§066 ダンジョンの可能性 12/11 (tue)
その後、俺達は、山頂からしばらく下りたところにある、ちょっとした山の隙間の広場で、ドリーを取り出して野営を始めた。
山腹の開けた場所に設置すると、アイベックスのようなモンスターに激突されて、あっというまに崖下に転落、なんてことが起こるかも知れないからだ。
俺は早速、エンカイがドロップしたアイテムを取り出して、三好に鑑定を依頼した。
「うわっ、流石神さま。サスカミです」
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ンガイの腕輪 Bangle of Ngai
AGI +50%
MP +50%
Magic Damage Reduced by 80%
90% Damage Taken Goes to MP
Auto Adjust
ンガイが自らを護るために創造した腕輪。
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ンガイの指輪 Ring of Ngai
All Status +20%
Auto Adjust
ンガイが自らを護るために創造した指輪。
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三好が書き出した情報を見ると、ゲームなら結構な壊れ性能だった。魔法のダメージを80%カット? あのバカみたいな魔法耐性はこの腕輪のせいだったのか。
もっともダメージの90%をMPに振り分けるのは諸刃の剣だな。
「リングは先輩向きですね。私じゃ10が12になっても嬉しくも何ともないですから」
「なら、腕輪は三好が使えよ。少しは死ににくくなるだろうし」
「了解です。でもデザインがおそろいっぽくて、ちょっと誤解を招きそうですね」
そんな軽口を叩きながら、三好が腕輪に左腕を通すと、一瞬でサイズが変化して、彼女の左手首に落ち着いた。
「おおー。これがオートアジャスト機能ですか。凄いですね」
俺も指輪をつまみ上げた。
オートアジャストでどの指にもフィットするんだろうけど、右手に付けると邪魔になりそうだ。なので、左手の一番邪魔にならない小指をチョイスした。
「先輩、男性のピンキーリングは、ちょっとチャラくないですか?」
「え、そうなの? てか、別にピンクじゃないだろ、これ」
その指輪は、精緻な民族的文様に彩られた、やや幅広の物だった。
「ピンキーリングっていうのは小指に付ける指輪のことですよ。まあ、セクシーだとかオシャレだとか言う人もいますけど……」
「ああ、はいはい。ただしイケメンに限るってやつね。いいんだよ、一番邪魔にならない指にしただけだから」
そのときはそう言ったが、左手の小指、実はそれが、恋人くれくれサインであるなどと、誰が想像しただろうか。
ファッション業界は、意味不明な縛りが多すぎる。
俺は、指輪の効果をチェックするためにメイキングを開いた。
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Name 芳村 圭吾
RANK 1 / SP 523.448
HP 432.00
MP 240.00
STR (-) 200 (+) (240)
VIT (-) 100 (+) (120)
INT (-) 100 (+) (120)
AGI (-) 200 (+) (240)
DEX (-) 100 (+) (120)
LUC (-) 100 (+) (120)
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> 三好 梓
「おお、ちゃんと20%増しになってるっぽい」
「先輩、私は?」
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Name 三好 梓
SP 50.937
HP 22.25
MP 33.05 (49.575)
STR (-) 8 (+)
VIT (-) 9 (+)
INT (-) 18 (+)
AGI (-) 11 (+) (16.5)
DEX (-) 13 (+)
LUC (-) 10 (+)
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「ちゃんと適用されて……んん?」
「どうしました?」
「お前、余剰SPが、50.937 になってるぞ」
「うっそ。それってやっぱり神さまのせいですかね?」
だろうな。
ゲノーモスの経験値は初回で0.13だ。三好も100やそこらは倒しているだろうが、それでもたった、1.551にしかならない。
