第112話 大好きな父親と兄貴分
「お前、結構強いな・・・。」
秋涼が座り込みながら言う。
「お前こそ・・・。」
大芝は逆に倒れていた体を起こす。
「花梨は、俺の恋人だ。」
「俺の妻だったんだ!」
「譲らない!何があっても花梨は譲らない!俺にとっては花梨が恋人なんだ。」
「あいつを・・・泣かせるなよ。」
秋涼は大芝の言葉を聞いて止まった。
「お前・・・。」
「花梨のこと頼んだぞ・・・。ついでに紀伊のことも。」
「ああ。」
秋涼と大芝は視線を交わし合い、ニヤッと笑った。
「最後に、紀伊の顔でも見ていくか。」
「本当に消えるのか?」
「ああ、これで私怨は何もない。こんな清清しい気持ち、いつ振りだろうな。」
「すまなかった。ずっとお前のことは悔いてきたことの一つだ。」
「あ、いたいた!二人とも!」
紀伊は秋矢の手を引っ張って現れた。
「対決終わったの?」
「ああ、俺の負けだ。」
大芝はそういうと紀伊の頬をつねった。
すると紀伊も大芝の頬をつねり返そうとした。
けれどその手は掴むことが出来なかった。
「大芝?」
体は透けていた。
「消えられるのか・・・。」
大芝は自分の体を見て、嬉しそうに微笑んだ。
「琉陽様・・・。」
大芝はそんな声に顔を上げた。
「花梨。」
「ごめんなさい。琉陽様。」
「一回、朱雀国に帰ってやれ。王になったあいつが心配してる。ついでに、俺をあの墓に埋葬してくれ。父上たちが眠っている墓に。」
花梨は涙をこぼして何度も頷いた。
すると琉陽は紀伊へと向き直った。
「あのまじない師たちにもよろしくな。結構、気にしてくれてたみたいだから。」
「うん!」
「消える前に肉まん勝負、勝ちたかったな。」
「十分おいしかったよ。」
「ありがとうな。」
「え?」
「俺をあそこから、あの森から連れ出してくれて。」
「あの時助けてもらったのは私だよ。本当は一人で寂しくて死にそうだった。」
すると大芝は笑みを浮かべた。
「一つ聞きたかった。」
「何?」
「俺が死ぬとき、一緒にいてくれたのは紀伊なのか?」
紀伊は一度目を伏せてそしてあげた。
「うん、いたよ。一緒にお城に忍び込んで、秋涼様に体当たりして。」
「そうか。」
大芝は嬉しそうに笑った。
けれどその笑みはもう微かにしか見えなかった。
すると大芝はいつもつねっていた紀伊の頬に顔を寄せ、口付けた。
「大芝。」
それは大人として認められたようで紀伊は顔を緩めた。
「ありがとう。大芝、それに琉陽様。」
大芝はそして消えてなくなった。