第106話 終わりのとき
「お前たちの力はこんなものか・・・。」
あざ笑う秋霖の前には秋涼たちが転がっていた。
そして秋涼の前に来るとその手を踏みつけた。
「秋涼、お前から殺してやろう・・・。お前は彼女の心を傷つけすぎたのだ。それでも生かしてやった恩も忘れよって。」
「・・・仕方ないだろう。花梨が好きな気持ちには変わらないんだから。むしろあんたのせいで俺はかなわない恋をすることになったんだ。謝って欲しいのはこっちだ。」
「お前のその素直な性格、子供の頃は嫌いではなかったがな。」
そう言って秋霖が手を挙げた瞬間、何かが高速で駆け抜けた。
それは秋霖の腕を引きちぎった。
「まだ、竜を使うものが生きていたか・・・。」
秋霖が忌々しそうに呟く。
小さな水色の龍はもう一度秋霖の方へ向かって進んでくる。
「こんなもので・・・。」
秋霖は魔法弾を水色の竜にあて、止めようとしたが竜はひるむことなく今度は秋霖の肩をえぐった。
「くっ。」
秋霖は分が悪いと踏んだのかその場から消えた。
しかし水色の竜は収まることは無かった。
今度はその場にいた者を襲い始めたのだ。
「何なんだよ、この竜は!」
秋涼が叫ぶ。
その竜は花梨の方へ突進してきた。
「きゃあああ!」
「花梨!」
秋涼が花梨を体で庇い、正面に竜の口が見えた瞬間、紫竜がぶつかり軌道をそらした。
「巳鬼・・・。」
時鬼が安心したように呟く。
「誰の竜だ、生き残っている者がいたのか?」
問いに巳鬼は静かに首を振る。
巳鬼は泣いていた。
「おいどうした・・・。」
巳鬼は何も言わなかった。
「早く、秋霖を、この子は私が押さえます。」
巳鬼の言葉に秋涼が頷き、秋矢を立たせた。
秋涼と秋矢は父親を追い、消えた。
「父上。もう終わりです。」
王座には秋霖が座っていた。
大量に出を流しながらもまだ王としての威厳を残していた。
秋霖の目はまだ飢えた獣のようであった。
「もう・・・終わりなんだ。俺も俺の道を行く。」
秋矢もポツリと呟く。
秋涼は手を上にかざした。
すると卵色のような柔らかい光が広がって行く、秋矢も手を前にかざし、真っ白な光を作り出した。
「・・・。」
秋霖はもう何の抵抗をすることもなかった。
ただ秋霖は目を閉じると、王らしく天に自分の運命をゆだねたようであった。
「待ちなさい。」
息子二人はその声に手を止めた。
「母上。」
秋矢の言葉に秋霖は目を開いた。
「今度は、私も秋霖様と一緒に。」
「なりません、母上。」
けれど母親はそんな秋霖の足元へよってゆくと膝に顔をつけた。
秋霖はそんな女の髪を梳くと手を握った。
「良いのか?」
「残されることほど悲しいことはありませんから。それが永遠に続くなんてこんな地獄、もう充分です。」
「母上!」
秋矢がとめようとすると秋涼はそんな弟を掴んだ。
「最後まで親不孝な息子を許してください。」
「兄上!」
すると秋霖と菘は顔を見合わせた。
「花梨にもよろしく、ごめんなさいね。重いものを背負わせてしまって。紀伊ちゃんにも・・・よろしくね。この城が緑で溢れるの楽しみよ。ふたとも幸せにね。」
「母上。」
「秋矢、無理をさせてごめんね。」
「母上。」
「秋矢!」
兄の声に秋矢は手に光を宿した。
そして二人は息子によって作り出された光の中に溶けていった。
「封印完了。」
秋涼が呟くと、秋矢はその場に座り込んだ。
「これで、良かったんでしょうか?」
「わからない。でも・・・これで俺達は生きられた。」
「紀伊に・・会いたい。抱きしめたい。」
「ああ、そうだな、俺も紀伊に会いたい。無性に会いたい。肉まん一緒に食べたい。」
秋涼と秋矢は微笑み合った。