表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/218

§041 三代絵里 11/22 (thu)

日間・週間・月間1位だそうで、これも読んで下さっている皆様のおかげです。

ご感想も沢山頂いて嬉しいのですが、個別にご返信するのがやや難しい量ですので、この場でお礼申し上げます。ありがとうございました。


今後の展開ですが、4章から世界のダンジョン攻略が加速して、主人公たちも腹をくくるようです。

お楽しみに。


「あ、大丈夫でしたか?!」


小川の向こうから、コンパウンドボウを構えていた女性が声をかけてきた。


「え? ああ、まあなんとか」


俺は曖昧に笑うと、小川で手を洗った。


「それで、彼の容態は?」


川を飛び越して近づいてみれば、一緒にいた男の腕は、随分酷い状態のようで、脂汗を浮かべながら横になっていた。


「一応止血だけはしたんですが……薬も道具もないので」


そう言って彼女は心配そうに、男を見ていた。彼氏なのかね?


しかし困ったな。5層の入り口付近にいる連中の所まで送って別れるつもりだったんだが……かといって、このまま拠点車に連れて行くのもためらわれる。

一応、三好が用意した普通の救急セットもあるにはあるが、どうやら右の前腕をごっそりヘルハウンドに持って行かれてるっぽい。

医者ならすぐに肘の先で腕を落として治療しかねない大けがだ。普通の救急セットで間に合うとはとても思えなかった。


「……仕方ない」

「え?」


三好、すまん。


「使いますか、これ?」


俺はバックパックからを装って、さっき手に入れたポーションを取り出した。

それに触れた女は、思わず声を上げていた。


「え? ええ?! ヒールポーション?! しかもランク5!!」


しまった、ポーションのランクなんかチェックしていない。ランク5って凄いのか?

「ランク5!」と三好が叫ぶ声がイヤープラグ型のデバイスから聞こえてくる。


「こ、これ……でも……」


彼女はポーションと、男を交互に見ながら、葛藤していた。


「早く使わないと拙いんじゃないですか?」


俺がそう言うと彼女は覚悟を決めたような顔をした。


「ありがとうございます。必ずお支払いします」


そう言って、男に駆け寄ると、ポーションを少しずつのませている。


あー、やっぱり飲むものなんだ。患部にかけてもいいのかな? なんて考えていると、大きなあくびがひとつ出た。

超回復を持っていても、緊張や集中をしていないと眠気は襲ってくるようだ。そうでなきゃ不眠症になるからだろう。


相も変わらずダンジョンアイテムの効果は劇的だった。

アーシャの超回復の時ほどではないにしろ、筋肉はおろか、骨まで欠けていた前腕の内側が、みるみる盛り上がって元に戻っていく様はまさに圧巻と言える。


ポーションを全て飲み終わる頃には、男は完全に回復していた。


「え? あれ? 姉ちゃん?」


もうろうとしていた男は、意識がはっきりすると、不思議そうに自分の腕を眺めて言った。

なんだ、姉弟だったのか。


「翔太!」


女は涙を浮かべて弟に抱きついた。仲いいな。


「一体何が……俺の腕……ついてる」

「あの人が……」


そう言って彼女はあったことを弟に説明していた。


「ランク5?!」


黙って話を聞いていた弟が、驚いたような声を上げると、俺の方を厳しい眼差しで射貫いてきた。

え? ここは感謝される場面じゃないの?


「俺は助けてくれなんて言ってねぇし。別に大した怪我もしてなかったし」

「し、翔太?」


は? いきなりなにを言い出すんだ、こいつ?


「大体ポーションを使ったなんて証拠はないし」

「ちょっと、あなた! 何を言い出すの!」


うんまあ、そうかも。厳密に言えばあるのかも知れないけれど、俺はしらん。


「ご、ごめんなさい。うちの弟、錯乱しちゃってて」

「謝ることなんかないよ! 姉ちゃんは騙されてるんだ!」


はい?


「そのヒヒジジイは、ランク1でも充分なところにランク5なんてポーションを持ち出して、姉ちゃんを借金漬けにして自由にしようと目論んでるんだよ!」

「翔太!」


おお! それは初耳、お釈迦様も吃驚だぜ。ああ、もう面倒くせぇな。

イヤープラグからは、「一応録画してありますけど」といいながら、三好が肩をふるわせて笑いをこらえている雰囲気が、ありありと伝わってくる。


「あの、もういいですから。そっちへ行くとすぐに4層への上り階段です。何組かのチームが野営してますから、そこで朝まで過ごして帰られるといいですよ」

「え?」

「いや、ですから……」

「ほっとけよ! いいって言ってんだからさ! いくぜ、姉ちゃん。そういや、坂井と当麻は?」


ああ、あの逃げ出したやつらか。


「逃げたみたいですから、同じ場所に居るんじゃないですか?」

「なら、すぐに行こうぜ!」


お前達姉弟を餌にして逃げたヤツラだけどな。それを知っている姉の方は、とても複雑な顔をしていた。


「これ、私の連絡先です。必ずお支払いしますので……失礼ですがお名前を」

「別に名乗るほどのことでは。文字通り犬にでも噛まれたと思って忘れますよ」

「そんな……」


泣きそうな顔を向けてきた彼女は、基本的に善人なんだろう。

別に優しくすることだって出来ただろうが、ヒヒジジイ扱いされたら多少は腹も立つ。彼女のせいではないってことは、よく分かっているけれども。


「なにやってんだよ、姉ちゃん! 早く行こうぜ!」

「大丈夫。きついことを言って申し訳ない。ほら、行ってください。きっとまたどこかで会えますよ」

「すみません。できれば連絡を下さいね」


そういって、彼女は弟の後を追いかけていった。


三代(みしろ)絵里(えり)、ね」


俺は貰った連絡先を仕舞いながら、拠点車へ向かい、彼女たちとは反対の方向へと歩いていった。


彼女の再登場は結構先です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍情報
KADOKAWA様から2巻まで発売されています。
2020/08/26 コンプエースでコミックの連載始まりました。
作者のtwitterは、こちら
― 新着の感想 ―
支払いヤバいからフリで要らなかたのになーしてるんじゃなくて、もしかしてシラフ?
なんか長文で文句言ってる人いますけど、飼い犬ではなく道端の犬に噛まれた的な表現ですし、ポーションで腕生やしてるので1晩寝て冷静になったら後悔はしてると思いますいよ。
[気になる点] 彼女の再登場いらないのでは、作者さんは擬似ハーレムでも作ろうとしているのでしょうか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