異世界になんぼはないそうです
俺は何処かも分からない家の中で目を覚ました。
「大丈夫ですか、旦那!」
声が聞こえたので、そっちに体を向けると、十数人の人達が俺が目覚めるのを待っていたようだった。
あぁ、そうだ。たしか俺、『ナチュラルM―2』を降り続けて、降り続けて、どうしたっけ?
だめだ。考えようとすると頭が痛い。
俺が頭を押さえていると、人の大群を掻き分けて俺の前にみらのが現れた。
みらのはベッドに寝ている俺と視線を合わせた。
「か、体は大丈夫ですか、先輩」
「あぁ、大丈夫だ。無事動ける」
そう言って俺はベッドから出た。
俺が立ち上がると、民衆の長が俺とみらのの前に立った。
「有り難うございます、旅の御方。あなた方のお陰で私たちは活気を取り戻しました。誠にお礼申し上げます」
「いやいや、そんなのいいぞ。持ってるものは共有してなんぼだからな」
俺がそう言うと、あちこちから「なんぼ」という言葉に次々と話始め、ざわついた。
「あの先輩、この世界に「なんぼ」はないんじゃないですか?」
「あ、そうか!」
ここは異世界だった!
俺は「なんぼ」に変わる言葉を考えた。
なんぼなんぼなんぼ………。
「持ってるものは共有してこそ価値が生まれるからな!」
ちょっとかっこ良くしてみたぜ。
「価値が生まれる………ハッ!」
その言葉に民衆は動かされ、何故かなんぼコールが始まった。
「なんぼ! なんぼ! なんぼ! なんぼ!」
俺は暫くの間民衆たちとなんぼコールをしていたが、みらのに連れられてその部屋から出て来た。
「な、なんで、あぁなっちゃうんですか?」
「さぁ? というか、俺の『ナチュラルM―2』は!? あれないと飯どころか飲水もままならないんだけど!」
「それなら、さっきの人達がどっかに持ってっちゃいましたけど」
「はぁ!?」
俺はさっき出たばかりの部屋に押し入った。
「俺の水筒、お前らどうした?」
民衆たちは口調を合わせて言った。
「王宮に提供しましたけど」
「はぁ!?」
いや、何言ってるか分からないんですけど。
あれは俺の私物だし、今俺達にはなくてはならない物だ。
それを、王宮に提供しましただと?
何言ってるんだという感じだ。
そうしていると、民衆の長がもう一度俺の前に立った。
「旅の御方、その件については大変申し訳ありません。いつかは埋め合わせもしたいと思っております。ですが、私たちは今、国に提供する物資が尽きかけているのです」
「ん? つまり、どういうこと?」
みらのも、俺を心配して部屋の中に入ってきた。
「それは…………」
俺達は今、この国の王宮の門前にいた。
他の街や建物と比べると、確実に発展しており、ここだけ見ると栄えているというようにも見える。
「すいませーん、だれかいませんか?」
そう言うと、何も返事がない。誰も、いないのかな?
俺はそう思い、腕の手首辺りを押した。
「でも先輩、この門には南京錠がかけられてます。どうします?」
「関係ないね!」
俺は門を強く殴った。すると、その門は強い衝撃を受け、王宮方面に飛んだ。
「と、飛んだー!」
みらのはそう感嘆の言葉を溢した。
「こんなの余裕だって!」
だが、みらのは心配しているようだった。
「結構凄い音してましたけど、大丈夫なんですか?」
みらのは俺の腕を調べようとするが、俺はそれを払った。
「だから何ともないから!」
そう言うと、みらのは引っ込んでしまった。
王宮の方から、衛兵達が現れ、俺達を取り囲んだ。
「………やっぱ誰かいるじゃん」
「まぁ予想はしてました」
衛兵の代表が前に出て言った。
「貴様らは何者だ!?」
俺はニッと笑って答えた。
「通りすがりの異世界人でーす」