§044 デート?(スライム虐めともいう) 11/24 (sat)
そうしてやってきた土曜日。
待ち合わせのYDカフェに行ってみると、いつもの目立たない隅の席で御劔さんが小さく手を振っていた。
正統派美人の可愛らしい振る舞いというのは、なかなか破壊力がある。
勘違いしてふやけそうな顔をなんとか引き締めて席へと向かった。
「おまたせ」
「いえ、私もさっき来たところです。なにか飲まれますか?」
御劔さんのカフェオレは、もうほとんど残っていなかった。
「いや、よかったらすぐに行こうか」
「はいっ!」
この日のため、というわけじゃないけれど、俺は生命探知のオーブを使用していた。
基本的にパッシブに近い機能のようで、ダンジョンに降りてそれを意識すると、生命探知はすぐに仕事を開始した。なんというか、近くにいる人間やモンスターの位置が漠然とわかるのだ。
「こっちだ」
そう言って、彼女を誘導すると、いつもよりもはるかに早くスライムを見つけだした。
「今日は特訓だから、最高記録を狙ってみないか?」
「はい! 楽しそうです!」
この姿勢が、彼女の凄いところなのかもなぁ。
その後は、ダッシュで入口まで戻って、俺の生命探知でスライムを見つける、を黙々と繰り返した。
あまりのテンポに、彼女に付き合っただけの俺ですら、悟りが開けそうだった。
お昼ご飯を食べるのも忘れて叩き続けた結果、平均1時間に50匹、6時間ちょっとで300匹を記録した。
300と言えば、今日1日で6ptアップだ。
付き合った俺も、155匹という最高記録を更新した。
ただ、一緒に入り口を出ると目立つので、ずっとダンジョンの中で待機していたため、リセットの恩恵は受けられなかったが。
「はー、流石に疲れましたね」
「300匹って、多分世界記録だよ」
「スライムを探す時間にほとんどロスが無かったですから。だけど、なんであんなにすぐ見つけられたんでしょう。芳村さんってやっぱり凄いんですね」
「たまたまさ」
そう言ったとき、彼女のお腹が、可愛くくぅ~っと音を立てた。
彼女は顔を赤くしてうつむいた。
丁度16:00前くらいの時間で、ランチの時間のとっくに終わっているし、ディナーの時間には全然早かった。やってるところと言えば――
「あー、そういえばお昼も食べてないや。よかったらYDカフェで、何か食べて帰ろうか?」
「はい!」
そうして俺たちは、YDカフェでパスタセットを食べた後、明日の約束を確認して別れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ただいまー」
「おお、リア充さまがお帰りになられましたよ」
「うっせ。そうそう、三好。今日凄い経験をしたぞ」
「なんですか。ダンジョンの中でキスしたとか、そう言う話は受け付けませんよ」
「ちげーよ! 生命探知のおかげもあって、超高効率プレイだったんだけどさ。おかげで俺も155匹を倒したわけ」
「それで?」
「当然オーブの選択が出るだろ? 彼女に隠れてこそっとゲットしたんだけど、2回目の時、クールタイムが切れているものがなくて、取得できるオーブがなかったんだ。そしたらさ」
「な、なにかのシークレットが?!」
目を¥にした三好が食いついてくる。
「いや、選択ウィンドウ自体が出なかった。結構経ってから過ぎてたことに気がついたんだ」
「全然うれしくも面白くもない情報をありがとうございました。しかも単にチャンスを1回棒に振っただけという」
「いいだろ、新体験なんだから! あと、YDカフェのパスタセットは、毒にも薬にもならないフツーとしか言いようのない味だった」
「それは、ナイスな情報です」
「そうかぁ?」
「しかし表示されない、ですか。『賢いプレイヤーっていうものはいつも何かを拾って持てるように少しは考えとくもんだぜ!』って、言われるのかと思いました」(*1)
「お前、歳いくつだよ」
*1) Wizardry #4 The Return of Werdna




