第113話 晴れぬ秋涼の心
「さてと。皆準備いい?」
紀伊は両隣をみる。
そこには幼馴染四人の姿。
「いいよ。」
「おっし!」
「本当にやるんですか?」
「若いから出来ることだからな。」
四人は顔を見合わせて息を吸い込んで、声を張り上げた。
「魔城が大好きだあ!」
叫んでからみんなで噴出す。
「いいね、青春。こくりん、僕達もやる?」
「遠慮しておく。」
後ろで見ていた二人の声に四人は楽しそうに振り返った。
「王がお呼びだ。特に秋矢様。」
「え?俺?」
不思議そうな秋矢の隣で紅雷は口元を緩めた。
王の間では秋涼があからさまに不機嫌になっていた。
黄金の椅子から今にも落ちそうな体勢で、つまらなさそうな顔をして足をばたつかせていた。
「兄上、お呼びですか?」
秋矢は困ったように兄へと寄った。
「お前に兄上などと呼ばれたくはない。」
「え?」
秋矢の顔は強張った。
「秋涼様、どうなさったんですか。」
問うた紀伊への返答はなかった。
その隣に立っている紫醒は静かな顔をしていたし、霜月もあえて目を合わせないようにしているようだった。
「お前、王である私に何か報告はないのか。私が閉じ込められている間。随分動き回ったようだな。」
秋矢は一度唾を飲み込んだ。
「兄上それは。」
「父上をかく乱するためだというのか?」
「はい。」
「秋涼様!秋矢様を疑っているんですか!」
紀伊が前に出ると秋矢が後ろに下げた。
「紀伊は黙っていろ。」
秋涼にきつく言われて、一度秋涼に頬を膨らますと秋矢を見上げた。
「なら、父上をかく乱するのに年齢を変える必要がどこにある。」
「それは・・・それは。紀伊に会うため。」
「紀伊をだます為か。」
「騙すなんて!ただ男として見て欲しくて!」
「男として。こんな行いが男のすることか。」
「待ってください!秋涼様、秋矢は秋矢なりに最善の手を尽くしたんです。さっちゃんだって助けてくれた。」
「そうです。あの状況で秋矢はよくやりました。秋矢がいなければ我々は死んでいたかもしれない。責めないで下さい!」
紫奈と柳糸が秋矢の前に立った。
すると秋涼は聞く耳持たないようにそっぽを向いてしまった。
「見損なったぞ。秋矢。」
「兄上・・・。」
秋矢は悲しそうに呟いてから困ったように紀伊を向いた。
紀伊はそんな秋矢の手を取ると秋涼を睨んだ。
「何でわかってくれないの?大嫌い。」
するとその言葉が聞こえたのか秋涼の肩が揺れた。
けれど秋涼は紀伊の機嫌をとらなかった。
「いいよ、紀伊。兄上には分かってもらわないと。ここで俺と兄上がもめるわけにはいかないから。」
「秋涼様よりも秋矢様の方が幾分大人のようですね。」
霜月の言葉に秋涼は睨むとまたあらぬ方向を向いた。
「兄上が俺の心を疑っておられるのでしたらどうしたら晴れるのですか?」
「・・・晴れることなどない。」
そう返されて秋矢は悲しそうな瞳になった。