第100話 この親にしてこの子あり
「お離し下さいませんか。」
紀伊の前に幹部が二人立った。
紫端と霜月であった。
二人は手に魔法をためていた。
「私に攻撃する気か・・・。面白い。紅、相手をしてやれ。」
そう言うと女が後ろから現れた。
「紫端、お前は母に刃向かうのか?」
「もう、子供じゃないんだから。善悪の判断は自分でつけられます。まったく母上は子供のこと全く信用してないんだからさ。ねえ、霜月。僕、こっちやるからさ、きぃちゃんお願い。」
紫端はそう言うと、楽しげに目を輝かせた。
「面白い、ならばその力見せてみよ。」
紅が笑うと、紫端は剣を抜き、斬りかかっていった。
「白。」
「はい。」
秋霖の後ろから目を閉じた女が現れる。
「まだいたか。女を相手にするのはあまり好きではないが、仕方ないか。」
「女と舐めていれば後悔するのは貴方ですよ?」
霜月は穏やかな顔をして服をなびかせた。
白という女は剣を両手に持ち、霜月の前に立った。
「お前はとんだ荷物だな。おとなしくしていればよいものを・・・。お前のせいでこれだけの者が戦いあうのだ。」
紀伊には秋霖の挑発であるということが分かっていた。
けれど、自分を助けるために今二人の人が戦っている。
それを自分は動けず見ているだけ。
(私のせいで・・・、私が弱いから。)
そんな時だった。
紀伊の目に東の方角で黒竜が暴れる姿が見えた。
そしてその竜は口をあけてこっちへとむかって来た。
それを止めるために秋霖の手は紀伊から離れ、なおも、秋霖を後ろへと押してゆく。
(軌刃が助けに来てくれた。)
「軌刃!」
大声で黒竜に向かって叫んだ。
紀伊もその場で白竜を召喚した。
「出でよ!白竜!」
紀伊の声と共に大爆発が起こり、大きな白竜が空に現れ、秋霖を飲み込んだ。
建物内にもその振動が届き、砂が降ってきた。
「紀伊なのか!」
大芝が叫ぶ。
八鬼は牢の前で手を止めた。
「今の爆発、あまり良くないな。お前・・・。霊体だったな。」
八鬼が不意にポツリと呟いた。
「何で、今そんなこと。」
大芝は全く意味がわからず、頷いた。
「この扉、結界が張ってある。だが鍵はない。結界だ。爆発させるぞ・・・。」
「お前まさかはなからこのつもりで・・・。」
大芝が相手の意図に気が付き、寄ろうとすると八鬼は口元を緩めた。
「黙っていろ。忠鬼にできて俺にできないことなんてあってたまるか。」
八鬼の体から、どこともなく血がこぼれ落ちた。
「お前!」
白い閃光があたりを包み、大爆発が起こった。
大芝が目を開けると、扉や壁は無くなっていた。
ただ埃が舞い上がりその向こうに気配を感じた。
「おい、今の爆発は!」
誰かが大芝の腕を掴んだ。
巳鬼だった。
「誰の自爆だ!今のは。誰がここで!」
巳鬼は取り乱していた。
その隣を紅雷と柳糸がすり抜けてゆく。
けれど紫奈は動かなかった。
その場で膝を抱えていた。
「巳鬼、今は大芝に詰め寄っても仕方ない。とにかく出よう。」
時鬼に諭され、巳鬼は走り出した。
廊下に戻ると、尚浴と透影が何事もなかったかのように立っていた。
その足元には秋霖の幹部二人が倒れ、拘束されていた。
「あんたら、強いな。」
「・・・一人足りないが?あの鬼族は?」
「ああ・・・。」
大芝が言葉を濁すと、尚浴は透影の背中を押した。
「とにかく、俺達はほかの者の援護を。」
尚浴は幹部を連れると透影と消えた。
大芝は一人、紀伊の居場所を探そうとした。
一人のはずだった・・・。
「琉陽様。」
大芝は驚き、隣を見た。
「花梨!」
「・・・私も参ります。紀伊の処へ・・・。」
「ダメだ!お前は逃げろ。」
「嫌です!秋涼も紀伊も私の大切な家族なんです!」
「だからって、お前が行っても戦えないぞ!」
「でも!嫌!あの二人が戦っているのに!逃げられない!」
大芝は少し花梨の顔を見つめていたが、花梨の手を取った。
「行こうか・・・。」
「え?」
「何か、紀伊はお前に似てる気がしてきた!」
「秋涼様!」
「お前秋矢なのか!何でそんなに大きくなったんだ?ああ、透影の技だな。処でどうなってるんだこれは?」
怪我一つ無く、捕らわれ身であった秋涼は入ってきた秋矢に軽く声をかけた。
「説明は階段を上りながら致します。とにかく早く!」
秋矢は秋涼の腕を掴んで引いた。
「おい、痛いぞ。秋矢!分かったから。」
けれど秋涼は扉の血を見てすぐに、状況を飲み込んだようで、呼吸を一つすると鋭い目を向けた。
「で?どんな状況だ?」
「最悪です。紀伊が捕まってます。早く助けてやらないと。」
「何だと!」
秋涼の顔から血の気が無くなり、真っ青になっていった。
「とにかく早く・・・。」
二人はそう言うと階段を上っていった。
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