ゲノーモスの数は曖昧だが、そのほかのモンスターは正確に討伐数が記録されている。
そこから逆算すると、大体45ポイントくらい増えているようだ。
「はー、サスカミ。先輩と二人分だとすると90ポイントですよ。登場層x5ですね。神さま係数ですかね、5」
「しらんよ。それはともかくだな。お前、何を伸ばしたい?」
全ポイントを好きなように出来るのは今だけだ。
数日経てば、半分は自然にステータスに変わるだろう。
「そうですねー。やっぱINT?」
代わる代わる首だけ影からだした、アルスルズの口に、カラアゲを放り込みながら三好が言った。
「40加えたら、あと10匹召喚できるとか考えてないだろうな」
「何故それを……」
「わからいでか」
つか、あと10匹も召喚してどうするんだよ、ご褒美の魔結晶の消費量が跳ね上がって死ねるだろ。
「もっと、こう。LUCとかあげた方が良いんじゃないか?」
「んー、そっちは先輩に任せますよ。今の値が検証には丁度良い感じですし。普通の人のドロップ率も推し量れるでしょ?」
それもそうか。
「STRやVITを多少上げても、エンカイみたいなのが出てきたら、瞬殺には違いないですもん。あんまり均等もどうかなと思うわけですよ」
「んじゃ、せめて攻撃を避けられるように、AGIは上げといたほうがよくないか?」
「INT-AGIスタイルですか」
三好は少し考えていたが、思いついたように言った。
「ところでアルスルズって強くなるんですかね?」
それは俺も知りたい。
エンカイには擦っただけでやられていたが、ゲノーモスは普通にかみ殺していた。
経験値的に言えば、ゲノーモスはヘルハウンドの2倍だ。
「そいつら、最初っから全然普通のヘルハウンドじゃなかった気がするけど……鑑定できないのか?」
「やってみたんですけど、分かるのは今の状態くらいでした」
現在のHP/MPっぽいもののパーセンテージみたいな表記らしい。絶対値じゃないと強さは測れないか。
だがもしも強化されないのだとしたら、この先、なんの役にも立たなくなる階層がやってくることは間違いないだろう。
「ゲームの世界なら、主人のパラメータによって強化されたり、普通に経験値取得で強化されたり、後はイベントや、特殊なアイテムで強化されたり、かな」
「魔結晶を食べさせると強化されるとかですか?」
「そんな感じだ。魔結晶かどうかはわからないが。というか、本人に聞いてみれば?」
「あ、そうですね!」
そういうと、早速三好はカヴァスにいろいろと質問をしていた。
いや、おまえ、ステータスの割り振りはどうするんだよ。
仕方がないので、俺はぼんやりと表の様子をモニタで眺めながら、明日以降のことを考えていた。
鳴瀬さんには、12/10~12/14までは潜っているかも知れないから、自由に事務所を使って良いと伝えてある。
「ま、事務所の庭には、グレイシックがいるからな。事務所内にいる間はほぼ大丈……」
そう言いかけた俺の目の前の影から、ヒョイとヘルハウンドの頭が飛び出して、呼んだ? とばかりに首をかしげた。
「なっ……おい、三好。これ、グレイシックなのか?」
実は俺には4匹の見分けがほとんどつかない。俺に懐いているのがドゥルトウィンだろうくらいしかわからないのだ。
三好がこちらを向いて、「そうですよ」と言った。
「いやいやいやいや、グレイシックって事務所で留守番だろ? え、じゃあ鳴瀬さん今無防備なの?」
「いえ、今はアイスレムが庭にいると思いますよ」
「はぁ?」
アイスレムはさっき三好をかばって殴られていたはずだ。混乱する俺に、三好が説明をしてくれた。
それによると、事務所の警備はどうやら適当なローテーションで行われているらしい。
「まて。それじゃなにか? こいつ等の影に潜って移動する力って、ダンジョンの中と外でも有効なのか?」
「ある程度以上離れたときは、お互いを目標に入れ替わることで移動するみたいですから、完全フリーとは行きませんけど、まあそうですね」
そうでないと、1匹だけ留守番なんて、嫌がって誰も言うことを聞いてくれませんよ、と三好が笑った。
それは、まあ、わからないでもないが……
「いや、三好。それってダンジョン中と外で連絡が取れるってことなのでは……」
「え? でもこの子達、しゃべれる訳じゃないですよ?」
「そいつら、カンテラ付けたまま影に潜ってただろ。それって、手紙を身につけさせればそれが届くし、ビデオデバイスを身につけさせればビデオメールが届くってことだろ!?」
「ああ、かもしれません。もっとも、入れ替わりが、身につけたアイテムごと出来るかどうかはやってみないとわかりませんけど」
もしもそれが可能なら、あるのかどうかもわからないドロップ目当てに、コロニアルワームを狩らなくていいじゃん! こいつ等、もしかして凄くないか?
