§141 濫觴(前編) 2/4 (mon)
かなり長くなってしまったので、濫觴は前中後編の3本になります。平均1万文字程度です。
「おはようございます。今日も寒いですね」
鳴瀬さんが入り口でコートを脱ぎながらそう言った。
「おはようございます。昼は春並みに温かくなるそうですよ」
彼女のコートを受け取ると、来客用のハンガーに掛けながらそう言った。
予報によると最高気温は20度近くまで上がるそうだ。
「それにしてもなんです、改まって。何を言われるか、ちょっと怖いんですけど」
彼女は、俺の後に続きながら、冗談めかしてそう言った。
ちょうど土曜日に伝え忘れた麦畑の今後について、鳴瀬さんに相談するため、週明けに寄ってもらうように連絡しておいたのだ。
「別に大した話じゃありませんよ。飲み物は?」
「あ、じゃあ、カフェ・オ・レをいただけますか」
そう答えた鳴瀬さんに、キッチンのカウンターの向こうから、三好が「はーい」と返事をした。
最近のソファは、グラスかグレイサットのどちらかが、我が物顔で丸くなっている。
もう片方は、キャシーにくっついていて、お互いにブートキャンプの連絡役をやっているわけだから、さぼっているのとは違うのだが、見た目はすっかり居間の主と化していた。
俺にもちょっと、グータラセンスを分けてくれよ。
というわけで、我々人間は、自然とダイニングへと追い出されるのであった。
もしも本物の犬なら、人間様が家庭内カーストの下方に追いやられそうな話だが、ヘルハウンドではそういうことは起きないようだ。考えてみればこいつら三好に召喚された僕だもんな。一応。
席に着くと、俺はさっそく本題を切り出した。
「実は、世界に一つしかないと思われるダンジョン農園を、JDAさんにお任せしようと思いまして」
「はい?」
彼女は、突然の申し出の意味がよく理解できなかったようで、その話を聞いてきょとんとしていた。
「それは……あの2層の、ですか?」
「そうです。一坪農園です」
「つまり、レンタル契約を終了したいということでしょうか? まだそれほどは経っていませんけれども」
「ああ、そうか。そういう考え方もありますね……」
冷静に考えれば、あそこはJDAからレンタルしていた土地だ。
だから、この話を聞いて、レンタル契約の終了だと思われるのは、至極もっともな話だった。
「んー、三好どうする?」
俺は、飲み物を持って、キッチンから出てきた三好に、話を振ってみた。
「レンタルはしたままでいいと思いますよ。何か必要になったとき、もう一度借りられるとは限りませんし。今回は、そこにあるものの管理を、JDAさんがやらないかなあってことですから」
「はい??」
鳴瀬さんは、ますます分けがわからないといった体で、首をかしげた。
「Dパワーズさんの農園の管理をJDAがやるってことですか? どうしてです?」
「そこが、麦畑になってるから、ですかね」
「麦畑?……もしかして、麦が生えたんですか?」
「生えたというか、すでに実ってるんです」
「実ってる? 手続したのって、ついこないだですよね?」
「その辺は謎です」
「謎って……」
鳴瀬さんは、頭痛をこらえるかのように、右手で眉間を抑えていたが、まるで見てはいけないと言われているものを覗かされる時のような顔つきで、おそるおそる訊いてきた。
「それで……なぜそれをJDAに?」
「あー、つまりそのー」
「リポップするんですよ、その麦」
どう説明しようかと言いよどんだ俺の隙をついて、三好があっさりとそう言った。
「え?」
鳴瀬さんは一瞬、何を言われたのか分からないといった様子で、頭の上にクエスチョンマークを浮かべていたが、その言葉の意味を理解すると同時に、大きく目を見開いた。
「ええ?! リポップする!?」
「びっくりですよね」
「そ、その麦がですか?」
「はい」
三好の返事に、鳴瀬さんは、思わず椅子から立ち上がって体を乗り出した。
「ちょ、ちょっと待ってください……勘違いならそう言っていただきたいのですが、それはつまり、麦が無限に収穫できる農園ってことですか?」
