§127 課長への報告 1/30 (wed)
鳴瀬美晴は、眠りの浅い夜を過ごして、早めの時間に出勤していた。
「あの人たち、絶対私を過労死させようとしているわね」
美晴は、小さなあくびをして市ヶ谷の改札をくぐりながら、そうつぶやいた。
昨夜家に帰ってから、1人で見ろと言われたデータを開くと、そこには31層の死闘?が記録されていた。
美晴のノートの画面の中では、世界の名だたる探索者たちが呆然と見守る中、全然違うゲームをしているように見えるマントの男が、一人で無双していた。
「これが芳村さん?」
思わずこみ上げてくる笑いをこらえながら、美晴はひとり、その映画のような映像を楽しんだ。
最後に格好良く決めて消えたところで、あまりの演出に思わず爆笑してしまい、お隣の住人から壁ドンを貰いそうなありさまだった。幸いそうはならなかったが。
映像を見終わった後、少しもったいないなと考えながらも、言われたとおりにデータを消去しながら、最後に貰った封筒を開いた。
そこには、これまた頭を抱えたくなるような案件が入っていた。
美晴はそれを見なかったことにして封筒に戻すと、マイニングに関する上申書と、斎賀向けのスペシャルレポートを書き始めた。
なにしろ今晩聞かされたダンジョンの目的の件や、信じられないようなホイポイカプセルの情報なんて、どう考えても自分の手には余る。いや、余りまくる。
こういうものは悩んでないで、さっさと上にあげるに限ると考えた美晴は、自分の主観を一切交えずに事実だけをレポートにして印刷を始めた。
これは紙案件だと考えたのだ。
「あ、美晴。どうしたの今日、早いじゃん」
どうやって斎賀課長に説明しようかと考えながら、JDA入り口の自動ドアをくぐろうとしたとき、ダンジョン管理課の同僚が声を掛けてきた。
「いろいろと案件が溜まっちゃってて」
「あー、そういや昨日、お騒がせパーティが戻ってきたんだっけ? 専任管理監殿も大変ね」
美晴は乾いた笑いでそれに答えた。
Dパワーズは、美晴が専任管理監に任命されたことで一躍他の課でも有名になった。しかも管理官が課長補佐待遇で自由裁量勤務ときては、人事に敏感な人達の注目を集めても仕方がなかった。
「そう言うあんたは、なんでこんなに早いの?」
「それがさぁ、セーフエリアが見つかったじゃない? ほとんどはその権利問題の調整ね」
「え? そんなの法務の仕事でしょう?」
「違う違う。そこへ行く前の区割りとかよ」
「それこそ、すぐに終わったんじゃ? チームIの救援に来てた国がらみのチームの拠点問題も調整は終わってたでしょ?」
発見された直後に協賛企業数プラスαで分割する区割り計画は、うちうちとはいえ、迅速に策定されていたはずだ。
幸い拠点を作るような装備を持ち合わせていなかった各チームは、有りあわせのもので未踏エリアの拠点を主張したが、一部を除いて無理がある作りだったため区画の優先利用権で話が付いていた。
もっともチーム丸ごとで来ていたDADだけは、ちゃっかりと広めの拠点を確保していたのだが。
「それがさ、営一がやらかしたんだわ」
「営業1課が? なにを?」
セーフエリアの発見は、瞬く間に関係者の間に知れ渡った。
その結果、ダンジョン開発協賛企業としての申し込みが殺到したらしい。
「そんなの。区割り数は決まってるんだから、制限すれば……って、もしかして全部引き受けちゃったわけ?!」
「そっ。そりゃ向こうの成績は上がるんだろうけどね」
「面積は決まってるんだから、全部に割り振れるわけないでしょう?」
「営業としては、そんなことはこっちの仕事らしいよ? おかげでうちの課、死屍累々よ」
なんといっても、毎日協賛企業が増えていくのだそうだ。
計画を立てても立てても、後から大口だからと言う理由で営業からスペースを要求される始末だ。そんな計画終わるはずがない。
大手企業は意思決定が遅い傾向が強い。つまり後から協賛企業として参入する会社が大口である可能性は割と高かった。しかもどうやら大口を得るために担当が安請け合いをしているようだった。
「第一、協賛企業であることと、区画が割り振られることの間に関係はないでしょう?」
「本来ならね」