「お前等、使えるなぁ」
グレイシックは嬉しそうにハッハッと舌を出していたが、俺が何もくれないことが分かると、影から首を出したまま三好の方へとすり寄って行った。現金なヤツ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
三好がカヴァスから聞き取った内容は、非常に曖昧だったが、指針にはなった。
・主の(たぶん)MPの増加に連動してステータスが増える
・魔結晶の摂取によって、ステータスとスキルが増える
・戦闘によっても成長するかも
らしかった。
「なら、やっぱりINT中心ですね」
「それはいいけど、大量に召喚するのは面倒が増えそうだから、やめとけ」
なにしろ一旦出しちゃえば、引っ込めることができないのだ。沢山いるなら1匹くらい研究に寄付してくれとか言うやつが、絶対に出る。
あと、4匹でも混乱するんだから、10匹とか絶対覚えられん。
「そうですねー。そうだ、先輩と一緒に行動するとき、今のままだとキツイことがあるので、AGIも上げて下さい」
「移動問題か。人目のあるところで抱えて走るのも難しいしなぁ……じゃ、とりあえず、AGIを20に、INTを40に増加……させたぞ。何か違うか?」
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Name 三好 梓
SP 19.937
HP 23.60
MP 69.60 (104.4)
STR (-) 8 (+)
VIT (-) 9 (+)
INT (-) 40 (+)
AGI (-) 20 (+) (30)
DEX (-) 13 (+)
LUC (-) 10 (+)
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「おお? なんか体が軽いかも知れませんよ?」
「腕輪の力で一気に3倍近くになってるからな。あんまり調子乗ってると、壁にぶつかるぞ」
俺は最初に100にしたとき、あまりの移動速度に壁に激突した。
VITも上げてたから大過なかったけど、三好のVITは一般人なみだ。トマトケチャップになるのは見たくない。
「先輩じゃあるまいし、そんなヘマはしませんよ」
「さいですか。あ、後、鑑定で少しでも分かり易くなるように、STRやVITも10にしとくか」
「それはいいかもしれません」
三好は自分のパラメータが書き出された紙を見ながら言った。
「じゃ、STRとVITを10にして、あとは、INTを50、残りをDEXで、すぐに1ポイント溜まりそうだから、そしたらそれを加えていずれはDEXを20にしてください」
「了解」
結局三好の現在のステータスはこうなった。
()内はアイテムの補正後の値だ。
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Name 三好 梓
SP 0.937
HP 27.00
MP 86.80 (130.2)
STR (-) 10 (+)
VIT (-) 10 (+)
INT (-) 50 (+)
AGI (-) 20 (+) (30)
DEX (-) 19 (+)
LUC (-) 10 (+)
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HPがひじょーに心許ないが、腕輪の機能でダメージの9割はMPが吸収してくれるから大丈夫だろう。
「これでアルスルズが強化できるといいな」
「はい」
「そうだ、アイテムと言えば……おまえ、椅子をがめてただろ」
「あははー、バレましたか。ドロップアイテムじゃないアイテムはゲットできるのか、と思いまして」
「いや、あんなでかい物、バレないわけないだろ! 鑑定はしたのか」
「収納するときしました。名前は、the throne of Ngai。本当に黄金でしたよ? 重すぎてここじゃ出せませんけど」
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ンガイの玉座 the throne of Ngai