「無限かどうかはわかりませんが、少なくとも3時間刈り続けても、問題はありませんでした」
俺たちは、一応無限にリポップするのかどうかを確かめようと、昨日、ひたすら農園で麦を狩り続けたのだ。
一坪農園における麦のリポップ時間は、概ね数秒~十数秒だった。結構幅があったが理由はわからない。
ともあれ、カマを持っての手作業では、右から初めて、左に行きつくころには、最初の麦がリポップしていた。
しかしながら、あまりの単純作業に、俺たちは3時間で音を上げた。平たく言うと飽きたのだ。超回復がなかったら、確実に腰にもきていたはずだ。都心の地下で、農業生産者の方の苦労と凄さを思い知らされたというところだ。
「それは、その、あの、なんて言っていいか…………ええ?!」
ただただ驚く鳴瀬さんに向かって、俺たちは、その事実が及ぼす影響範囲を考えたとき、一パーティはおろか、一株式会社でも、持て余しそうだという予想を伝えた。
「それはよくわかりますが……」
「今のところ、このことは誰にも知られていません。一応ゴブリン対策に、壁で囲んでありますし、そもそもそこで実っているものの見た目はただの麦ですからね。普通の探索者は、あ、麦が実ってると思うくらいで、手を出したりはしないでしょうが、この事実が公になったりしたら……」
「それを手に入れようとする人は多いでしょうね」
その気になれば、鍵もドアも破壊することなど簡単だ。
「そういうわけで、いつまでも、農場をそのままにしておくわけにもいきませんし」
「抜いたり、燃やしたりしては?」
「モンスターのことを考えると、おそらく2層中にリポップでばらまかれて、コントロール不可能になると思うんですよね。切り取られた種が、新しい麦を作り出すかどうかがはっきりするまでは、ちょっと拙いんです」
鳴瀬さんは、あきらめたようにため息をつくと、短く、「わかりました」と言った。
「しかし、さすがにこの話に即答は無理です。いったん上司に相談させていただいても?」
「それはもちろん。ただし世間に対する発表は、その麦の作り方のベースになる技術のダンジョン特許が公開されてからにしていただきたいんです」
月末に申請したD進化に関する特許は、どういうわけか、週明けになっても出願リストに登録されていなかった。
特に問い合わせも来ていないので、書類不備というわけでもなさそうだし、WDAのワークフロー上の問題なら、それがどのくらいかかるものなのか俺たちには今のところ知りようがなかった。
「作り方?」
「ただ、ダンジョンの中に直接植えるだけでは、リポップする植物はできないんですよ」
それを聞いて鳴瀬さんは、一瞬目を見開き、眉をピクリと動かしたが、すぐに気を取り直して訊いてきた。
「それで、その技術をどうされるつもりなんです?」
「そこなんですよ」
俺は実に困ったという様子で、腕を組み目を閉じて、頭を振ったあと、彼女を見て行った。
「どうしたらいいと思います?」
「ええ?……」
なんとも情けない顔をした鳴瀬さんは、情けない顔のまま、その案件をJDAへと持ち帰って行った。
「農林水産省あたりへ報告が上がれば、もっと大規模な試験が始まりますかね?」
鳴瀬さんを見送った後、テーブルの上のカップを片付けながら、三好がそう言った。
「うーん、それなぁ……」
「なんです?」
俺は、テーブルの椅子を引くと、そこに腰かけた。
「ほら、俺たちの農場は、広い2層の面積に対して、たった一坪だろ?」
「そうですね」
「ドリーは広いとはいえ、しょせんはキャンピングカーの面積だし、もっと大きなDPハウスだって、専有面積自体は、直径10mかそこらの円にすぎないから、21層全体の広さから考えれば微々たるものだ」
「先輩……」
三好は俺の言いたいことに気が付いたように、まじめな顔で、椅子へ浅く腰かけた。
「それって……私たちが、実は、確率論的な安全の上に胡坐をかいてたんじゃないかってことですか?」
