第一の刺客が現れたそうです ③
私は玄関に立った。そして緊張して高鳴っている胸を撫で下ろす。
大丈夫、大丈夫、私は先輩に頼られてるんだ。私が先輩を、助けるんだ!
落ち着かせると、すぐに全力で宿を抜け出し、街の中を駆けていく。
その間にも、後ろに衝撃が起こっている。きっともう、戦いは始まっているのだ。
「死ぬ! 死んじゃう! 死ぬー!!」
『そこを右だ!』
私は先輩の言う通りに軸先を変える。
それでも変わらず後ろでは風や大きな音を巻き起こしていた。
こんなに現実離れしたものが本当に敵の攻撃なのか、少し思うところもあるが、そんなことでスピードを落として御陀仏にはなりたくない。
私は振り返ることなく全力で走っていた。
だが、次の通りで左に曲がる頃にはもう、私の体力は底をついていた。
「や、やばい。休まないと………」
辺りを見渡すと、建物のドアが開いていることに気が付いた。
私はすぐにその建物の中に入る。
入ってみると、敵の人達は全くさっきの攻撃をしてこなくなった。
「た、助かった、のかな?」
いや、きっとまだ外で待ち構えているのだろう。
私が休もうとしたことで、盤面が崩れてしまったのだなと、後悔した。
『後輩、大丈夫か?』
「あ、はい、大丈夫です。まだ行けます」
『そうか、無理はす……』
すると突然、先輩の耳越しの声が聞こえにくくなった。
「え、先輩!? どうしたんですか!?」
いや、違うな。私はそう察することができた。
私が辺りを見渡すと、そこはモノクロで色の黒、白、灰で染まった、昔の映像のような世界となっていた。
「何、これ?」
私がその世界に呆然としていると、後ろから目隠しをされた。
「わっ!」
「だーれだ?」
だ、誰だ? この人。
だけど、どこかで聞いたことのある声だ。そうだ、何処かで………。
「ぶっぶー! 時間切れー」
そう言ってその人は私の前に姿を現した。
その姿は、非常に見覚えがあった。
逆にこんなのと生で会ったら忘れる人はいないだろう、と言うくらいの白色の髪に、ド派手な服。
それは、ここに来る前に最後にあった人間。
私たちをここへ追いやった、あの……。
「どうも! この世界に勤めております、神様です!」
「は、は?」
この人が、神?
神と言うくらいなら、この状況を打破してもらいたいものだ。
そして元の世界に返してくれ。
「ごめんね? 君、ちょっと巻き添え食ったイレギュラーだから、調整が間に合わなかったんだ! はい!」
そう言って神と名乗る男は私に、黄金に光る林檎を投げ渡した。
私は男の方を見るが、どうぞという顔でこちらを見ている。
きっとこれを、食えと言うのだろう。
私はその輝きに、少し不信を抱きながら、一口だけ食べた。
すると、その林檎は輝きを失い、かわりに一瞬だけ私の目が黄金に光った。
「はい、それが僕からのプレゼント! 大事にしてよ?」
すると、モノクロの世界は元に戻り、男も消えてしまっていた。
何が変わったかは分からないけど………。
「このプレゼントで、先輩を守って見せます!」