第115話 紀伊の守護者
秋矢の腕の中で紀伊は秋矢の頭を撫でた。
紀伊の瞳は姉のように優しく温かいものだった。
「だって、その成長を止めた秋矢様の姿はこれからずっと見られるけど、十六歳の秋矢様は今だけだもんね。」
「え?紀伊。何言って。こっちのほうが紀伊好きなんでしょ?」
「別に。」
「え?」
秋矢が顔を上げると紀伊はさらに幸せそうに微笑んだ。
「そりゃあね、格好いいし、ステキだし、この姿の秋矢様は大好きだよ。でもね、」
「でも?」
「秋矢様だから好きなんだよ。」
紀伊の天使のような微笑を見て秋矢は湯気が出そうなほど顔を真っ赤にして、やがてそれに自分で気がついたのか、紀伊の肩に自分の額を置いた。
そんな二人を見ていた紫奈は秋矢の肩を優しく叩いた。
「紀伊の勝ちみたいです。秋矢。私だって君のその姿不自然ですからね。君はパシリ、いえ、皆に可愛がられる存在なんですから。」
「そうだな。紀伊や紫奈の言うとおり、無理しなくて良いんだぞ。秋矢。」
「そうだ!そうだ。」
幼馴染達からの声を聞いて秋矢は息を吐き紀伊に問いかけた。
その顔はまだ不安で一杯だった。
「好きでいてくれる?」
「もちろん!」
「なら。」
承諾しようとした秋矢に秋涼が言葉を被せた。
「兎に角、秋矢には結婚なんて早い。暫く、二人とも、俺の元で暮らすんだぞ。秋矢の素行しっかり見張らせてもらうからな。」
「な!」
「そういうことだ!お前、あわよくば紀伊と二人で暮らそうって思ってだろ。」
「ばれてる!」
あまりのことに言葉をなくした秋矢の隣で紅雷はお尻を叩いて喜んだ。
「ばーか!ばーか!お尻ペンペン!」
「私ももう少し秋涼様や花梨様と暮らそうかな。」
「紀伊!本当か!よし、戻って来い!」
秋涼は自分の気持ちと折り合いをつけ、嬉しそうに結界を解いた。
すると外界と遮断していた扉が開いた。
その先にいたのは透影と花梨だったが、二人は顔を見合わせて噴出した。
「あら開いたわ。」
「ええ、ですね。」
秋涼はすばやく透影により声をかけた。
「透影、秋矢を戻してやってくれないか?」
「ええ。そうですね。」
「あと、花梨。これから俺達の家で紀伊と秋矢が一緒に暮らすことになったからな。」
「あら。そうなの?それでいいの?」
花梨と瞳が合うと紀伊は大きく頷いた。
「うん、だって、旅してる間、ずっと会いたかったんだもん!」
「まあ。」
花梨も嬉しそうに頭を撫でた。
「秋矢も、いいの?」
「仕方ないでしょ?だって。」
「はいはい。じゃあ、紀伊荷物戻そうな。一瞬で全部前の通りだ。」
「うわ、最後まで聞いてないし。」
秋涼は嬉しそうな顔で紀伊の肩を抱きながら複雑な顔を浮かべる秋矢に勝ち誇った顔を見せた。
そんな弟達ふたりを見ながら花梨は透影に声をかけた。
「で、透影は尚浴と暮らす気になったの?」
「まさか、あんなやつ。」
「尚浴だってしっかり者よ。」
「ここの中にいれば・・・の話です。」
透影は鼻で笑うと三編を自分の手で弄んだ。
「私はまた城に戻ります。私の力を使えば城をまた再生させるなんて朝飯前ですからね。」
「じゃあ、尚浴は?」
「さあ、先ほどまで私に付きまとっていましたが、あしらわれてどこかへ行ったのでしょう。」
透影は秋矢の前へ来ると杖を翳した。
「ちょっと待って!」
秋矢はその技から逃れると紀伊の手を引いた。
「どこ行くの?」
「この姿になるまでまたあと五年かかるんだ!だったら、もう少し、紀伊といちゃいちゃしたい!」
「ダメだ!紅雷とめろ!」
紅雷はその声と同時に飛び掛った。
「紀伊の貞操は俺が守る!」
「はあ?何言ってるの?紅雷!」
秋矢はそのまま紀伊を連れて姿を消した。