ユメのアナタへ
アナタに愛おしい人はいますか?
愛のカタチなんてどうでもいいのですが……
何かを愛せるということは良い事だと思います。
……ま、そんな現実の私に恋人は居ませんが。
──眠らないの?
傍らに居る、最愛が問い掛けて来る。
「ああ、まだ眠りたくない」
──覚めるのが、コワイノ?
「そうだな。覚めればもう、会えないかもしれないからな」
重すぎる瞼を何とか持ち上げながら、私はそう返す。
最愛を失うのがコワイ。
それは、人として共感してくれる者も多いのでは無いだろうか。
──ワタシが、ユメだから?
「それでも、俺はお前を愛してる。たとえ、泡沫の存在だとしても」
これだけは変わらない。
たとえ人でなくても。
たとえ──存在して居ないとしても。
「ユメから覚めれば、思い出す事もできないかもしれない」
それが、コワイ。
誰よりも最愛である傍らのモノを忘れ、失ってしまうことが。
──またいつか会える。
「その保証は無い」
──たとえ忘れてしまっても、ワタシはアナタ。その何処かに居続けるの。
──だからいつか、また会える。
「そう、だろうか」
──たとえ会えなくとも、忘れようとも。
──ワタシはアナタの何処かに。
──アナタを縛り続ける鎖となりましょう。
「そう、か」
瞼が、重い。
限界が近いのだろう。
「お前は、どうして……」
──ワタシはアナタのユメ。
──アナタの見るユメ。
──そこにワタシが居なくとも。
──アナタが覚えていなくとも。
──ワタシタチはアナタが見るユメ。
──眠ればそこに居る。
──眠らずとも、そこに居る。
その言葉に、何処か安心を覚えた私はとうとう瞼を降ろす。
──オヤスミナサイ。
おやすみ。
──いい夢を。
ありがとう。
まるで、水に深く沈んでいた身体が浮き上がるかのようにして、ユメから覚める。
「あ、あああ……」
──私は直ぐに綴る。
まだ悲しめるうちに。
身を裂くような哀しみが消えぬうちに。
泡沫の夢の、出来事を
「──私は何をやってるんだろうか」
手元に残ったこの文を見て、思わず零れた言葉。
「ああ、また私は夢を見たのか。こうして証を残せたのは珍しいな」
残る眠気に目を擦れば、僅かに残った涙が手を濡らす。
「さて、会えた相手は……ユメ、か。知らないな。あったことが無いか、忘れてしまったのか……いや、こうして残っているという事は、忘れてしまったのか」
滲む瞳を天井に向け、ほんのりと微笑む。
「──また、会えるといいね。私」
──これは、夢で会った愛しき人を忘れたくないと願った夢の話。
この時の私は忘れまいと必死に書いたのでしょうが……夢の全てを覚えているのは難しいこと。
またいつか会えることを楽しみにしています。