表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/117

第10話 王子様?

夕日が平争の宮殿を照らす頃、大広間で宴が始まった。

視察を終えた紅雷達は来賓席に座り、国王の話に耳を傾ける。

国王はもう老齢であったが、威厳と風格があった。

その隣には若い王子が座っていた。

「国王に比べて王子は威厳が感じられないな。」

紅雷が退屈そう紫奈に呟く。

紫奈もまた王子に目を移すことなく小さく頷いた。

「どちらかというとね、でも幼いわけでもない。傀儡政権を作るにはもってこいという感じですかね。すべてが中途半端な感じだ。」

そんな二人の口を国王の話を聞いている風だった柳糸が魔法で塞いだ。

二人は急に開かなくなった口をあけようと頑張ったが柳糸の魔力に勝つことができず、結局顔を見合わせて静かに座っていた。

国王の話が終わり舞台では平争の伝統舞踊が流れ始める。

紅雷はやっと自由になった口を早速開いた。

「紀伊上手くできるかな。それが心配なんだけど・・・。紀伊はよく内輪の宴では秋涼様に教わった歌を歌ってたけど、こんなに大勢の前で大丈夫か?緊張してないか、俺、ひとっ走り見てこようか?」

紅雷は紀伊のことを心配しつつあたりにいないかと首を動かしていた。

そんな紅雷に紫奈が一言呟いた。

「親でも無いのに・・・。」

「お前は紀伊が心配じゃないのか?あんなに可愛いんだぞ?誰かに目をつけられたらどうするんだ。」

決して紀伊の前で言わないような言葉を言いながら、さらに立ち上がろうとした。

そんな紅雷の手を柳糸が掴んで座らせた。

「まあまあ紅雷。落ち着け。紀伊は変なところで根性の座っている子だ、大丈夫さ。」

紅雷はたしなめられるとソワソワしながら水を一気に飲む。

「紀伊頑張れよ。俺、ここで祈ってるからな。」

音楽が止み、伝統舞踊が終わった。

すると登場したのは紀伊だった。

紀伊は平争の王の前で一度最敬礼をし、その後、聴衆の前で軽く礼をした。

そして魔城から来た仲間を見つけると、安心したようにニコッと微笑んだ。

「紀伊〜、俺がついてるからな。」

「紅雷ついてても別に意味ないでしょう。」

「んだと?こら。」

すると柳糸はため息をついて二人の口を再び塞いだ。


部屋が静まると紀伊はまず自分の国の歌を歌った。

人々はその声量に圧倒され、紀伊に釘付けになった。

そして次に用意していたのは平争の歌だった。

国民なら誰でも知ってる歌。

その歌を歌うと、その場にいたものから歓声が上がった。

そして次第に聴いている者の目が細まってゆく。

紀伊はその観客の反応の心地よさに両手を広げて、微笑みかけた。


三曲目を歌おうとして王子の側に軌刃の姿を見つけた。

向こうは壁に寄りかかりながら笑顔で聴いていた。

紀伊はその姿を見つけると一呼吸置いた。

どうしてか、突然歌いたくなった歌があった。

普段、忘れてでてこない歌がどうしても歌いたくなった。

それは魔城の言葉でもなく、どこの言葉かも分からない自分の耳にだけ残っている歌だった。

その歌を言葉にするとどこからか暖かい気持ちが自分の中で湧き上がった。

(そういえば、昔、良く聴いたなあ。この優しい歌。)

歌い終えたときには観客からは拍手と歓声が起こっていた。

紀伊は礼をすると、一度軌刃を見た。

もうそこには彼の姿はなかった。

紀伊は一度崩れそうになった顔をもう一度持ち直し、笑みをたたえて舞台から去っていった。

そんな紀伊を紅雷は身を乗り出して拍手をしていた。

「過保護すぎだろう。お前。」

柳糸はそんな紅雷を見て笑った。

しかし紫奈はふと王の席を見、王子が居ないことに気が付くと立ち上がった。



紀伊は舞台から降りた後、与えられた控え室で汗を拭いた。

「今日はよく声も出たし、歌詞も間違えなかったし。それに・・・あの歌、歌えたし、最高。」

「子猫ちゃん、君の歌声はすばらしいよ。」

突然後ろからかかったあまりの寒い言葉に振り返る。

扉に寄りかかるように、男が立っていた。

「あの、どなたですか?」

紀伊は存在をいぶかしみ、尋ねた。

「子猫ちゃん。俺はこの国の王子様だよ。君を迎えにきたのさ。」

腕に鳥肌が立った。

(気持ち悪!何こいつ!)

切れ長の目に、長身痩躯の王子はどちらかというと麗しい部類に入るであろうが、彼の言葉が彼の第一印象を台無しにた。

紀伊はこの男に嫌悪感さえ抱き、瞬時に眉間に皺を寄せた。

男は気にしていないようで、一歩一歩近づいてくる。

その度に一歩一歩紀伊は後ろにさがった。

「おや、どうして逃げるのかな。王子の妾になれるかも知れないんだぞ?」

紀伊は後ろの壁に当たって相手を睨んだ。

(本当にこいつ気持ち悪!)

すると王子と名乗る男に髪を触れられた。

「美しい髪だ。それに美しい肌。気に入った。王子の妾にしてやろう。」

(嫌だ・・・つうの!)

けれど男の唇が迫ってくる。

紀伊は顔を横に向けて逃れようと試みた。

けれど唇が迫り頬に吐息がかかる。

(離れろ!この馬鹿!)

真壁(まかべ)様。そろそろお戻りいただきませんと。国王様がお探しでした。」

それは突然の声だった。

男はつまらなさそうに体を離すと、後ろを向いた。

「ちっ、良い時に。この続きはまた明日。じゃあね、子猫ちゃん。本当にお前は堅いなあ、男は女性と遊ぶことで自分を磨くのだぞ。」

そういうと王子は部屋から出て行った。

後半の言葉は自分を邪魔した男に向けられたものであった。

紀伊はあまりの気持ち悪さに座り込む。

(助かったあ。)

「大丈夫でしたか?」

軌刃だった。

心配そうな目をしていた。

「申し訳ありません。真壁様があのようなかたで・・・。でも悪い方ではないんですよ。本当はとても優しい方なんですが。」

「大丈夫です。」

不安を感じつつ介抱しようと軌刃は紀伊に躊躇いがちに手を伸ばした。

「紀伊!どうしました?」

軌刃はその声に慌てて手を引っ込めた。

部屋に飛び込んできたのは紫奈だった。

紫奈は先に部屋にいた軌刃をいぶかしみながら訊く。

「あなたは?」

紫奈の問いかけに答えたのは紀伊だった。

「私、緊張のあまりここで腰を抜かしたの、それでその音を聞いて、助けに来て下さったのよ。」

紫奈はあっさりそれを信じ、紀伊に腕を伸ばし起こした。

「そうでしたか。ありがとうございました。紀伊はもう大丈夫です。申し訳ないご心配をおかけして。」

紫奈が丁重に礼を言うと軌刃も頭を下げ部屋を後にした。

紀伊はその背中を寂しそうな目でみていた。

けれど紫奈の視線に気がつくと笑みを浮かべた。

「大丈夫よ。心配しないで。」

「最近調子が悪いようだから・・・。」

「本当にもう大丈夫。」

「本当に?では、戻ってます。」

そう言うと紫奈は紀伊のことを心配しつつも、大広間に戻っていった。

紀伊はため息を一つつくと部屋に戻ることにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