた力で国を守る力にもなれた。ありがとう。これからはちゃんとここにくるからさ。」
二人は祈り終えると顔を上げてお互いを見合った。
「さてと、ひよっこ双子、鍋でも食べてお行き。」
巳鬼の言葉に紀伊は首を振った。
「え、いいです!ほら、あの、なんだ!お腹いっぱいで!」
「でも、紀伊、折角だから。」
律儀な軌刃はまだ味わったことのない鍋の味も知らず断っては悪いと思ったようだった。
「そうだな、紀伊。折角、軌刃さんもいるんだから。」
「秋矢様〜。」
(断れよ!)
「ほら、おいで。そこの影にいるあんたも、食べてきな。」
すると姿を現したのは
「来るなって言ったのに!真壁様!仕事は!」
「軌刃の父上、母上だったら、ご挨拶せんわけにもいかんだろう?」
ぞろぞろと巳鬼の後ろを歩く男達に怒りすら覚えながら紀伊も巳鬼を恐れ一番最後を歩いた。
(後悔しても知らないからね。)