ンガイの黄金で出来た椅子。
Regenerate HP +200%
Regenerate MP +200%
玉座に座らんとするものは、相応しき力を見せよ。
さもなくば、玉座はそのものを拒絶する。
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「ンガイの玉座ときたか。確かに100kgくらいはありそうだったが……」
「先輩、金の比重は19.3くらいですよ。ざっくり20と考えても、100Kgったら、5000cm3しかありません」
「じゃ、もしも、全部が純金で出来ているんだとしたら、100Kgじゃ、椅子の脚1本分にしかならないのか」
「ですです。だから多分、600Kgくらいありますよ、あれ」
「しかし24Kの椅子に座ったら、足が曲がったり、背もたれが曲がったりしそうだけどな」
「そこがンガイの黄金と記されている所以なのでは」
「で、このフレーバーテキストは?」
「そんな事が書いてあっただけなので、なんとも……ンガイ以外が座ったら呪われそうですよね」
「ツタンカーメンのマスクかよ」
俺達は目を見あわせて、今のところ座るのは辞めておこうと心で誓い合った。
HP/MPの回復速度2倍は場合によっては便利そうだが。
「山頂で取得したアイテムはこんなもんだな」
「あ、私はもう一つあるんです」
そう言って三好は、収納から1本の木らしきものを取り出した。
「なんだそれ?」
「ムフフ」
三好はニヤニヤしながらそう言った。
「いや、そんな悪巧み丸出しの、気持ち悪い笑いはいいから」
「気持ち悪いって失礼ですね。これはムフフなんですってば」
「むふふ?」
「ブラキラエナ・フイレンシス。通称ムフフと呼ばれる木なんですよ。スワヒリ語らしいですけど」
「相変わらず、魔法の呪文にしか聞こえん」
「本来は、低地乾燥林に生える木なんですが、低緯度のケニア山同様、この辺にも生えていました」
ムフフは非常に硬い木で、重機が乗っかるような床材に使われたりもするらしい。
「で、それが?」
「先輩。ダンジョンのモンスターって、倒せば消えちゃうから持って帰れませんよね?」
「そうだな」
「なら、ダンジョン内にある木とか石とか、持って帰れるんですかね?」
そういわれると、そんなことは考えたことがなかった。
ダンジョン行のあと、埃っぽくなった服は、地上に上がっても埃っぽいままだ。そう考えると、持って帰れると考えて良いだろう。
「持って帰れるんじゃないか?」
「なら、持って帰った後、切った木はどうなるんでしょうね?」
俺は三好が言いたいことが何となく分かった。
モンスターならリポップする。だが、ダンジョン内の移動可能なアイテムや植物は?
壁は破壊不能かも知れないが、そこに生えている植物は切り倒せるのだ。なら、そこにある植物はリポップするのか? 持ち上げられる石ころは?
「常識的に考えたら、そのままだろう」
「でも、たぶん誰も検証したことがありません」
きっかけは三好が作った3Dマップ作成ツールだったらしい。
2層以降へ降りるようになった後、いつも通る道で、3Dマップ上に形作られる植物の形状がいつも同じだったのだ。
もちろん誰もなんにもしていない可能性はある。だけど本当に誰も枝を折ったりしないのだろうか。なにかの手慰みに。
「いや、しかし、切り倒した木が、ある日突然復活したら目立つだろう。そんな話、聞いたことがないぞ」
「それは、この3年で調査した人がいないだけかも知れないじゃないですか。大体先輩、誰も手入れしているとは思えない下草が、3年間で伸びたり枯れたりしてなさそうな理由はなんです?」
それは確かにその通りだ。森林層の通路の草が伸びて邪魔になったから刈ろう、なんて話は聞いたことがない。
同じ疑問は、ボス戦で召喚されるお供にだってある。
倒されたハウンドオブヘカテのお供達は、再召喚されるかボスが死ぬまで消えなかった。それなら、その倒したヘルハウンドを、だれかが地上へ持って帰ったら、持ち帰れるのだろうか?
決着を付けず、相手を倒さず、延々とヘカテの相手をする探索者がいれば、そのまま地上で解剖などの調査を行うことができるのか?