すべての協賛企業はあくまでもダンジョン開発を協賛しているだけで、それがイコールセーフエリアの区画を貰える企業となるはずがない。
セーフエリアの区画を借りられる要件に協賛企業である必要があるという項目はないのだ。もちろんある程度の優遇はあるかもしれないが、それは、かもしれないという程度の話だ。
「それにしたって、結局どっかで打ち切るしかないんじゃないの?」
「だから、それをうちでやれって言ってるのよ、向こうは」
営業としては、割り振られるはずがないと分かっていながら、入手できますよと安請け合いをした。だから割り振られなかった場合、管理課がそれを拒否したから仕方がないと言うことにしたいらしかった。
とにかく今期の成績を上げれば何でも良いと考えているふしまであるそうだ。
「さすがにそれは……」
「課長のとこ行くんでしょ? ちょっとご注進申し上げといてよ」
「一応言ってはみるけど」
「よろしくね! じゃ、また」
同僚が忙しそうに去っていく姿を目で追いながら、美晴は微かに苦笑した。
「課内でも、お騒がせパーティなんて言われているのね」
全くその通りだと思いながら、彼女は、ダンジョン管理課の部屋の隅にある、一部透明なパーティションで区切られた場所を目指した。
斎賀はすでに出勤していて、そこで何かの資料を見ていた。
「おはようございます」
「おはよう。どうしたんだ、こんなに早く?」
ちらりと美晴を見た斎賀は、すぐに手元の書類に目を移して、忙しそうにそれを繰っていた。
「色々報告が。って、課長もいらっしゃるじゃないですか」
「朝一から面倒な会議があるんだよ。その準備」
「大学入試センターの件ですか?」
それを聞いて斎賀は、書類をめくる手を止めて、美晴の方を見た。
「どうして?」
「どうしてじゃありませんよ、課長。ステータス計測デバイスの件、どこかに漏らしたでしょう」
「なんの話だ?」
美晴は、Dパワーズに大学関係者からの問い合わせが殺到していることを説明した。
「あいつら、結論が出るまで行動は慎めって釘を刺しておいたのに……」
「情報が流れてしまえば、この短期間に発売前のデバイスが揃うわけがないと誰でも想像できますからね。担当者の気持ちとしては、先に問い合わせて少しでもそれを得られる確率を上げたいって所でしょうけど」
「ほぼ全員がそう考えたとすれば、総メール数は大した数になっただろうな」
「書く方の労力は1通分でしょうが、読む方はそれの千倍以上だったそうです。三好さん怒ってましたよ。あ、あと守秘義務違反が疑われるって」
美晴はちょっと盛った。
なにしろ昨日から色々ありすぎて、少し気持ちがささくれ立っていたのだ。よーするに不幸になる仲間が欲しかった。人間というのはさもしい生き物なのだ。
「げっ。まて、漏らしたのは俺じゃないぞ。関係各所に問題解決に関するレポートを配布しただけで――」
「JDAから漏れたんなら同じことじゃないですか」
斎賀は焦った。
社会は信用で成り立っているのだ。JDAが会員の情報を、余所に流していたなんて話になるのは、はなはだ困る。
更に言うなら、Dパワーズにヘソを曲げられるのは、もっと困る。
「うーん……どこのバカがやらかしたのかは、あとで調査するとして、なにか懐柔策とか条件とか、ないか?」
「無いこともありませんが」
にっこりと笑った美晴は、手元のタブレットに目をやって、昨日の拠点について報告した。
「21層の未踏エリアに拠点を作ったから、認めて欲しい?」
「はい、それと31層への拠点作成の申請も出てます」
「31層? 32層じゃなくてか?」
「31層です」
「相変わらず、あいつらの考えてることはわからんなぁ……」
斎賀は椅子の背もたれに体重をかけると、頭の後ろで両手を組んだ。
正規の拠点申請手続きは、まだ発表もされていない。なにしろやっと法務がダンジョン内の賃貸借契約についてまとめたばかりなのだ。
セーフエリアの発見にかろうじて間に合って、胸をなで下ろしていたところだった。
「まず、21層の未踏エリアの拠点についてですが――」
「以前も話題になったが、それは規制のしようがないだろう。探索中に苦労して確保した拠点を、後になって高額の賃借料が課されたために撤去しなければならなくなるなんてことが起こったら、誰も深層に向かわなくなるぞ」