「まあそうだな。アルスルズがいるから、他よりはずっとましだろうが……いずれにしても、農場やドリーやDPハウスの中に、モンスターが直接ポップする危険は常にあっただろう」
「建築物の外側のスライム対策しか考えてませんでしたけど、言われてみれば室内だってダンジョンの中であることに変わりはありません」
「確率的には、外側でポップしたモンスターが近づいてくる方が圧倒的に高いからな」
18層のキャンプだって、外で倒されたモンスターが、寝ている最中にテントの中にリポップしてくる可能性はあるはずだ。
もっとも大量に狩られているゲノーモスのリポップは、地下に限定されているようだから、今のところそんなことは起こってないようだったが、起こる可能性があることは、いつか必ず起こるのだ。例外はない。
もっともあそこの探索者たちは普通じゃないから、18層のモンスター程度がリポップしたとしても、瞬殺するかもしれないが……
「探索者ってやつは、比較的安全なキャンプでも必ず夜番をおいてるだろ? おそらくそういう事態に対処するためだと思うんだ」
「経験から得た知恵ってやつですね」
「たった3年だけどな」
「その前に、数多のフィクションの積み重ねがありますよ」
確かに。古いSF作品で語られるギミックが、次々と現実化していることは単なる事実だ。携帯電話はその筆頭だろう。
普通の人たちが、持ち運びできる大きさのデバイスで、世界中の情報にアクセスできるようになるなんて、少し前までは、夢物語にすぎなかった。
「結局、広い工場を作ったりしたら、内部にモンスターがポップする確率が飛躍的に上昇するってことですよね?」
「そうだ。室内にポップさせない方法を確立しないと、多くのモンスターが倒されているフロアほど、この問題がクローズアップされることになるぞ」
麦畑自体は、DPハウスと同じくらいのサイズでドーナツ状かオーバル状の畑を作って、くるくると周囲を回りながら収穫を行う、自脱型コンバイン風の自動機械を用意すれば、簡単にパッケージ化できるはずだ。
つまり、今と同様、事故が起こることを前提に、確率論的な安全に身を任せるわけだ。なんなら、うちで開発して、ワンパッケージとして売り出しても構わない。
しかし、スライム対策めいた情報が公開されたら、世界がそれ以外のものをダンジョン内に作る可能性はとても高かった。その時、それを作る人たちは、内部へのモンスターのポップ対策を行っているだろうか。
「きっと先輩が、この部分でポップするなと考えれば、そこではポップしなくなりますよ!」
「いや、そのネタはもういいから」
「えー、ネタじゃないのに」
三好がそう言って、口をとがらせた。
こいつは、秘密の花園を経験してから、メイキングの力を確信しているような節がある。
確かに31層から1層へ転送されたときは、俺も何事かと驚いたものだが……
とは言え、他者から与えられた超常的な力をふるって世界を変える、なんてのは、思春期の妄想程度にとどめておくに如くはない。大人が真顔で振るうには、過ぎたる力というものだ。第一結果に対して責任が取れるとは思えなかった。
「それだとなおさら不味いだろ。万が一、それが現実に起きるとしたら、なにか施設が計画されるたびに、いちいち出向いて地鎮祭めいたことをやらされるぞ。そんなことで世界中のダンジョンを渡り歩かされる人生は、ちょっとぞっとしないな」
「世界の神主さんになるわけですね。なんて崇高な」
三好は宗教にかこつけて、そんな冗談を言ったが、聖人にならされるなんてのは勘弁だ。俺はまだ煩悩にまみれていたいのだ。
「神主だって、そればっかりやってるわけじゃないさ。だが、こっちは確実にそればっかりの人生になるな。って、ネタの掘り下げはこの辺でやめてだな、とにかく、ある領域にポップさせない方法は、もっと即物的で再現可能なものじゃないとだめだ」
誰にでも実行できる対策ってことが、もっとも重要だ。
「ほかの物体が占有している空間にポップすることはないですよね?」
