第114話 やきもち
暫くの沈黙を破ったのは女二人の楽しそうな声だった。
「もう、秋涼ったらそれを知ったら怒りくるちゃってね。」
「先に既成事実を作ってしまわれたらどうしようもありませんものね。」
「そうなのよ!自分の仲間は紅雷だけだって、昨日の夜遅くまで話しこんでたのよ。」
紀伊はその言葉を聞いてずっと黙ってままでいた紅雷に視線を向けた。
すると紅雷は視線を空へと向けた。
「私はお似合いだと思いますが。紀伊ちゃんと秋矢様。」
「でしょ?私もこれほど嬉しいことはないのよ。大体世の中の父親ってそんなものなのかしら。」
秋涼は不味いと思ったのか部屋に聞こえないように結界を張った。
けれど秋矢は理解できたのか、顔を緩めた。
柳糸も理解したのか紅雷の頭を叩いた。
そして秋矢は静かに反撃を始めた。
「そうですね。兄上がいらっしゃらないところで動いたことは申し訳なく思っています。」
「ふん。」
「その上、だまってこんなに兄上が愛してこられた紀伊の愛情を奪った上、ご相談もなく妻にしてしまって本当にもうしわけありません。」
すると秋矢は見せ付けるように紀伊の唇に手を伸ばし、指でその唇をなぞった。
「でも、紀伊から愛を返されたら、止められるわけないでしょう?なあ、紀伊。」
紀伊はそんな大人っぽい秋矢に照れたのか顔を赤らめうつむいた。
「兄上に報告が遅れまして申し訳ありません。紀伊を妻にしたこと。」
「ひどい!秋矢ひどい!一言相談があってもいいだろう。」
その言葉を聞いて秋涼は頭を抱えた。
「え?それ?それで怒ってたの?」
紀伊はそんな秋涼の背中を叩いた。
「ごめんなさい。言うの遅くなって。私、秋涼様が地下に閉じ込められている時に秋矢様と恋に落ちて、もう秋矢様しか見えなくなって結婚しちゃった。でも悔いはないの。幸せなの。だから秋涼様もお祝いして。」
「できるかあ!」
秋涼は肘置きに突っ伏してしまった。
「紀伊はうちの娘だ。なのに、なのに勝手に。」
「ねえったら、ねえっ、秋涼様もお祝いしてよ。」
「嫌だ。」
するとそんな紀伊を秋矢は抱き上げる。
「兄上のお許しがいただけならないのなら・・・。」
(え?結婚やめるなんていわないよね。)
「駆け落ちでもする?」
無邪気に微笑む秋矢の顔に紀伊が見ほれてしまうと、後ろから紅雷が秋矢の背中を蹴った。
「いったあ。」
「ふざけんな!秋涼様、弱ってないで言うことあるでしょ!」
「でもな・・・。紅雷。」
「役に立たない魔王だな!」
紅雷は二人の前に立った。
「秋矢!兎に角、お前は反則なんだよ!」
「それで?」
秋矢に見られて紅雷は拳を握った。
「兎に角、お前十六の体にもどれ!」
「何で今更。」
「反則だからだ!」
「そうだね、戻ろうか!」
そう呟いたのは紀伊だった。