第102話 登場!紀伊の王子様?
紀伊は目を閉じて衝撃に備えた。
けれど音はしたものの、衝撃はこなかった。
それどころか、暖かい光が自分を包んだ。
恐る恐る目を開くと柳糸が自分を癒してくれていた。
「王子様登場だ!」
そしてその向こうには両手で結界を張っている紅雷。
「こうちゃん、りゅうちゃん、いいところに来た!でも、手は出さなくていいからね。きぃちゃんを二人で守って。」
「王子様は魔王を倒すもんだろう!」
「手を出せばお前達も殺されるぞ!兎に角、紀伊を連れて逃げろ!」
黒雷は執拗に自分を追う幹部の相手をしながら、息子に怒鳴りつけた。
「できるって!」
紅雷は刀を抜くと秋霖に切りかかった。
「お前も、その女も殺してやる。」
「っち、馬鹿が!」
黒雷が秋霖と紅雷の間に体を入れる。
秋霖は炎の魔法弾を作ると紅雷へと撃ちはなった。
黒雷は腕を前に出し、それを止めようとしたが、秋霖の力の方が圧倒的に強く、腕を焦がし始めた。
「くっ・・・・。」
「こくりん!」
紫端が叫ぶ、しかし紫端も紅に押さえ込まれ、自由が無くなっていた。
「親父!しっかりしろ!」
「柳糸、三人連れてここから離れろ!」
柳糸は霜月の言葉に頷くと、動こうとした。
けれどそんな柳糸の背中に今まで黒雷を相手していた碧の刃物が当たっていた。
「柳糸!」
「死ね。」
しかし柳糸は魔法をぶつけ相手の腕をすばやくはじくと相手と見合った。
「紅雷!黒雷さんを連れて行け!このままじゃ、お前らが先に死ぬ。」
「俺は紀伊を助けに!」
「実力差に気づけ!」
紅雷は一度紀伊に目をやった。
紀伊の血が体を濡らしていた。
「紀伊・・・。」
紅雷の言葉を聞いて紀伊は少し指を動かした。
「ごめん!紀伊、俺頼りなくて!ごめん!」
紅雷が消えると柳糸は追いかけようとした幹部の前に立った。
「お前の相手はこの俺だ!」
「雛ばかり・・・。」
男はそう呟くと柳糸に体術で勝負を挑んだ。
「できるか?柳糸?」
「さあ。」
霜月の言葉に柳糸は口の端を持ち上げると、この場から一人でも引き離すため相手の襟首を持つと、はるか下の地面に投げつけ、そして自分も降下しいった。
「はあ、二年の差で、ここまでしっかりしちゃうんだから。りゅうちゃん、偉いね。あれ?うちのなっち何してんだろう?」
紫端は上から相手の手を押さえると電撃を食らわせた。
「お前、母親相手に。」
「親なら、子供の話も聞くべきだとおもうよ。」
「・・・お前も少しは親の言うことを聞け。」
そういうと紅は倒れた。
「よし、片付いた。霜月、手伝おうか?」
「いや、いい。それより、紀伊を。」
紀伊は体を起こそうとした。
けれど内臓や骨を先ほどの衝撃で痛めたのか体は動くことがなかった。
(私、何しにここに来たの?何のために。皆の足で纏?私だって戦えるって思ってたのに。こんなはずじゃなかったのに。)
紀伊はもう一度だけ願ってみることにした。
(白竜、お願いだから。力を貸して。お父さん、お母さん・・・。)
紀伊のまぶたにはっきりと父と母の姿が思い浮かんだ。
(そう、いたずら好きじゃなくて頼もしかったお父さんに、皆に優しかったお母さん・・・。それに・・・いつも一緒だった軌刃。)
紀伊は小さく白竜と呟いた。
すると、小さな白竜が紀伊の目の前に立ちはだかった。
「来てくれて・・・ありがとう。最後の一回、聞いてくれる?」
それは小さな蛇のようなものだったが、速度は今までとは比べ物にならなかった。
気がついた秋霖が止めようとする前に秋霖の腕をえぐった。
秋霖は怒りをあらわに紀伊に近づいてくる。
その時だった。
秋霖は立ち止まり、振り返った。
そこには息子二人が立っていた。