ダンジョンは、ドロップアイテムを持ち帰ることを人類に許可している。だが、それがどこまで許されるのかということは、あまり調べられていない。
「もし復活するとしたら、なにかいいことがあるか?」
ダンジョン内には大きな木も多いが、それを木材資源として利用するほどではない。
せいぜいが1品物の家具を作るくらいだろう。社会に対して大きな影響力があるとは思えない。
「食料ドロップの話があったじゃないですか」
「? ああ」
「あれ自体は、飢餓地域にとって素晴らしいことだと思うんですよ」
探索者の数って言う壁はありますけどね、と三好が肩をすくめた。
「それを聞いて思いついたんですが、ダンジョンって、その内部にいろいろな環境が存在してますよね」
「代々木にも溶岩層(11層)とか氷雪層(19ー20層)とかあるもんな」
「農業が不可能な寒冷地や乾燥地にあるダンジョンでも、その中には、農業に適した環境を持った層があると思うんです」
代々木で言えば、2層ー4層の草原や林の層だな。
「もしそこで、広く農業を行うことができたとしたらどうでしょう。仮に、植えた麦とかが普通に育ったとして、ダンジョンはそれを持ち帰ることを許すでしょうか?」
「普通に生えてる木を持ち帰れるんなら、そこで育った麦も収穫できるかもしれないってことか?」
「そうです」
しかし、仮にそれが可能だとしても、それなりに広いと言われてる代々木ですら半径5Km程度なのだ。大規模な農業は無理だろう。
「そこですよ、先輩。だからこの実験の結果がとても重要なんです」
そこまで言われて、俺は三好の言いたいことを理解した。
「もしダンジョンが、その中に生えている植物を切り取られる前の状態にリポップさせたりしたら……」
「そうです。そして、もし種から育てた穀物が、最初からダンジョンにある植物だと認識されたりしたら」
「無限に収穫できるかもしれない、魔法の畑が生まれるってことか!」
「凄いですよね」
凄い。確かに大発見だ。だが、ちょっとまて。
「しかし、それとンガイの玉座は関係ないだろう」
「何を言ってるんですか、先輩! もしもあれが黄金で出来ていて、ンガイの復活と共にリポップするとしたら、黄金、おかわりし放題ですよ! 50層なんて無視ですよ!」
「その案には、絶対に避けて通れない、命に関わる大問題があるだろ!」
あんなのと毎日戦うとか、どこの戦闘狂だよ!
「てへへ。まあ、そうですね」
「まったく。あとは、ンガイの復活が、実は椅子の上で行われるなんてことがないことを祈っとけ」
あ、それは考慮していませんでした……と三好がちょっと焦っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
明けて12日と13日、俺達は、ひたすらゲノーモスを狩り続けた。
マイニングは、その検証をいろいろな人や国にやらせるためにも、ある程度の個数が必要だったからだ。
なお、ンガイは玉座の上に復活しなかった。
あの産道の奧にある、聖所で復活するのだろう。たぶん。
神殿前の広間に入らず、洞窟への入り口付近から、アルスルズを囮につり出して攻撃していれば、特に危険らしい危険はなかった。
石つぶての防御には、なんと重ねた布団が有効だった。凄いぞ布団。火を使う魔物がいないのが幸いだった。
狩っても狩ってもゲノーモスは尽きなかった。
それはまるで、マイニングを取らせるための手段なのではと疑ってしまうくらい、いつまでも涌き続けていた。
結局11-13日の3日間で、俺達は、7個のマイニングと、地魔法・暗視・器用を1つずつゲットして、18層を離れることにした。
そして、翌14日。俺達はマイニングを使用して20層へと降り立った。
RU22-0012の内容を検証するためだ。
代々木の19層と20層は、氷雪層だ。
登場するモンスターは、イエティ、アボミナブル、アイスクロウラー、そしてスノーアルミラージと言ったところだ。(*1)
そして、20層では、そのどれもが、銀色のインゴットをドロップした。対象金属は――
「バナジウムですね」
鑑定を使った三好がそう言った。大きさは大体113mmx52mmの金地金サイズ。ただし厚みが3倍くらいある。
バナジウムの比重は金の1/3未満だ。つまりは1kgのインゴットなのだろう。
確率は、三好が33%、俺が100%で、どのモンスターもほぼ同じだった。こちらもLUCに関わりがあるようだ。
それだけ確認した俺達は、そそくさと地上へと帰還した。今代々木のこのあたりにいるのは各国のトップエンドに違いない。
こんな場所で、サイモン達と鉢合わせするのは御免なのだった。
*1) イエティとアボミナブルは所謂雪男。アイスクロウラーは、地面を這いずってくる蛇や芋虫状のモンスター。アルミラージは角のある兎です。