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204/218

§203 3/23 (sat)

昨日は、甲府で今年初の夏日を記録した。そんな、まるで春と言うよりも初夏のような陽気が続いていたところだが、今日は一転して、まるで冬がもう一度やって来たかのような寒さだった。


「いやあ、先輩。昨日はまいりましたね」

「鳴瀬さんって、怒ると怖いのな」

「もう二人とも床に正座ですからね。あんなの小学校以来ですよ」


昨日の鳴瀬さんの追及は、なかなか厳しかった。

なにしろフランスのダンジョン協会から捜索の問い合わせが来て、誘拐まで疑われていた重要人物が、『おなか減った~』などと言いつつ、うちの事務所の二階から下りて来たのだ。そりゃあ驚くだろう。

しかも、フランスのダンジョン協会経由で捜索を依頼したのは、フランスのCOS(特殊作戦司令部)関連らしく、そこの中佐が確認に来ていたそうだ。


「ヴィクトールさんたちの捜索の指揮を執っていた人だそうですから、日本に来ているダンジョン攻略部隊の責任者っぽいですよ」

「なんでそんな連中が、どうして宗教団体の聖女を探してるんだ?」

「彼女さんか、ストーカーですかね?」

「よせやい」


鳴瀬さんに訊いても、その辺はよくわからなかったらしい。

単純に、日本での滞在場所から消えてしまったので、誘拐も視野に入れているが大袈裟にしたくないとか何とか。

それなら、その宗教団体が警察に届けそうなものだが、そんな様子はないそうだ。


「だけどさ、彼女が捕らわれていた場所って、デヴィッドってやつがイザベラを拘束していた場所じゃないのか? デヴィッドって教団の代表なんだろ?」

「そのはずですけど」

「マリアンヌって教団の聖女なんだろ?」

「そのはずですけど」

「じゃあなんで聖女が、代表に拘束されてんのさ? それって反教団組織辺りのやりそうなことだと思うんだけど」


見張りに立っていた連中は、どう見ても宗教団体の信者って感じじゃなかった。

荒事のプロって雰囲気がプンプンしていた。


「デヴィッドさんが反教団も指揮してるんですかね?」

「体制と反体制を両方手のうちに入れて争わせながらコントロールするなんて話は、フィクションなら結構見かけるけど、さすがになぁ……」

「なら、組織内の権力闘争ってやつですかね?」


権力闘争って……ナンバーツーがナンバーワンを蹴落とそうとするんなら分かるけれど、デヴィッドってやつは代表なんだからナンバーワンなのだろう。

それがいったい誰に対して権力闘争を挑むと言うのか。


「ナンバーツーが、聖女を手に入れて下克上を狙っているというのならそうかもしれないが、拘束してどうするんだよ。逆に聖女に逃げられるだろ、それ」

「世界は不思議にあふれてますからねぇ」


三好が、テキトーなことを言って納得している。考えるのに飽きやがったな。


「ところで、結局イザベラさんは助けに行かなくていいんですか?」

「それなんだけどさ。もうちょっと疲れたというか……少しインターバルをおきたいと言うか」

「あのメモには、COSの中佐よりも早く来いって書いてありましたけど、そもそもCOSが捜索を依頼したのは聖女様だけだったみたいですしね」

「すぐに命が危険にさらされるってこともなさそうだったし、イザベラって自意識過剰なのかね?」

「夢の中まで追いかけてくる人ですから」

「それだよ。いったいどうやったんだと思う? 仮に暗示をかけられたんだとしても、一体いつの話だろう?」


なにしろイザベラと言う女に心当たりがないのだ。


「最近外国人と関わったりしなかったんですか?」

「最近か……」


最近かかわりのあった外国人。特にフランス人って言うと――


「あ」

「なんです?」

「いや、一か月くらい前の話だからすっかり忘れてたけど、代々木の1層で、場違いな服装の女に絡まれた」


いきなりキスされたとは、さすがに言えないが、あの女が確かフランス語を話していたはずだ。


「めっちゃかかわってるじゃないですか!」

「いや、一方的に近づいてきて、一方的にまくし立てて、実際話していたのは1分未満だぞ? 道を聞かれるよりも短い時間なんだから」

「で、なんて言ってたんです?」

「それがな……一応、何か用かって尋ねたんだけど――」

「ど?」

「――全然分かんなかったんだな、これが」


俺は、テレをごまかすかのように、ことさらおどけて頭を掻いた。

それを聞いた三好は、脱力するように肩を落として、「結局何にも分かりませんね」と言った。

しょうがないだろう。いきなりだったんだし。


ともかく、マリアンヌは鳴瀬さんが自宅へと連れて行った。

フランスから捜索依頼が正式に出されている以上、対応しないわけにはいかないのだが、どうにも俺たちが首をひねっているのを見て、まずは彼女から話を聞くことにしたようだ。


帰り際に、ダンジョン内建築物の相互監視実験の話をしたら、件の一坪農園の周辺ならすでにDパワーズに貸し出されているみたいなものだからOKですよだと言われた。


「それじゃ、今日は?」

「相互監視実験の準備と、表層から飛べるかどうかの実験かな?」

「表層からの転移は、転移が発表されてからじゃないとまずくないですか?」

「あー、あそこで見つからないようにするのは無理だもんな」

「なら、相互監視実験だけ設定しちゃいましょう。機器は揃ってますから」

「了解」


そうして俺たちはいつもの日常を繰り返そうとしていたが、そのころ世界にはとんでもない爆弾が投下されていたのだ。



次が掲示板なので連投です。

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書籍情報
KADOKAWA様から2巻まで発売されています。
2020/08/26 コンプエースでコミックの連載始まりました。
作者のtwitterは、こちら
― 新着の感想 ―
何で頑なにフランス語で会話しようとするの?英語じゃ駄目なの?
[気になる点] 状態異常のオーブは?
[気になる点] 状況をデヴィッドが知ったらイザベラのマインドコントロールだと思われて拷問されかねないような
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