「いまのところ、無償で許可される範囲が曖昧です」
「代々木の探索された領域は、ほぼリアルタイムに公開されている。常識的に考えて、公開領域がその範囲だな。ただし立ち入り禁止エリアは除く」
踏破された領域は、あらかじめ計画を立てることが出来るし、料金を明示しておけば問題にならないだろう。立ち入り禁止エリアには、そもそも立ち入れないから問題ない。
「未踏のセーフエリアはどうしますか?」
「発見者には許可したいところだが……」
今回のセーフエリアは、各国の連中が一度に下りて発見した。
これを自衛隊の発見と見なすのは、やや苦しいが、かといって広大というわけでもないエリアを発見者全員に割り振ると、協賛企業群のスペースがなくなる。
「今回は特殊な状況だったこともあって、各チームの所属機関とはすでに調整がついている。今後は、場所の選択等で優遇はするにしても、セーフエリアは別枠で考えるしかないだろうな」
「その線でJDAとしてルール化して下さい」
「わかった。ってか、お前、俺の上司みたいだぞ」
「止めて下さいよ」
苦笑いしながら、斎賀は、今の件をメモに残した。
そこに書かれたTODOリストは、かなりの長さになっていた。決めるべきことは溜まっていく一方だ。
「協賛企業と言えば、営業一課の件、何処かで歯止めを掛けないと拙いんじゃありませんか?」
「あれなぁ……」
斎賀はため息をつきながらファイルを保存した。
「別に協賛企業には必ず割り振らなければならないなんてルールはないんだ」
なにしろ協賛企業の受付は、セーフエリアの存在が知られる前から行われているのだ。そんなルールがあるはずがない。
「営業は、協賛企業になればスペースが貰えるみたいなことを仄めかしているらしい……それ自体は苦情を入れておいたが、今のところ他に出来ることはないな」
向こうのスタンスとしては、うちはうちの仕事をしてるんだから、そちらはそちらの仕事をしてくれと言うことらしい。ものは言いようだ。
「いっそのこと区割りだけして、割り振りは入札で行っては?」
「それもいいかもな。なら、うちの作業は純粋に区割りだけですむわけだ。まあ、インフラをどうするかって話はあるが……」
「割り振りについての希望や問い合わせを、営業がこちらに丸投げしてるみたいですから、早々に方針を決めてやらないとスタッフが死んじゃいますよ?」
「わかってる」
「それと今朝上申書をお送りしておいたのでご確認下さい」
「上申書?」
また面倒じゃないだろうなと言う顔で、連絡用のフォルダを開くと、新規のマークがついたファイルを開いた。
タイトルは――
「マイニングの使用制限について?」
そこには昨夜Dパワーズから聞いた、マイニングが各層の鉱物を決定するためのメカニズムについての仮説が書かれていた。
「おい、これ……ドロップする鉱物を選択できるって、なにかの冗談か?」
「一応最後に、Dパワーズさんが試した実例を記載してあります」
斎賀は急いでそちらに目を通した。
「21層が宝石の原石、22層がプラチナ、23層が銀、24層がパラジウム、か。さすがはGIJのマニアック、偏ってるにも程があるな。しかし、この宝石の原石ってなんだ?」
「それが、鉱石ドロップの新しい可能性だそうです」
そう言って美晴は、昨日芳村から聞いた、『あらゆる原石を思い浮かべたあげく決められなかったから、宝石の原石という括りでドロップが確定した』という思わずハテナを浮かべそうな話をした。
ただの推測だったため、レポートには記載していなかったのだ。
「なんだそれ?」
「レポートにも書きましたが、要はダンジョンに何をドロップしたいのかを伝えること――イメージが重要だそうです」
「いや、ダンジョンに伝えるって言われてもな」
まるでダンジョンそのものに意思があるようなことを聞かされて、斎賀は面食らった。
「その件は、後で渡す書類を参考にしてください」
あのデミウルゴスが奉仕したがっているというアレだ。今すぐここで開陳しても意味不明なだけだろう。
「とにかく、Dパワーズによると、適当な人員に適当にドロップさせると、全フロアで鉄がドロップするようになる可能性が高いそうです」
「それは、確かに問題だが……しかし、どうする?」