「まあ、木に埋まったモンスターなんてのは発見されていないみたいだからな。そこは大丈夫だと思うが」
「植物もポップするとしたら、その時の根っこと土の関係はどうなってるんでしょう?」
「よけることが可能なものはよけられるって認識でいいんじゃないか? 地上へのポップでも、空気自体はよけてるわけだし」
リポップしたモンスターが、酸素や窒素と核融合して、あたり一帯が消し飛んだりしたら洒落にならない。幸いそういう事件は起こったことがないようだ。
「じゃあ、大物のポップは、室内にモンスターの体よりも狭い間隔で物体を配置すれば避けられますね」
「物体って、木の棒とかか?」
「1メートル幅の通路の両側で1メートルおきに棒を立てておけば、1メートル四方の正方形に収まらない大きさのモンスターはポップできなくなるんじゃないでしょうか」
「その可能性はあるが、そんな大物より、問題になるのは――」
「スライムですよね」
そう、そこなのだ。
施設を建設するとしたら、目の届かない場所が必ずできる。
重要ななにかを直径20cmの管に押し込んでそれを守ろうとしても、菅の中にスライムがポップしたらそれで終わりだ。ものによっては大事故につながるだろうし、発見も難しい。
管の中がびっしり埋まるくらい何かが詰まっていれば大丈夫だが、普通はある程度、余裕を持たせるものだ。それに――
「不定形だからなぁ……」
「タコの目玉みたいに、コアの大きさよりも広い隙間ならどこにでも入れるとかだと、手に負えないかもしれません」
「いっそのことスライムの討伐を禁止したらどうだろう?」
ベンゼトビームを使えば、スライムははじけ飛ぶが、その段階では倒したことになっておらず、コアの状態で転がっているだけだ。
そこからスライムが復元するにしても、リポップするわけじゃないから内側には現れない。
「確率は下がるでしょうけど、代々木の1層を見る限り、リポップしなくてもポップしてくるんじゃないですか? あそこのスライムって、どう見ても当初より増えてますよね」
1層は長い間だれもまともに討伐を行っていなかったために、驚異的な密度のスライム天国になっていた。
それはつまり、リポップ以外でもモンスターが現れるということだ。分裂で増えるとは思えない。そうでなければ、最初のモンスターはどうやって現れたのかってことになるしな。
「そこは、なにかでDファクターの濃度をコントロールしてやれば防げる気もするけどな」
横浜の階段1段と同じことだ。あまりにDファクターの量が少なすぎるのだろう、そこにモンスターは生まれていない。
テンコーさんが見た踊り場モンスターが現実だとしたら、それが、この3年で唯一の例外だが、踊り場は、普通の階段よりもずっと広いのだ。
「とはいえ、すべては仮説、仮説、仮説、だ。証明された事実はほんのわずかしかない」
「証明は難しいと思いますよ」
「まあな」
これらの仮説を証明するには、それなりに適切な環境が必要だ。
できれば、障害物が少なく、平坦で狭くて、全体の1割程度を占める面積の建物が建てられそうなダンジョン。
「こないだ話に出た、ロシアのオレシェクなんかそんな感じでしたね」
「俺たち、渡航に関しちゃ自粛要請が出されてるからなぁ……ロシアの西の果てはちょっと無理だろ。国内のダンジョンでそういう場所がないか、鳴瀬さんに聞いてみるか?」
それを聞いた三好は、あきれたようにため息をついた。
「ヒーローになりたくないのに、なんでも自分でやっちゃおうとするのは、先輩の悪い癖ですよ」
「うぐっ」
「こういうのは、もっと人的資源の大きな組織に任せてしまうのがベストですよ」
「それはそうだろうが、どうやって?」
「ふっふっふ。やはりここは必殺の、数学方式で行きましょう」
「数学方式?」
それ以前に必殺のってなんだよ。
三好は、テーブルの上に肘をついて身を乗り出し、人差し指を立てて言った。
