第110話 紀伊の旦那様
花に溢れた庭園は一年という歳月の間に荒れ果てていた。
しかし、一カ所だけ咲いている処があった。
そこは秋矢と紀伊が昔種を植えた場所・・・。
緑化計画と称し雑草を植えて、怒られた場所。
しかし雑草ならではの繁殖力でまだ生き残っていた。
秋矢はそこで立ち止まった。
「秋矢!」
どなり声が庭中に響いた。
その声と共に紫奈が姿を現した。
「紫奈。」
「どこへやったんですか?」
「え?」
「さっちゃんを・・・どこへやったんですか?」
「ああ、」
秋矢が安心しきった顔で説明しようとすると、紫奈は飛び掛かり秋矢を切りつけた。
信頼しきった仲間だっただけに裂けることなど考えてもいなかった。
「あの人は大切な人なんだ!何よりも大切な!なのに!お前だけは許さない!さっちゃんの仇ですよ!」
紫奈の一撃は秋矢の腕を傷つけ、噴出した真っ赤な鮮血が体を汚した。
「な・・・んで・・・。」
秋矢は秋霖と戦った時に剣を無くし、剣よりも能力の高い魔力も底をつき、戦うものはもう持っていなかった。
ただ泥のように重く動きもしない体をさらしているだけだった。
「はあ、やっとついた。もう遠いんだもん。」
砂鬼が元気そうに声をかける。
紀伊は嬉しそうに走り寄った。
「さっちゃん!無事だったんだ!」
すると砂鬼は嬉しそうに紀伊の顔を見つめる。
「紀伊ちゃんの旦那さん、すっごくいい人ね、私、彼に命を助けて貰ったのよ。」
砂鬼の言葉に花梨が口を挟んだ。
「紀伊?旦那さんって?」
紀伊は照れながら幸せそうな笑みを浮かべた。
「秋矢様よ。私たち、結婚したの。」
「まあ。」
花梨も嬉しそうな笑顔を向けた。
そのとなりで紅雷が気を失って倒れた。
「あ〜。気持ち分かるぞ。」
そんな紅雷の肩を何度か柳糸は叩いた。
「残念だったなあ。まさか、秋矢様にとられるなんてなあ。」
「待て、秋矢とは・・・、秋霖の息子か?お前あんな裏切り者と?」
巳鬼がとんでもないことを口にしたので、紀伊は慌てて否定した。
あれは皆を救うための演技だと。
すると巳鬼の顔は崩れていった。
「どうかしましたか?」
「紫奈はどこへ行った?」
「え?」
「しまった!今すぐ探す!」
柳糸が気を探り出す。
「紫奈を探して事情を説明おし!今のあの子は黒い気に包まれてるよ!」