「その是非がどうであれ、起こってしまえば取り返しがつきませんから、当面、許可のないマイニング所有者の未確定層への侵入を禁止するしかありませんね」
「まあ、今のところマイニング所有者は限られているだろうから、それは可能だと思うが……」
「もし、他の国のダンジョンも、地球の資源と考えられるのでしたら、WDAへ報告された方が良いとは思いますが……」
「信じるかな?」
「通知だけしておけば、最初の2つの層あたりで鉄ばかりドロップした時点で、信じざるを得なくなると思いますよ」
斎賀は少し考えていたが、すぐに決断した。
「よし、こっちはJDAの研究成果みたいな振りをして、WDAへ報告だけはしておこう。流石に1パーティの推測というのは相手にされないだろうからな。それでいいか?」
「一応聞いてはみますけど、たぶん全然問題ないと思います。あの人たち自由と名誉なら圧倒的に前者って感じですから」
斎賀は、さらにTODOリストに1行を書き加えた。
「ところで課長。Dカード取得者識別デバイスの件には、もう一つ大きな問題があるんです」
「なんだ?」
まだ何かあるのかよと顔を上げた斎賀に向かって、美晴はさりげなく爆弾を投下した。
「Dパワーズは、この技術に対するダンジョン特許を、まだ申請していません」
「なん……だと? なぜだ?」
「さあ。そこは分かりませんが、機器を発表するスケジュールはずっと先だったからじゃないですか?」
これはつまり知的所有権を得る前に、実際に動作する製品が世間に出まわると言うことだ。しかも、緊急に組み立てたプロトタイプ状態で。
そのことは、製品に特殊なチップなど何も使われておらず、現在購入できる部品のみで組み立てられていることを意味していた。
さらに悪いことに、それは世界的なヒットが間違いのない商品だ。
なにしろ、ダンジョンは世界中にある。そして試験を必要とする組織は、世界中に数え切れないくらいあるのだ。
「まいったな……JDAが無理強いして発表前の技術を提供させ、何処かの誰かがそれを手に入れて、模倣して製品を発表したり、特許を申請したりする?」
結果としてJDAは産業スパイに荷担したあげく、情報を提供させた企業に大損害を与えるって事だ。それはまさに悪夢だった。
金や女で、担当者から機器を買い取ったり、ちょっと拝借して解析したりするくらいのことは平気でやってのける連中が、世の中にはうようよしているのだ。
かといって、全大学の関係者に見張りをつけることは、物理的に不可能だ。
「あー……もう大学には1年だけ煮え湯を飲んでもらうか? それがベストな気がしてきたぞ」
各大学の試験関係者が聞いたら頭を抱えそうなことを呟きながら、斎賀も頭を抱えていた。
なにしろ、月曜に配布したレポートの内容が、翌日には日本中の大学関係者に回っているのだ。この機器の情報が漏れないなどと、どの口で言えるのか?
「三好さんによると、現在、大学の数は800校くらいあるそうですが、今年の入試を全てフォローするのは難しいそうです。そもそも各校に1台くらいじゃどうしようもないでしょうし」
「そうだな」
「ですから、この問題をなるべく広くカバーするには、用意できる台数が日別に明らかになった時点で、入試日を確認して貸与スケジュールを作成し、使い回すのが最善だろうとのことです」
「なるほど。販売じゃなくてサービスの提供か」
「もっとも人員の提供はJDAがやるしかないと思いますけど……」
斎賀は苦笑した。
何しろ急な話だ。サービスの提供までDパワーズに振ったりしたら、じゃあ無理だからやめときますと言われることは確実だ。
なにしろ、競合企業があるわけでなし、彼女たちに、機器の秘密が漏れる危険を冒してまで、急いでこの事業を行うメリットはないのだ。
「そいつは頭の痛い問題だな」
ばらけているのならともかく、国立に到っては、全大学がほぼ同じ日――今年なら25日だろう――に試験が行われるのだ。
「三好さんの弁を借りれば、不正をしても入りたいと思うような大学に絞って対応することにしても構いませんよ、とのことです」
もしその恣意的な選択をJDAがやれば、面倒なことになりかねないが、私企業が行うなら単なる商業的な契約に過ぎない。
Dパワーズが多少理不尽な恨みを買うかもしれないが、全部に行き渡らないものを対象を絞って提供することなど、当たり前の商行為だ。