「いいですか、先輩。私たちは、すぐに反証も思いつかないし、正しいんじゃないかなと思われる仮説を、テキトーに考えて、じゃんじゃん勝手に発表するわけです」
「いや、テキトーってな……まあ、発表自体は、ワイズマン様のネームバリューで行けそうな気がするが。それで?」
「そこから先は、世界が勝手に証明してくれるのを待ちましょう。仮説だって書いておけば大丈夫ですよ」
「おいっ……」
「先輩。我々は、誰かが『私はこの定理について真に驚くべき証明を発見したが、ここに記すには余白が狭すぎる』って本の余白に落書きした(*1)だけで、350年以上もそれについて考え続ける人たちが出てくる生命体なんですよ?」
そういう風に言われると、なんだか人類は異常な生物のように思えてくるな。惑星を支配するような知的生命体ってのは、多かれ少なかれどこか異常なのかもしれないが……
「勇者はワイルズひとりじゃないってことか」
「そうですよ。いかに先輩が神様然としていたって、私たちは、たったふたりしかいないんですから、体もふたつしかありません」
「水先案内人が精一杯だな」
「ヤタガラスポジションですね。足は2本ですけど」(*2)
「ふたつで十分ですよ。分かってくださいよ」
「そんなこと言ってると、キャプテン・ブライアントに呼ばれますよ」
「そして仕事を強制される?」
「選択肢はありません」
『警官でなけりゃ、ただの人だ』って脅されてるわけじゃないが、確かに選択肢はないのかもしれない。
それにしても、分かってくださいよの一言で、世界中のファンが共通の理解に至れる作品ってすごいよな。他にはほとんどないだろう。翻訳の力で『君の瞳に乾杯』くらいだろうか。
「ともあれ、俺たちは、鳴瀬さんの報告待ちか」
「そうですね。私はちょっとこれから大学へ行ってきますけど」
「大学?」
「翠先輩の紹介で、研究室の学部生に、マウスの育成実験のアルバイトを頼んだんですよ。こちらから持って行った餌を与えて、体重を計るだけの簡単なお仕事です!」
「へー」
「SLCにしても、東京実験動物にしても、研究機関でない我々が少数の実験動物を手に入れるのは、ちょっと面倒だったんです。というわけで、例の麦を餌に実験を開始してもらいます」
「じゃあ俺は最近さぼり気味だった、スライムハンターでもやりに行きますかね」
「オークションも1か月間やってませんから、そろそろやらないと」
「オーブは結構たまってるぞ。ゲノーモスドロップもそこそこあるし、ヘルハウンドの召喚も1個ある。あと、超回復が5個あるな。水魔法と物理耐性は言わずもがなだ」
「売れないもの多数って感じですね。それについては今晩にでも検討しましょう。それから、今日はブートキャンプの日ですから、グラスを忘れずにつれて行ってくださいよ。ついでにDAD用に拡張している部屋の進捗も確認しておいてください」
「意外とやることが多いな」
「それは今更です。じゃ、私は出かけてきます」
「あいよー。気をつけてな」
三好は、洗面所で身だしなみを整えると、コート掛けの上着をつかんで出て行った。
俺も、初心者装備にチェンジすると、上からロングのコートを羽織った。気分はマトリックスのキアヌ・リーブスだ。
「ほら、グラス、行くぞ。ロザリオは留守番をよろしくな」
グラスが勢いよく走ってきて、俺の陰に潜り込む。ロザリオは美しい声で一声鳴くと、天井の隅に作ってある、板の上へと移動した。
俺は、玄関の扉を開けて、思ったよりも温かい外の空気に春を感じると、ドアに鍵をかけてダンジョンへと向かった。
*1) ピエール・ド・フェルマーが、古代ギリシアの数学者ディオファントスの著作『算術』の余白に書き込んだメモ書き。
後にフェルマーの最終定理と呼ばれるようになり、数多の天才を食いつぶした後、1995年にアンドリュー・ジョン・ワイルズによって証明された。実に、フェルマーの死から360年後の出来事だった。
*2) 八咫烏の足は3本ある。
なお、キャプテンブライアントは、退職したブレードランナーのデッカードを呼び戻した警部。