「じゃあ、うちはDパワーズに対する協力って線で行くわけか。それは助かるが……旧帝大ってことか?」
「国公立なら、東工大や横国大、筑波や神大、あとは各大学の医学部なんかでしょうけど……その辺はこっちで選べということでしょう」
「ふーむ」
確かに妥当なところだが、それをどう会議で全体に納得させるのかは別の問題だ。各部署にはそれぞれの思惑や付き合いがあるだろう。
「よし、大学入試センターに連絡して、全大学の入試日程を手に入れておいてくれ」
「課長。私は課長の秘書じゃありませんよ?」
「なあに、補佐だろ? 大した違いはないさ」
良い笑顔でそれを言う斎賀に、美晴は肩をすくめたが、お返しだとばかりに、昨日帰り際に預かった封筒を渡した。
「わかりました。代わりと言っては何ですけど、その件とは別に、これを預かっています」
「なんだ?」
その封筒を受け取った斎賀は、とりだした書類の表紙に書かれた文字を見て固まった。
「ダンジョン関連研究を支援するための基金の設立について?」
それは大雑把に言えば、そういう基金を設立するけど、JDAはどうしますか? という資料だった。
「もう、あいつらがJDAを名乗った方が良いんじゃないか?」
基金の原資となる金額を見て、斎賀は苦笑しながらそう言った。
もちろんJDAにも、そういった研究を支援する仕組みは一応ある。だが、なにしろ予算は限られている上に、新しい研究をしたがる機関は多い。満足な補助金が提供できるはずもなかった。
それは、単に、そういう部署をつくっただけと揶揄されても仕方がないレベルだった。
「こりゃ、振興の連中が黙ってないよなぁ」
「規模が何十倍もありますからね。下手に首をっこんで、監督省庁よろしく、イニシアチブを取りに行ったりすると面倒が起きますよ」
基金の設立にJDAの許可は必要ない。
つまりこれは、Dパワーズが筋を通してきただけで、言ってみればJDAに対する温情みたいなものだ。
巨大なダンジョン関連基金が立ち上がったとき、それにJDAがまったく関わっていないとなると、面目がつぶれかねないってわけだ。
ダンジョン管理課は、彼女たちの異常さを身をもって知っているから、絶対に侮ったりはしないが、他の課は接点が少ないこともあって、よく分かっていない可能性が高かった。
ちょっと運が良かった、ぽっと出のパーティくらいの認識でいる部署があってもおかしくない。なにしろ、「お騒がせパーティ」くらいの認識なのだ。
「会議の直前に、こういう爆弾を投げ込んでくるなよ」
「えーっと、それはせいぜい火炎瓶と言ったところです。本格的な爆弾と言えば、もう一つあるんですが」
「お前な……」
「こっちはちょっと……どころじゃないな。もうとんでもない話なので、会議の後に覚悟してご覧下さい」
そう言って、斎賀は紙のレポートを渡された。
「紙? 基金の報告は、Dパワーズから貰ったものだろうからわかるが、成瀬の資料ならデータで貰った方が――」
そう言いかけて、斎賀は口を閉じて、彼女を見た。
今どき、この手のレポートは、電子情報にして添付するなりなんなりするのが普通だ。わざわざ紙に出力したと言うことは、そうする理由があるってことだろう。
「まあ。あんまりファイルにしたくないってところです」
ファイルにすれば、どこかから侵入されて持って行かれるかも知れないしコピーも容易だ。
ところが紙ならそうはいかない。便利になった現代ではなおさらだ。
「わかった。心して読ませてもらう」
そう言って、斎賀はレポートを机の引き出しに突っ込んで鍵を掛けた。
「課長……」
「なんだ?」
「ショック死しないで下さいね」
「そんな内容なのかよ?!」
あのレポートには、極秘扱いで、ダンジョンの目的とホイポイカプセル、それに21層の拠点の写真が添付してあった。
それを課長がどうするかは分からない。だけどこれで美晴は責任から解放されたのだ。
「芳村さん方式も悪くないですね」
そう呟いた美晴は、昨日見た彼の勇姿を思い出してくすりと笑った。
そうして彼女は、大学入試センターへの問い合わせと、日曜日の三好の退出時間&31層での目撃された時間を調べるために、自分の机へと向かった。




